追放した幼馴染が心配過ぎるパーティー
「ルート、ここで別れよう。この先一緒に旅するのは無理だよ」
「そんな……ピーター!」
こう告げた時のあいつ――ルートの顔は、今でも夢に見る。ずっと一緒に野山を駆け回って遊んだ幼馴染からの戦力外通告だ。彼は悲痛な顔をしていたし、俺の心も張り裂けそうだった。
「もう君を守りながらじゃ戦えない。君自身の成長を待つ余裕もない」
「ルートは村に帰った方がいいよ」
「あとは私たちが頑張るから……ね?」
この気持ちは、前線であいつを庇い続けてきた俺だけのものじゃない。ルートが罠にかかりそうになる前に解除してきたサーツも、ルートへ狙いが集まらないよう魔術を放ってきたチューンも、傷ついたルートをその度に癒してきたラーヌもと、皆が共有していた。
でも、もう無理だ。ここから先は魔物も強くなるし環境も厳しくなる。ギミックもさらに凶悪なものが待ち構えているだろう。同行させ続ければ守り切れないかもしれないし、庇った俺たちも死ぬかもしれない。
「……わかった。足を引っ張ってばかりで、ごめん」
「そんなこと言うなよ。ほら、帰りの馬車代」
ルートにも、その自覚はあったんだろう。俺たちが口々に促すと、食い下がってくる事はなかった。今でもよく覚えている。その代わりすっかり気落ちしたあいつの顔も、中身よりずっと重く感じられた金貨袋の感覚も。
「いや、多すぎ……」
「小分けにして、払う時は、不用意に全額見せちゃだめだよ?」
「それ以前に、減らしても……」
「むしろ少なめだよ! 足りなくなったら手紙を出してね、絶対送るから」
「えっとぉ」
「仮に全部盗まれても連絡が取れるように、1~2枚はしっかり隠すんだ」
そんなあいつを無事に帰すために、口々に追加のアドバイスを送った。盗られる心配がなかったらあと5割増しで渡したかったところだ。人が良すぎるから途中でぼったくりに遭うかもしれないし。それに途中で美食くらいは楽しんでほしいし。
するとルートは……金貨袋を狙ってくる悪党さえこの世にいなければと無力感に苛まれる俺たちに、あいつはこう言ったんだ。
「いいよ。僕、みんなが帰ってくるまでこの町にいるつもりだもん」
「「「「な!?」」」」
俺たちは三度声を揃えて帰郷を促したが、今度は意思を変えられなかった。
「終わったら、一刻も早くお疲れ様が言いたいから」
嗚呼!
相変わらず!
なんて健気な奴だろう!!
そうさ、だからこそ能力どうこうじゃなく最後まで一緒に旅がしたかったんだ。それでも俺たちの力及ばず別れる事になったというのに、あいつは真っ先にお帰りを言いたいという。天使か!
「……じゃなくて。」
ダメだダメだ、そんな天使を危険な場所に置いてはおけない。ここはのどかな村と違って人の出入りが多いんだ。魔物だって既に強くなっている。路銀が尽きないうちに帰らないと。
「もー、なんで減る一方って前提なのさ。ちゃんと働くよ!」
ああ……この天使は自分の事はすぐ譲る癖に、人のためと決めたら強情なんだ。そこが良いんだけれど。彼が騙されたり搾取されたり、あるいは攫われたり身包みを剥がれたりするのは全く良くない。
「みんなのこと、待ってるからね?」
情けない。俺たちは旅を通して守りきれなかったばかりか、帰すこともできないのか。こんな風に目を輝かし始めたルートは説得できないとよく知っている俺たちだけに、できることなどごく僅かだった。
「ギルドへの連絡ヨシ!」
「裏路地への繋ぎヨシ!」
「モニタリング用使い魔ヨシ!」
「転移魔法のマーキングヨシ!」
「「「「以上を悟られない根回しヨシ!!」」」」
情けない。本当に情けない。たったこれだけの備えとないに等しい一袋の金貨袋を残して俺は……俺たちは、我らが天使を置いて旅に出る。
こうなればもはや、無力なパーティーにできるのは最短で旅の目的を果たすだけだ。当然、ルートに何かあった時助けに戻る時間はカウントしないものとする。
「待ってろルート、魔王でも何でもすぐぶちのめして帰ってくるからな……!」
街を出るなり最重要事項を邪魔してきた魔物を血霧と消し炭に変えて、俺たちは後ろ歩きで街を出る。あいつのいない旅はさらに辛く、厳しいものとなるだろう。それでも、必ず誰一人欠けずここへと戻ろう。
「ええ」
「じゃないと」
「ルートの笑顔が曇るからね!」
気の重いこちらを全く気にせず晴れ渡った――いや。ルートにとっての新生活を祝ってくれたならそれで良いか。ともかく真っ青な空の下で、お互いにとって全く新しい生活は始まった。
なろうでは初めての投稿となります。ここまで読んでくださりありがとうございました。
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