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Last Smile  作者: 町田竜祐
19/22

記憶

洋介は大介から1冊の厚いノートを渡された。ブラック・イレブンの調査ノートだ

った。

洋介は壁に寄り掛かり、ゆっくりと開いた。

仲間の顔を見るたびに自分の脳に爆発が起こる。

康次、諒子、竜、強、謙治、孝志、絵里、広一、和義、和也……

ページをめくるたびに洋介の脳内に仲間とのすべての記憶が蘇る。

生前のことだけではない。あの世界でのことも蘇ってくる。

洋介はノートを読み終えゆっくりと閉じた。

上を見上げ溜め息まじりに呟く。

「…俺は…蘇ったのか…」

 

 

次の日、大介にこのことを伝えた。

「にわかには信じられない話ではあるが…」

大介はゆっくりと顔を手で覆った。

「信じよう…!!お前は確かにあの日死んだ。だが今、こうして俺の前に現れた。

蘇ったということを…!!」

洋介はゆっくりと大介を見つめた。

「だが…まだ俺の記憶に影がある。1人の少女のような気がするんだが、俺のほう

をずっと見つめている…。」

大介は目を細めた。

「それは…松崎茜さんのことか?」

洋介は目を見開いた。

「…茜…茜…!!」

洋介は立ち上がり、机に手をつき、身を乗り出した。

「茜の顔は!?」

大介は目を瞑り、ゆっくりと首を振った。

「…今はない。署にはあるが、俺には監視がついている。滅多な行動はとれん。

洋介はゆっくりと座り、「そうか…」と一言だけ言った。

大介は洋介の顔をじっと見ていたが、ゆっくりと口を開いた。

「俺に話してくれないか?その蘇りの試練というものを…。」

洋介は大介の顔を見、机に肘をついた。

「信じられるか?」

大介は口元で薄く笑みを浮かべた。

「あぁ!!」

 

 

大介は洋介の話を聞き入った。その現実離れした話にある時は頷き、ある時は驚

き、ある時は目に涙を浮かべた。

洋介が話終わった後、ゆっくりと口を開いた。

「…つまり、お前は殺してきた罪を償うため、今度は世界中の人々のためになる

人生を送りたい、だから、蘇りの試練を受けたという訳か…」

大介は腕を組み、斜め上を見上げた。

「そのために…そのお前の夢のために…仲間全員は命を落としたというのか…」

大介は目を瞑り、二、三度頷いた。急に声をひそめた。

「最後まで戦おう。お前には遺伝子に変化が起こってるかもしれない。お前が黒

沢洋介でないなら死刑を免れることができる。」

大介は席を立った。

「仲間の死を無駄にするな…。」

ゆっくりと部屋から出ていった。




 

 

それから、洋介は何日も何日も自分の心に問い掛けた。

正しいこと、やるべきこと、信じるべきこと…

問い掛けるたびに、仲間たちの顔が浮かんでくる。

洋介に向かって微笑んでいる。

ゆっくりと洋介は目を閉じる。

仲間の顔が遠ざかって消え、光になる…。

 

洋介は薄らと微笑み、ゆっくりと目を開ける。

仲間たちがいなくなった心のキャンパスを見つめる。

その目には覚悟を決めた光が宿り、やがて、消えていく…。

 

 

 

ついに、洋介の初公判の日がやってきた。

洋介は証言台に立つと、目の前を直視した。

様々な人の声が耳元を擦る。だが、洋介の頭には届いていない。洋介は黙って目

の前を見つめていた。

 

…いや、違う。

洋介は心の中を見つめているのだ。

仲間達が微笑み、遠ざかって消えていくあの幻を…。

「被告人!!!」

裁判長の呼び掛けでふと我にかえる。

「質問に答えなさい。」

洋介はゆっくりと目を上に向け、裁判長の顔を見つめる。

「DNA鑑定の結果、黒沢洋介と一致しています。」

どこからともなくまた誰かの声が聞こえる。また耳を擦る。

「被告人!!!」

再び裁判長が声を荒げて呼び掛ける。

「あなたは黒沢洋介ですね?…ですね?…すね?」

左から聞こえてくる声が何度もコダマする。耳に届くが、頭には届かない。洋介

はまた心の中の幻を見つめる。10人の仲間、そして1つの影……。

「ふざけないで!!」

傍聴席から1人の中年の女が立ち上がり叫んだ。両手にはなにやら写真を持ってい

る。遺影…か…。

「静粛に。」

裁判長は女を諭した。だが女は続けて叫んだ。

「茜を殺したのはあんたでしょ!?」

 

洋介はゆっくりと傍聴席の立ち上がってる女の抱えている遺影を見た。

優しい笑顔をした少女が写っている。

洋介は目を見開いた。洋介の脳内に爆発が起こり記憶が戻る。

洋介は口元で薄く笑い、ゆっくりと裁判長に向き直った。

「私が黒沢洋介です…。」

洋介は一言、はっきりと言った。裁判所中にざわめきが起こる。

傍聴席で大介は思わず立ち上がった。「…なぜだ…」大介は小さく呟く。

続けて洋介は言った。

「…松崎茜さんを殺したのは私です。」

裁判所中のざわめきがより大きくなる。

「この人殺し!!」

女は叫んだ。「茜を返して!!」

「静粛に!!!」

裁判長が必死に鎮めようとする。

しかし、この一言に驚いたのは大介だった。

「待ってください!!」

大介は思わず声をあげた。

「松崎茜さんを殺したのは私です。」

大介のこの一言にざわめきが最高潮に達した。

洋介はゆっくりと後ろを振り向く。大介の瞳と交錯する。

「…私が撃ち殺してしまいました。申し訳ございません。」

大介は頭を下げた。

洋介は目を細めた。そして再び裁判長を振り返り、意志の籠もった声で言った。

「松崎茜さんを殺したのは私です…。」

大介は目を見開き、バッと顔を上げて叫んだ。

「洋介!!お前は真実だけを話せばいい!!松崎茜さんを殺したのは私ではないか!!

洋介は何も言わず、目の前を見据えた。

「静粛に。」

裁判長は大介を諭す。…が、大介は洋介の背中に叫び続けた。

「俺の罪をお前が被る必要はない!!松崎茜さんは俺の銃撃で…」

「静粛に!!」

裁判長は声を荒げる。だが、大介には聞こえなかった。

「俺の放った弾が、あの子に当たったんだ!!それなのに、なぜ、お前が罪を被る

んだ!!」

裁判長は2人の警備員に目配せした。警備員は大介の左右に立ち、大介の腕を掴ん

だ。

「退廷!!」

裁判長は冷たく言い放った。大介はなおも洋介の背中に向かって叫び続けた。

「俺の罪まで被って、自分1人の命で済まそうだなんて…そんなの俺が許さんぞ!!

洋介!!洋介ぇぇぇ!!!」

大介が後ろのドアから警備員に連れられ出ていった。

洋介は何の感情も持たない目で、ジッと前を見据えていた。

 

「…見苦しい…!!」

同じく傍聴席にいた佐藤警視長が吐き捨てた。

「もはや、警察の恥だな…!!」

佐藤は大介が出ていったドアを睨み付けて罵った。

「…あの男…精神鑑定が必要なのでは…?」

佐藤の隣に座っていた男が耳元で囁く。

「…ふん」

佐藤は馬鹿らしげに鼻で笑った。

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