第1話 襲撃
銀の髪から滴る汗をぬぐいながら村の通りを歩く童顔の少年に、声が掛かる。
「お、アル。おはよう。今日も精が出るな!これから何の仕事だい?」
「コレアおじさん、おはよう!うん。これから薬草を摘みに森に行ってくるところだよ!」
「そうかい、そうかい。あんま無理すんなよ?なんかあったらこのコレアおじさんに任せな!」
いつもと変わらぬ朝。質素な朝食をかき込み、村の皆の手伝いを聞いて回るのがアルの仕事であった。
今日は村長から薬草摘みの仕事を依頼されている。
「アルちゃん。おはよう!」
「あ、テレサ姉さん。おはよう」
「今日も暑いわねぇー。アルちゃん、体弱いんだから、しっかり水飲んで、ちゃんと休憩を――」
「――もう、大丈夫だって。体のことは僕が一番わかってるから。でも、ありがと!行ってきまーす!」
「気を付けるのよー」
アルは生まれつき体が弱かった。体力を激しく消耗するような仕事はもちろん、下手すれば日常生活でも息が上がってしまう。
しかし、自身の生い立ちを恨むこと無く、懸命に働き生きる姿は輝いており、村の住人達はそんなアルを愛していた。
もちろんアルもこの優しい村が大好きであった。
(今日は体の調子が良いから、ちょっと多めに薬草を摘みに行こうっと!)
こうしてアルはいつもの森に入っていった。
―
――
―――
薬草を摘み始めてだいたい30分くらいが経った頃、突然鐘の音がけたたましく鳴り響く。
「えっ?この音……緊急を知らせる音だ!」
村の危機を悟ったアルは、摘んだ薬草もそのままに、急いでザイン村へと戻った。
息を切らせて村まで戻ると、そこにいつもの平和なザイン村は無かった。
――いやぁぁぁぁぁ!!
――テレサ!そっちに行くな!グハァッ!
――だ、誰かッ!助け痛い痛い痛いいいぃぃ!
「どうなってるんだ……」
木陰に身を隠しながらも、思わず声が出てしまった。村は巨大な蟲に襲われていた。
「これが……もしかして食人巨蟲マンイーター!?で、でも何でここに!?」
この場に居るはずのない化け物が、目の前で村のみんなを殺している。
(テレサお姉さんがっ!あっ、コ、コレアおじさんも!やられてる……みんなが、みんなが!……どうして)
バッタのような顔と体に、黄色と黒色の縞模様。お尻の部分は蜂のように膨らみ、先端の針を常にヒクヒクと動かしている。
食人巨蟲マンイーターたちは標的を見つけると、凶悪な噛みつき攻撃を食らわせ、瀕死になったところへお尻の巨大な針を人の腹部に突き刺していた。
突き刺された人は、まるで人形のように力なく地面に横たわっていく。
(アレが食人巨蟲マンイーター……話には聞いてたけど、デカい)
今年で15歳になり、成人の儀も終えたアルの身長は170cm。
そんなアルと同じ背丈の食人巨蟲マンイーターが暴れまわり、1人、またひとりと知った顔が倒れていった。
(これは夢か!?夢なら覚めてくれ!あぁ……あぁ……やめて……くれ。これ以上、殺さないで……くれ)
アルは今にも倒れそうな足取りでフラフラと村の中へと入っていく。
徐々に状況が把握できてくると、アルの頭の中に燃えるような赤黒い怒りの感情が湧き上がってくる。
「やめろ……やめろって。やめろよーッ!」
叫びながら飛び掛かろうとしたアルの耳に、年季の入った怒鳴り声が入ってくる。
「アル!!待てぇい!」
「はっ!そ、村長!これはどうい……」
「こっちに来てはならん!」
村長は対峙していた食人巨蟲マンイーターを鬼気迫る表情で切り払ってから、こちらに駆け寄ってきた。
アルが呆気にとられているのもお構いなしに、アルの腕を引っ張り、村とは反対方向へ走っていく。
普段は見せない村長の表情にアルが戸惑っていると、村長はポツリ、ポツリと話し始めた。
「ワシにも分からん……。奴らは突然、そう。何の前触れもなく現れて、村を襲い始めたのじゃ」
「……」
「この村は……いやこの村だけではない。大陸内の全ての村は、食人巨蟲マンイーターの活動範囲外に作られている。安全なはずなのじゃ!なのに、なぜ!」
語気の強まりと同時に、アルの腕を握る手にも力が入った。
初老の男とは思えない丸太のように太い腕と肉厚な手は、力加減を間違えればアルの細い手首など、簡単に握りつぶすだろう。
「はぁ、はぁ、村長、これからどうするの?」
息を切らしながら、アルが聞く。
「とりあえずは村から離れるのじゃ。急な襲撃じゃったが、ギルド宛てに救難信号を送ることはできた。なんとか時間を稼い……」
村長の言葉が不自然に途切れた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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