(短編版)会ったこともないけど好きなひとの話をしていたら、先輩の反応がだんだん不自然になってきた。
親愛なる エルヴァスティ伯爵
早いもので、私から伯爵へお届けする学院生活の定期報告も、今回で最後となります。
養護院にいた私を伯爵が見つけて、このアルクラ魔法学院へ入学手続きをしてくださってから十年。
伯爵から提示された学費及び必要経費援助の条件は、毎月の出来事を手紙で報告すること。たったそれだけで、私は何不自由なく勉強に励むことができました。
尊敬できる先生や先輩、たくさんの仲間にも恵まれ、最高の時間を過ごすことができたと思います。
就職は王立魔法研究所に決まったというのは先にお伝えした通りです。幸いにも所員寮があるので、学院卒業後は、学生寮からそちらへ移り住む予定です。
いま、ほとんど片付けてしまった部屋でこの手紙を書いています。
最後なので、たくさん書きたいことがあったはずなのに、いざとなると気持ちばかりが先走って、全然うまく書けません。
伯爵は私の身内ではありません。そもそも物心付いたときから親兄弟といったものがなかった私には身内というものがよくわかりません。そのせいなのか、後見人である伯爵との距離感も掴めないままでした。
一度もお会いしたことがなく、お顔も知らない伯爵への思いを、なんと言うべきなのか。「感謝」であり「敬愛」であり、恐れ多くも両親や家族といったものに重ねたこともありました。
いまも私の中では掴みきれないでいます。
そして、この手紙をもって、伯爵とのつながりが完全に終わると考えると、いよいよいても立ってもいられない気になるのです。
思いはずっと胸にあって、打ち明けたらご迷惑なのは重々承知していたのですが、いまここでお伝えしなければ私は生涯後悔し、あなたの影を探し続けることになるでしょう。
私が調べた限りこの国の貴族に“エルヴァスティ伯爵”という方はいないようです。
勝手に探って申し訳ありません。しかし現に私の学院生活は伯爵を名乗る方の援助で成り立っており、毎月書く手紙にもお返事を頂戴してきました。であればどこかに“エルヴァスティ伯爵”に該当する方がいらっしゃるのは疑いようもなく真なのだと思います。
叶うのであれば、一度だけお目にかかりたいのです。
たとえそれで私があなたの正体に気づくことがあっても、誓って吹聴することなどありませんし、すべてこの胸に秘めて終わりにします。
厚かましいのは承知で、お願いしております。手紙ではなく、たった一言でも、言葉を直に交わして頂くことはできませんでしょうか。
あなたの養い子 ソロモンより
◆ ◆ ◆
「無理……です」
王立魔法研究所の所員寮の一室。勤務二年目の研究員ミリヤは、流麗な筆致で切々と書かれた便箋を片手に呟いた。
差出人は、恐るべき才覚で魔法学院入学以来首席を維持し、数日前に卒業した学院生ソロモン。
孤児で養護院に保護されていたが、十年前、“エルヴァスティ伯爵”に見出された。伯爵は彼が強い魔力を秘めていることを見抜き、後見人を名乗り出て学院へ入れて、卒業まで面倒を見てきたのである。
見返りは月一回の手紙のみ。卒業まで。
その最後の最後で、ソロモンは伯爵に対して「ずっと会いたかった」と熱烈な思いを打ち明けてきたのである。
ミリヤは大きなため息をつき、乱雑に散らかった自分の机の上に“エルヴァスティ伯爵”宛の手紙を置いた。
(ソロモン、さすがに優秀ね。伯爵が存在しないことまですでに調べてある。それでも会いたいと……)
ミリヤも二年前までは学院に在籍していたので、ソロモンのことはよく知っている。
彼のひとは、学院ではその優秀さもさることながら、水際だった容姿で男女問わず注目を集め、とかく羨望の的でもあった。
すらりと若木のように伸びた長身、黄金比を思わせる頭身のバランス。夜闇の髪に、凛々しい眉、切れ長の目。まっすぐの鼻梁や唇は形がよく、蠱惑的な声は鍛えているかのように透り、涼やかに響く。
少し離れた位置にいても、彼の存在はすぐに気付かされた。
それでいて、女性関係で浮いた噂ひとつなかった。
