迷
康次は走り続けていた。
異様に暗い、暑すぎる通路をハァハァと息を切らしながら…。
もぅ何時間走っているのだろうか。
いつまでたっても出口が見えず、康次は腰に手をあててその場に立ち止まった。
「…ど、どうなってやがんだ…?」
康次は走って来た道を振り返った。闇だった。
急に頭上でバサバサと音がし、康次は驚いて上を見上げた。
「…こ、蝙か…ちくしょう、脅かしやがって…!!」
康次はまた前を向き、歩き始めた。
「…ん?前…」
康次は呟いた。
「…俺は今、どっちに進んでるんだ…!?」
康次は立ち止まり、首を前後左右に振った。
「…俺は今、どこにいるんだ!?」
康次の顔から血の気が失せ、代わりに恐怖感が募り始めた。
ふいに、康次の頭上からせせら笑いが聞こえてきた。
「誰だ!?」
康次は頭上に向かって叫んだ。
だがその笑いは止まることなく、だんだんと大きくなっていき、康次の頭の中から聞こえてきて、やがて高笑いへと変わっていった。
康次はその場に崩れ落ちた。耳を塞ぎ、首を激しく振り、呻いた。
「やめろ!!やめてくれ!!やめてくれぇ!!!」
…声は止んだ。
だが代わりに天井が崩れ、いくつもの岩や石が、康次の頭上に降り注いだ……
「…遅い!!何やってんだ!?」
岩に座った洋介はまだ帰ってこない2つの班に苛立っていた。
「ホントだな…。かれこれ3時間はたつんじゃないか…」
竜が心配そうに言った。
諒子が口に丸めた手をあてた状態で、
「…ひょっとして、何かあったのかも…」
と言い、他の4人の顔を見た。
「探しに行くか…!!」
洋介はゆっくりと立ち上がり、右のほうを向いた……
康次たちの班が行った方角へと進んだ洋介たちは、目の前にある死体と瓦礫の山を見て、目を疑うしかなかった。
腐った死体が放つ異様で独特な匂いに、5人は顔を歪めた。
「………ひでぇ…」
強はゆっくりと山に向かって進んでいき、山の上に登っていった。
死体を踏ん付けて登っていく強の光景はそれこそ異様だった。
「…見ないほうがいいわ。」
諒子は茜を優しく抱き締めた。
強は瓦礫や死体を素手でどかし、掘り続けた。
「…なんかあると思ったが…なんもねぇな…」
強は舌打ちし、ゆっくりと降りようとしたその時、
何かに足首を掴まれた。
「うわぁ!!」
強は足首を掴んだ手を振りほどき、その手を踏み付けた。
「コノヤロウ!!てめッ…!!」
強は何回もその手を踏み付け、やがて手がぐったりしてゆっくりと落ちた。
「なめやがって!!」
強は手に向かって言い放ち、足早に山から降りようとした。
その時だった。瓦礫の中から声がしたのだ。
「…その声は…つよ…しか…?」と。
強は驚いて振り向き、ぐったりした手がまだピクピク動くのを見て、その辺りを掘り返した。
強は見つけた。
衰弱しきった仲間の顔を。
強はもう虫の息の仲間を、必死に山から掘出した。
体はズタズタに切り裂かれ、肌の色は真っ青になってしまった変わり果てた康次だった……。