社畜の行進
今夜も社畜の群がホームの前を横切って行く。
彼等は終電が去った線路上を都心の方向に向けてゾロゾロと歩む。
皆ブツブツと口々に呟きながら歩んでいた。
「朝一で書類を課長に提出しなくちゃ、しなくちゃ、しなくちゃ………………」
「プロジェクトを絶対成功させるぞ! させるぞ! させるぞ! ………………」
「早く出社しないとお化粧する時間が無くなるわ、無くなるわ、無くなるわ………………」
「プロジェクトを成功させて出世するぞ、するぞ、するぞ、………………」
スマホに向けて語りかけている者もいる。
「お得意様のところに直行します、します、します………………」
「その書類は部長のデスクの上に置いてあります、あります、あります………………」
600人以上の亡者が線路上を歩く。
彼等は、ほら、あそこ、ホームの先端から見える緩いカーブで数年前に起きた事故の犠牲者だよ。
数秒刻みの時刻表から僅かに遅れていた快速電車が、安全と危険の狭間ギリギリの速度であのカーブを通過中、線路に隣接する立体駐車場からブレーキとアクセルを踏み間違えた大排気量の乗用車が駐車場の壁を突き破って落下、電車に角度や速度がドンピシャで激突、ギリギリの速度で片輪に負荷が掛かっていた電車にはそれを支える余力は無く横転。
横転した先頭車両に連結されていた車両は全て先頭車両と同じように横転したり、横転した車両に乗り上げたりしてグシャグシャに潰れ未曾有の大惨事になった。
犠牲者の殆どが都心や副都心に本社がある一部上場企業の社員。
俺は彼等が羨ましい。
プロジェクトを成功させたいって言っていたのは俺の上司と先輩、彼等が亡くなりプロジェクトの重責が俺の肩にのし掛かったけど、彼等について回っていただけの俺はその重責に耐えられずこのホームから電車の前に飛び込み地縛霊になった、そのため俺には、彼等、社畜の群れをただ眺めている事しか出来ないからだ。