トラブルの真相
「犠牲者?いったい何の話をしているんだ?」
背後には崖、前方には逃げ道を塞いだ島民達。
この突然の状況に戸惑いながらも、それが彼らに伝わらないよう、できるだけ冷静に尋ねた。
「感謝祭で神に捧げる供物は収穫物だけではない。
地の神にはお前も見たように果実や肉などを捧げるが、海の神には毎年一人、人を捧げている。
その一人は島民でも良し、旅人でも良しと、代々決められている。
旅人がいなかった年は厳選なる抽選で島民から1人選ばれるが、運良く旅人がいる年は、……」
微笑みながらこちらを見つめる島民を代表して、神官が答えた。
そうか、祭り会場の守衛も会場の中の人達も、皆俺とフルールを見ると急に微笑みだしたのはこれが理由か。
連中は皆‘俺を’見ていたんだ。
見た目から旅人とわかる者が来たことで、今年の生贄になる可能性が無くなる。
その安堵から皆微笑んでいたのか。
ここまでの違和感の理由に気づいた後、フルールの方を見た。
フルールは俺の視線に気づき、微笑んだまま話しだした。
「私の前に現れてくれてありがとうゲンナイさん。
あなたと引き換えに貰える報奨金で、来年は働かずとも生活して行けそうです。
疑い深そうでしたので、逃げられないようにするのが大変でしたわ。」
……金か。
妙にフレンドリーだったのは俺の意識を自分に向けつつ、油断させるためだったのか。
今後の教訓にするとしよう。
さて、これが今回の‘トラブル’って訳か。
身体への危険が無いなどと言いながら、なかなかハードな体験を用意してきたな。
全てを理解し再び島民の方を見ると、ゆっくりと島民がこちらに近づいてきている。
まだ距離には余裕があるが、ここらが潮時だろう。
島民の方を見て牽制をしつつ、首にかけた袋の中にある《切符》を取り出し、
ビリッ
とひと思いに《切符》を破った。
一瞬目の前が真っ暗になった後、目に映ったのは見慣れた天井だった。
行きの《切符》を破った後に寝た、自分の部屋だ。
どうやら無事戻って来れたようだ。
「ふぅー、危なかった。」
安心し、一息ついた。
身の回りを確認すると、持って行っていたリュックも無事戻ってきていた。
中を確認すると、あちらの世界で密かに忍ばせていた食器類も入っていた。
「異世界の物も一応持って帰れるわけね。それならもっと色々持って帰ってくれば良かったな。」
まぁ今回は状況が状況だっただけに仕方ない。
トラブルの発生について間違った予想をしてしまったが、帰還するタイミングについてはあれがベストだっただろう。
今回は帰還の練習だからあれで良かった。
そう自分に言い聞かせた。
◯
気持ちがだいぶ落ち着いた後、《切符》の会社のホームページを見ていると、
【体験版を使用された方はこちら】
というページができていた。
説明会の予約をしたときは無かったはずだ、いつできたんだろうか。
とりあえずアクセスしてみると、文章が表示された。
【体験版の異世界であなたの身に起こったトラブルは何ですか?】
下に記入するフォームがある。
【生贄にされかけた】
入力し、確定のボタンを押すと別のページに飛んだ。
回答内容が合っていたか間違っていたのか疑問だったが、表示される文章を見て回答内容が正解だったことがわかった。
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体験版を終了したユーザー様
弊社が用意致しました体験版を使用頂きありがとうございます。
このページにアクセスできたということは、今回は適切なタイミングで帰還用の《切符》を使用頂けたということになります。
今回は最後の場面以外に身の危険を感じる場面は少なかっただろうと思います。
しかし、異世界は今回のように安全な場所だけではありません。
凶悪なモンスターだったり、こちらを襲ってくる人々がいる世界もございます。
適切なタイミングで《切符》を使用するのはもちろんですが、それ以外にも対策を打つ必要があると考えるユーザー様もいらっしゃると思います。
そのような方の為に、弊社はオプション付き《切符》を準備することに致しました。
通常の《切符》よりも値段は高額になりますが、オプション内容によっては身体能力を強化したり、特殊な道具を持った状態で異世界生活をスタートすることができます。
今回の体験版で身の安全の確保の重要性を再認識して頂けたユーザー様には、こちらのオプション付き《切符》のご購入をお勧め致します。
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「宣伝かよっ」
思わずマウスを投げてしまった。
今回で1つ目の異世界は終了です。
2つ目の異世界はもっと異世界感を出していこうと思っています。