誰に対しても丁寧に接し、優秀さをひけらかすことなく、礼儀正しい距離を保っていた。
その彼が、たとえ「恋愛」の意味でなくとも、これほど思いを寄せる相手がいると漏れたら、蜂の巣をつついた騒ぎでは済まないだろう。
もっとも、彼が会いたい“エルヴァスティ伯爵”は彼の調べの通り、存在していない。
ミリヤは引き出しからまっさらの便箋を取り出し、ペンを構えて何度目かのため息。
どうしても文字を書き出すことができない。
書くべき内容は決まっているのに。「会うことはできません」それ以外に無い。
(“エルヴァスティ伯爵”だったおじいさまが亡くなって、もう三年……。そのときに文通はやめてしまえば良かった)
架空の名前で養護院を支援していたのは、魔道士であったミリヤの祖父。
ソロモンの才能を見抜き後見人になったときには、すでに視力がかなり落ちていた。ソロモンへ唯一の約束事とした月一回の手紙も、自分で読むのはかなり困難な状態であった。そこで孫娘であるミリヤが祖父のもとに通い、手紙を読み上げて、返事を代筆してきていたのである。
その祖父も三年前に亡くなっている。
ミリヤの祖父は、自分が死んでも彼の卒業までは支援できるように遺産の整理をしていたので、月一回の定期報告を取りやめてしまってもなんら問題はなかった。
ただ、ソロモンは毎回の手紙で学院生活を実にいきいきと綴ってきていた。そこには、伯爵を親のように思慕する姿も透けて見えていた。「エルヴァスティ伯爵を名乗っていた人物はすでに亡くなっているので、手紙は中止して構わない」とミリヤから返事に書いて出すことは、どうしてもできなかった。
――学院では特別接点があるわけではないし、字を見られることさえなければ、自分の手紙の相手が私だとは気づかれない……。
約束の手紙は学院長を通してミリヤの元に届けられていたが、ソロモンから相手を追求してはいけないと伝えてあった。彼はそのルールを守っているはず。そして架空の“エルヴァスティ伯爵”を通したやりとりは彼の卒業のタイミングで幕引きにする、そのつもりできた。
(会うのは、無理だよ。十年近く同じ学院内で一緒に過ごしていた学生で、これからは仕事上の先輩後輩になるたった二歳差の女が、自分が親のように慕ってきた“エルヴァスティ伯爵”だなんて知りたくないでしょ)
手紙は一番初めからミリヤが受け取って読み上げ、返事を代筆してきた。祖父が死んでからは返事の内容そのものもミリヤが考えて書いていた。自分のことは極力書かないできたが、ソロモンのことは彼が長々と書いてきた手紙の分だけ、他の誰よりも知っている。
たとえば学食での彼の好物が豚肉のアプリコット煮やうさぎのバター焼きであること。パンケーキにメープルシロップをふんだんにかけて食べる贅沢が養護院では考えられないことで、いつもさりげなくひとの二倍シロップをかけて食べていたこと。アボカドのラズベリーソースがけは、素知らぬ顔で食べているけどいまだに理解できず苦手であること。
甘党で、紅茶にはたっぷり砂糖をいれて飲みたいけど、最近は人前では避けていること。「特徴的な飲み方をすると、それが私の好みだと覚えようとする相手がいて、何かと構おうとしてくるのが得意ではなくて」と書いていたが、これは「ソロモンの、いつもの」を探ろうとしている周囲の女性を疎ましく思っているという意味に違いない。
食べ物だけではなく、彼が好んで読んでいた本も全部知っている。面白かったと書いてくればミリヤも読むようにしていたし、ミリヤからすすめた本もある。学院の図書館で彼が手にしているのを見かけ、次の手紙に感想を書いてくると、読みながら相好を崩していたものだ。
架空の“エルヴァスティ伯爵”としてミリヤが彼と積み重ねた時間は誰よりも濃密だった。
それでいて、現実の二人はろくに言葉を交わしたこともない。ミリヤは「真面目が取り柄のぱっとしない先輩、実家は貴族階級で資産はあるがミリヤ自身は跡継ぎではなく堅実に働くだけ」の身の上であり、ソロモンは「飛ぶ鳥を落とす勢い、将来有望の若手魔道士」だ。
