儀式
祭り会場に入ると、大勢の人がいた。
皆どこか浮かない表情をしていたが、フルールと俺を見るとにこやかに微笑んだ。
どうやらフルールは人気者のようだ。
「こんにちは、フルール。今日はお連れさんがいらっしゃるんだね。」
だいたいの人が嬉しそうにこんな感じの挨拶をしてきた。
連れがいるのが珍しいのだろうか、こんなに美人なのに。
「お腹が空いたでしょう?あそこのテーブルで待っていてください。私がいくつか料理を持って行きますね。」
なんて気がきく良い子なんだ。
お言葉に甘えてテーブルに着き、フルールの動向を眺めていた。
料理を取りに行っている最中も多くの人に話しかけられていた。
内容までは聞こえなかったが、相手の人は一様に嬉しそうで、フルールを褒めているようだった。
「遅くなってごめんなさい、いろんな人に話しかけられちゃって。
ゲンナイさんのお口に合うかはわかりませんが、食べてみてください。」
そう言いながら料理を持ったフルールが帰ってきた。
持ってきた料理は肉料理だったり、穀物を煮た物だったり、元の世界の料理とあまり変わりは無いようで安心した。
見た目はどれも美味しそうだ。
周囲を見回すと同じ料理を皆美味しそうに食べている。
確信は無いが、おそらく食べても平気だろう。
説明書にもここで食事をするよう書かれていたことだし。
「美味しぃ!」
一口食べると声が漏れた。
他の料理も食べてみると、どれもとても美味しかった。
フルールの方を見るとニコニコしながらこちらを見ていたのでちょっと恥ずかしかったが、料理の美味しさに負けどんどん食べていった。
◯
満腹になった後フルールと話していると、奥の方にあるステージの周囲に人が集まっていた。
「あそこで何があるんだ?」
「あー、ここに来る途中に言ってた‘ちょっとした儀式’が始まるようですね。
町の代表者がそれぞれのお供え物を祭壇に置くだけなんですけどね。
せっかくなんで見に行ってみましょうか。」
俺が質問すると、フルールが答えた。
確かにそんな話をしたな。
ステージの周囲まで移動し、儀式を見物することになった。
果物や野菜、肉や魚といった多くの物がステージ上に作られた祭壇の上に次々と置いていかれる。
お供え物を全部置き終わると、神官のような人がなにやら呪文のような言葉を言いだした。
魔法を使うのかと期待していたが、特に何も起きないままステージ上から人々が降りていった。
思わずフルールを見ると、俺の意思が伝わったようだ。
「途中何かワクワクしてたみたいですね。ちょっとした儀式って言ったじゃないですか。普通にアレで終わりですよ。」
ちょっとからかう感じでフルールが言った。
異世界だから何か起きるかもと期待していたのが顔に出ていたようだ。
「儀式も終わりましたし、ちょっとお散歩にでも行きませんか?」
フルールが提案してきた。
満腹になったことだし、もう少し島内を見て回ってみることにしよう。
二人で祭り会場を出て、海の方に向かうことにした。
祭り会場から少し離れた辺りでフルールがいきなり腕を組んできた。
びっくりしてフルールを見ると、にこやかに微笑んでいるだけだった。
これじゃあ完全に恋人同士のようじゃないか。
ただ悪い気はしないし、動揺しているとカッコ悪いのでそのまま歩いていくことにした。
こんなに美人な子と腕を組んで歩いている状況は、異世界での想定の中にはなかった。
ただ間違いなく嬉しい誤算だ。
フルールの顔を見つめると、それに気づいたフルールがニコッと微笑む。
あまりにも可愛くてそのやり取りを何回もやっていた。
しばらく歩くと海の近くに着いたが、ここは少し高い位置になるらしい。
着いたのは砂浜ではなく崖だった。
「あれ、もう着いちゃいましたね。でも行き止まりみたいだから戻りましょうか。」
そう言いながら振り返ると、そこには数十人の人がいた。
驚いてビクッと体が震えると、フルールが俺から離れて集団の方へ歩いていった。
すると、祭り会場で行われた儀式にいた神官が集団の中から現れ、フルールに声をかけた。
「ありがとうフルール。これで今年は島民の中から犠牲者を出さずに済みそうだよ。」
〜次話の内容は〜
トラブルの意味がわかります。




