神殿内部
洋介は跪いたまま動くことができなかった。
竜はしばらく何も声をかけなかったが、しばらくして「行くぞ」と言った。
洋介はまったく動かなかった。涙が止まらなかった。諒子との今までの思い出がつぎつぎに浮かんできた。
そんな洋介を竜が胸ぐらをつかんで無理矢理立たせて叱咤した。
「何のために諒子が犠牲になったかわかってんのか!?」
洋介は竜を涙目で見つめた。
「お前は諒子のためにも蘇らなきゃならねぇんだよ!!」
竜の言葉を聞き、洋介は目を閉じ、そして服の袖で涙を拭き、「…行くぞ!!」と言って神殿へと乗り込んでいった。
神殿の中は薄暗かった。
だが、来たときに比べると何かが違う。
邪悪な闇に包み込まれているような雰囲気の中で、3人は音を殺して進んでいった。
しばらくすると見覚えのある部屋に出た。
すべてはここで12人で始まった…が、今ここにいるのは3人だけである。
そう思いながら洋介はゆっくりと前に歩いていった。
その時、何か音が聞こえだした。
「何だ?」洋介はそう思うとハッとして後ろを振り返った。
2人がいなかった。
「な!?」
洋介は戻ろうとして1歩踏み出したその時、床に大きな穴が空き、下へと落ちていった。
洋介はゆっくりと目覚めた。
どれくらいの時間気絶していたのだろう…。
そこは不気味な闇で、ところどころ青白い光が走っている。
「竜ぅぅ!!茜ぇぇ!!」
洋介は叫んだが、それは闇の彼方に不気味にこだまし、消えていった。
「チッ…」
洋介は舌打ち一つするとゆっくりと歩きだした。
洋介は壁に手をかけ、ゆっくりと前進した。
その壁は生暖かく、柔らかく、まるで生きているかのようで、膨らんでいる部分や平らな部分など様々な形だった。
「なんだよ、この壁は…」
洋介が闇の中壁を覗こうとしても何も見えず、洋介は先に落ちたであろう2人の名前を叫ぶしかなかった。
ふいに洋介はバランスを崩した。壁に穴が開いていて、その中に手を入れてしまったのだった。しかしその穴には上下にごつごつとした堅いものがあり、奥に伸ばそうとしたが届かなかった。
「なんなんだよ…。」
洋介はそれでも手は離すまいとして壁伝いに歩いた。
不気味な青白いライトが怪しく動く。
闇を明るく照らしだすものではないが、少し明かりがあることは洋介にとってはありがたかった。
その青白いライトが洋介のすぐ前を通過して、反対方向の壁を照らす。
青白いライトが反対側の壁を照らすのを見た時、洋介はゾッとした。
洋介は今自分が何に触れているのかわかった。
………人間の…顔…?
洋介は先程の穴を思い出した。
上下についた堅いものが歯だとしたら…
そして今までの手首に残る感触を思い出した。
でっぱっていたのが鼻…
平らな部分がでこ…
指が吸い込まれそうになったのが閉じた唇…
洋介は手を壁から離した。
洋介は震えた。青白い光が照らす壁はすべて人の顔で埋め尽くされていた。
「ぅわあぁぁあぁぁ!!!!」
洋介は走った。走って走って走り続けた。
左右も見ず、目を瞑り、ただひたすら走り続けた。
そうして着いた場所…。
床に無造作に投げ捨てられたバズーカ砲に似た銃器。
光が反射し壁を映す。
大きな目が一つ、壁に不気味に埋め込まれている、ゾッとするような部屋だった……。