(ソロモンはまさか相手が、これから頻繁に顔を合わせる同じ職場の先輩とは想定していないだろうし。知らないまま終わらせた方がお互いのために良いはず。それに、たぶん、ソロモンには好きな女性がいる。はっきり書いていたわけじゃないけど、普段の友達のことはあけすけに書くのに、妙にぼかして「また笑顔を見たいひとがいる」って。あれはたぶん……。そんなことを私が知っているなんて、知られるわけにはいかない、絶対に)
悩みに悩み抜いて、ミリヤは最後の手紙に返事を出すことをしなかった。自分の中で「もともと返事には数日かけていたし、卒業して寮を引き払ってしまったから、伯爵からは出さなかったことにしよう」と散々言い訳をしていたが、明確に断って彼を落胆させることに躊躇いがあったのは否めない。
すべてを有耶無耶に。
これで良かった――いや、これしかなかった。
言い訳とともに、ソロモンからの最後の手紙は、寮の自分の机の引き出しの奥に仕舞い込んだ。
* * *
「ソロモンです。『水』属性で学生時代力を入れていたのは氷魔法です。卒業研究は意識層と潜在意識層の意識的連結及び、観念連想の原理を中心に進めてきました。研究所でも主にこの分野で、魔道士の精神鍛錬と魔力量の関係性を追求していきたいと考えています。よろしくおねがいします。先輩のことは、ミリヤ先輩とお呼びして良いですか?」
魔法研究所に入所し、新人歓迎の式典を終えた後。
配属を伝えられたソロモンは、部署の先輩にひととおり挨拶をしてから、指導係である二年先輩のミリヤの元へと向かった。
挨拶をして手を差し伸べると、ミリヤは視線を泳がせながら、なかなか手を出してこない。
亜麻色の癖っ毛に、空色の瞳。童顔で年齢不詳。その顔をぶしつけなほどしっかりと見つめつつ、ソロモンは声に出さずに唸ってしまった。
(やっぱり年下に見える……。研究所に入っているだけあって、学生時代ものすごく優秀で名前はよく聞いていたけど、実物見るとこの可愛さで……。学業以外にもよく名前が挙がっていた、男子学生の間で)
いわゆる庇護欲をそそるタイプで、はきはきした物言いと黙っているときの人形のような見た目のギャップが大きい。男子学生の間では「高嶺の花」として語られていたのが印象的だ。
一方で、ソロモンにはやや苦い思い出がある。
学院に入学当初、ソロモンは裏庭でミリヤを見かけたとき、てっきり学院に迷い込んできた子どもと勘違いをして「ひとり? おとなのいるところまで連れていくよ」と声をかけてしまったのだ。
もう十年も前のことなので、ミリヤは忘れてくれていると願いたいが、当時は先輩だと言われてもぴんとくることなく、「危ないからお兄さんについてきて」と言い張り……。年上で学院の先輩だと知ったときは、ひたすら謝り倒したものだった。
養護院出身ということもあり、小さな子を見ると「世話をしなければ」という気持ちが先に立ってしまう。そんなこと、貴族のご令嬢であるミリヤに言っても理解されないかと思ったが、「ありがとう」と柔らかに微笑まれて受け入れられてしまった。
以来、意識の隅でミリヤのことはずっと気にかけていたが、積極的に話すことはないまま先に彼女が卒業した。
恋愛とは言えないものの、もっと話してみたかった、という思いは誰にも打ち明けることもないまま……。
(唯一心を許せる相手であった伯爵への手紙に、ときどき名前を出さず「笑顔が素敵で気になる相手」として書くことはあったけど……。まさか卒業後、こんな風に関わることになるなんて。伯爵、「気になる相手」といま同じ職場で、先輩後輩として顔を合わせています。今度は、あの頃よりも話す機会がありそうです)
心の中で、癖となっている“エルヴァスティ伯爵”への手紙を綴りかけて、ソロモンはふっと笑みをもらした。
伯爵へはもう手紙を書くことはない。最後に勇気を出して「会いたい」と申し出たのが機嫌を損ねてしまったのか、返事もないまま終わってしまった。
そしていま。
差し出した手を、ミリヤは握り返すこともない。ソロモンは気まずさに苦笑いを隠しきれないまま手を引っ込めようとした。
そのとき、がばっと身を乗り出してきたミリヤが両手でソロモンの手を掴んだ。
