死闘
「和也ぁー!!」
孝志は水面に向かって大声で叫んだ。
しばらくすると、巨大な触手に絡まった和也が水から出てきた。
「和也!!手を伸ばしなさい!!」
触手は一層絡まり、和也は呻いた。
「おのれ…和也を離せ!!」
孝志は仕込み杖をとり、触手に切り付けた。
「ぎゃああぅお!!!!」
水面から叫び声がし、和也は水面に落とされた。
孝志は和也に「手を伸ばせ!!」と叫ぶと、和也の手を掴みひっぱりあげようとした。
しかし和也の体にまた、いくつもの触手が絡みつく。
刄を突き立て触手を何度も何度も振り払い、やっとのことで和也を助けだした孝志は息をついた、その刹那…
今度は孝志に触手が絡みつき、水の中に引きずり込んだ。
孝志は水面に浮かんだ杖を掴もうと必死にもがいたが、杖は水の中へと消えていった。
「孝志さん!!」
和也は起き上がり、手を伸ばした。
「孝志さん、掴まってください!!」
和也は必死に手を伸ばす。
「ばっ、馬鹿もん!!引っ込めろ!!触手が絡まる!!」
孝志は和也に叫んだ。
「和也、お前もこの事を洋介たちに報告しに行きなさい。ワシなんぞにかまうな…。」
和也は腕を引っ込め、立ちすくんだ。
「生きろ、和也…。蘇り、自分のやりたいように生きろ…。お前は、まだ若い…さぁ、行け…!!」
和也は孝志の言うことに従い、振り替えって元きた道を歩きだした…その時!!
またもや振り返り、助走をつけて泉に向かって走りだした……。
「おぉぉぉぉ!!!!」
和也は叫んだ。
「孝志さんを返しやがれぇ!!!!」
「よせ!!和也!!!!」
孝志が叫び終わる頃には、和也の体は宙に浮いた後だった。そしてそのまま泉に落下した。
「か、和也…この馬鹿野郎!!!」
和也の体にも数千もの触手が絡み付き、力なく水に浮く和也に対し、孝志は叱咤した。
「す、すいません…でも、俺、孝志さんを助けたくて……」
和也の体はゆっくりと沈み始めた。その時、孝志はすべてを察知した。
この泉自体が生きものだったのだ。この泉では抵抗すると触手の締め付けが強まり、浮かぶものは沈んでいき、この泉の体の中に入る…そんな具合かと…。
「た、孝志さん…」
和也がゆっくりと手を伸ばした。孝志はその手をしっかりと握り締める。
「…洋介さん、怒るかなぁ…?」
和也は涙を浮かべ、孝志の顔を見た。孝志も涙を浮かべて、
「…当たり前だ、馬鹿もん…!!」
涙が頬を伝った…。
「…すいま…せん…」
和也は微笑み、ゆっくりと水の中に消えていった…。
「…ワシも…すぐにいくよ…」
孝志は和也が沈んだあたりに向かって微笑み、ゆっくりと天井を見上げ、目を閉じた……。
【残り9人】