Last Smile
光を突き抜けると、そこはまだ神殿の長通路だった。
茜の手を取り、洋介は走った。
崩れ落ちてくるものがだんだんと大きくなってくる。
洋介に様々なことが浮かんできた。
生前のこと…
この世界に初めて来た時のこと…
この神殿で誓い合ったこと…
康次の最期…
諒子と洞穴の中で交わした誓い…
狂った謙治の顔…
強の叫び…
諒子の涙…
不気味にこだました目の言葉…
竜の最期に見た顔…
すべてが洋介の脳裏をかすめ、洋介は手で涙を拭った。
そしてもう一方の手にしっかりと茜の小さな手が握られているか確認した。
茜が生前、自分に発砲された銃弾の前に現れ死んでいったあの姿が思い出された。
『この子には蘇ってもらいたい…!!たとえ、俺の命に変えても…!!』
洋介はそう強く思って、キッと前を向き直った。
しばらく走るとまた光が見える。
「…あれは?」
洋介は駆け抜けた。茜も続く。
すると先程までの場所とは違って、ここはもの静かだった。
天井が揺れる音さえしない。
洋介と茜はゆっくりと歩きだした。
しばらくすると、光り輝く円形の穴が見えた。
「これだ!!」
洋介は覗き込んだ。
「深いな…」
洋介は足をゆっくりと入れようとすると、天井が揺れ始めた。洋介はまったく気がつかない。
「とにかく入ろう!!さぁ、茜!!」
洋介が手を伸ばしたその時…
「危ない!!」
茜は洋介を穴の中に突き飛ばした。
茜の下半身に天井から落ちてきた巨大な岩がのしかかり、茜は呻いた。
「茜?」
洋介は手を差し伸べた。
「危ないところだった!!ありがとう!!さぁ、はやく乗れ!!」
茜は動こうとしたが、まったく動くことができなかった。
茜はそっと目を閉じて、目の前に出されて揺れる洋介の手を握り締め、優しく微笑んだ。
「茜?」
茜の体が消えていく。いや違う、消えていくのは洋介のほうだ。
円形の床はだんだんと下降していく。
洋介は涙を浮かべて叫んだ。
「お前はまた…俺のために犠牲になるのか…!!」
茜は優しく微笑み続けた。茜の頬を涙が伝い、そっと落ち、それが洋介の頬に優しく当たった。
洋介は遠ざかる茜の顔をいつまでも見つめていた。
そしてだんだんと音も何もかも聞こえなくなり、目の前も霞んでいき、やがて闇に変わっていった……。
【蘇生1名】