「ご、ごめん。ソロモンくんがうちの部署にくると思ってなくて、びっくりしてて。よろしくお願いします!」
きらきらとした瞳に見上げられて、ソロモンは「こちらこそ」と短く返事をした。ミリヤはにこっと笑って手を離す。
「学院で顔を合わせたことはあるけど、あまり話すことはなかったよね。新しい環境でわからないこともたくさんあると思うから、遠慮せずになんでも聞いて。ただ……」
「なんですか?」
「私、字が下手で。書類関係は極力見ないで欲しいんだ。変なお願いでごめんね。でもどうしても」
そんな弱点が? と妙にひっかかるものを感じながらも、(そういうものかもしれない)と思い直し、ソロモンは「わかりました」と神妙に答えた。
「もし必要があれば、俺が代筆もします。初めのうちはご迷惑をおかけすることも多いかと思いますが、できることはしていきますので、先輩も俺にたくさん仕事を振ってください。やります」
「頼もしいなぁ。ソロモンくんは年下なのに、気持ちはあのときみたいに『お兄さん』のまま……」
言いかけて、ミリヤはハッと息を呑んだ。しっかり聞いてしまったソロモンは、片手で目元から額を覆うようにして低く呻いた。
「覚えてましたか。最初の……」
「う、うん。顔を見たら思い出しちゃった」
「忘れてください。大変失礼しました」
「いやいやいや、そんなことないよ? だけど思い出話ばかりしていられないからね、早速仕事の話をしよう」
会話はそこで一度終わり、以降はふたりとも仕事の話に集中することになった。二年先輩のミリヤの研究はソロモンには興味が尽きない内容で、終業まで話し込み、翌日も朝から晩まで作業の間に何かと話すことが多かった。
ひと月もする頃にはすっかり打ち解けていた。それが嬉しくもある反面、報告する相手がもういないという寂しさは、まだ振り切ることができない。
(伯爵に手紙を……仕事を始めて、良い先輩に恵まれたと伝えたい。だけど伯爵はもう俺からの手紙は受け取ってくださらない)
最後の最後に失敗してすべてを失ってしまった。その後悔が、ソロモンをひどく苛んでいた。
* * *
晩ごはん食べていく? と言い出したのはミリヤであり、ソロモンは否やもあるはずもなくある日の退勤後、ふたりで街場のレストランに向かった。
ミリヤおすすめのこぢんまりとした店で、ミリヤの選んだ料理もソロモンの好みに合うものばかり。思いがけず会話が弾み、しまいにどちらが言い出したのか「好きなひと」の話になった。ソロモンはそこで、大いに落ち込んだ。
「俺は好きなひとに嫌われてしまったので……」
ワイングラスを傾けていたミリヤは、むせて慌ててグラスを口から離した。
「ソロモンくんでもそんなことあるの?」
「ありますよ。あるに決まってるじゃないですか」
「衝撃の事実。ソロモンくんって、誰にでも親切で特定の相手なんかいないと思っていた。好きなひといるのかなって思ったこともあったけど、終わったって? あ、メープルシロップもっとどうぞ」
(「好きなひといるのかなって思ったこともあった」ってどのへんで、だろう。鋭いな)
ソロモンは内心首を傾げつつ、ミリヤが押し出してきた小瓶はありがたく受け取る。パンケーキが浸るほどにシロップを注いでから、考え考え言った。
「会ったことはない相手なんですが。ずっと手紙のやりとりだけで」
ナイフとフォークを手にしていたミリヤが、動きを止めた。うかがうようにちらっとソロモンを見てから「手紙?」と聞き返してくる。
別段隠す必要性も感じなかったソロモンは、首肯して認めた。
「俺の援助者のひとです。かけがえのないひとでした。恩返しなんか全部断られていましたが、かなうことなら一度だけでもお会いしたいと願い続けていて。そう伝えたら、返事がこなくて、それっきりになってしまいました。怒らせてしまったんだと思います」
ガチャン、と音を立ててミリヤがナイフを床に取り落とした。素早く寄ってきた店員が、新しいナイフを置いていく。それを待ってから、妙に強張った顔のミリヤが、口角を半笑いで震わせつつ言った。
「怒ったんじゃなくて、どうしても会えない事情があっただけじゃないかな?」
「どんな? 返事もできないほどの理由が?」
「そうね……、怪我とか?」
言われた瞬間、ソロモンはがたっと席を立った。
「こうしてはいられない。行かないと」
「どこへ? ソロモンくん、相手がどこの誰だかも知らないんだよね? ちょっと落ち着こうか。メインのうさぎを食べて、お砂糖いっぱいのお茶を飲んで」
もっともな指摘と魅力的な提案に引き留められ、ソロモンは椅子に腰をおろす。
ミリヤは何かを押し隠したような笑みで自分の心臓のあたりを手でおさえながら、しきりと頷いていた。
その顔をじっと見つめてから、ソロモンはかすかに首を傾げた。違和感。
「ミリヤ先輩、どうしましたか。心臓でも痛いんですか?」
「べつに? なんでもないよ。さ、食べよ食べよ」
話は移り変わり、「好きなひと」の件はそこまでとなった。
その日、珍しく深酒をしたミリヤであったが、「支払いは自分が」と言って譲らず、店員の差し出した紙にソロモンの目の前でさらさらとサインを書いた。いつもソロモンに自分の字を見られるのを嫌がっていたミリヤだが、このときは違うことに気を取られていたか、それとも酔いがまわっていたのか。珍しい、とソロモンはその字を見てしまった。
* * *
「頭痛い……。飲みすぎた……水……」
呻きながらミリヤは毛布の中でもぞもぞと動き、手を伸ばす。
「どうぞ」
そのとき、聞き覚えのある声が響いた。失礼、と囁かれて体を抱き起こされ、唇にコップを近づけられる。目をつむったまま飲むと、ひんやりとしてどことなく甘い水。こくんと飲み込み、小さく吐息した。
それから、状況の異常さに気づいて、体を強張らせた。
(き、記憶……。記憶が飛んでる。飲みすぎた。うそ……ここどこ?)
恐る恐る目を見開くと、夜明けの薄ぼんやりとした光が窓から差し込む、寮の自室であった。机の上に積み上がった夥しい冊数の本の影はたしかに見覚えがある。
問題は、明らかにそこに自分以外の誰かがいて、ミリヤの体を支えながら水を飲ませてくれているということだ。
「おはようございます、ミリヤ先輩。かなり足元が覚束なかったので、お部屋までお送りしました。深酒するのを見たのは初めてです。様子がいつもと違ったので、念のため起きるまでと思ってついていました。頭痛はひどいですか?」
触れ合っているがゆえに、体に直に響いてくる甘い囁き声。
「大丈夫です……」
息も絶え絶えに答えたミリヤは、ちらかった自分の机の引き出しから、便箋がはみ出ているのを見てしまった。何度も何度も見た最後の手紙。
なお、机の上には“エルヴァスティ伯爵”が使っていた便箋と封筒が……。
「先輩、俺の食べ物の好みにずいぶん詳しいなとは思っていたんです。理由がわかってすっきりしました」
「理由」
そーっと見上げると、抜群の笑みを浮かべたソロモンが、ミリヤを見下ろして言った。
「詳しく話をお聞かせ願えますか? エルヴァスティ伯爵」
この後、甘く優しく強請られたミリヤがすべてを打ち明けることになり。「どうしても会いたかったひと」と「また笑顔が見たかったひと」が同一人物だと知ったソロモンが、ミリヤに狙いを定めて全力で迫り、結婚を承諾されるまでの期間は、周囲が驚くほどに短かった。
★ここまで読んでいただきどうもありがとうございました!!
ブクマ・★・イイネをいただけると、
大変励みになります(๑•̀ㅂ•́)و✧
★最近の作品
・「(連載版)政略結婚で冷遇される予定の訳あり王妃ですが、「君を愛することはない」と言った堅物陛下の本音が一途すぎる溺愛ってどういうことですか!?」(シリーズ【異世界恋愛 短編・中編】王侯貴族)→短編をもとに連載作品として書きました。
・「前世鏡で、転生したら絶世の美少女」(シリーズ【異世界恋愛 短編・中編】王侯貴族)
・「借りられ令嬢の決断」(シリーズ【異世界恋愛 短編・中編】和風・ファンタジー)
も、読んで頂けると嬉しいです(・∀・)!!
(追記:連載版はムーンライトノベルズにて書いています:18歳以上の方のみ)