白い海
今日は朝からずっと落ち着かない気分だ。
いよいよ異世界へ行く。
昨日の夜のあの余裕はなんだったのかと思えるぐらい、異世界に対する期待と恐怖は混じり合いながら俺の心を揺さぶってくる。
何をしていても落ち着かないので、買い物を済ませたあとは家で特に何もせずに過ごした。
そうして夜を迎えた頃、意を決して‘行き’用の《切符》を破った。
ノートのページを破るのと同じくらい簡単だった。
何も起きない。
当たり前だ。今何か起きてもらっても困る。
しかし明日目覚めたときには異世界だ。
準備をしてから寝床に入ったが、やはりなかなか寝付けなかった。
「大丈夫だ、何かあったときは簡単に帰れる。」
ひたすら自分にそう言い聞かせることで、どうにか眠りに落ちることができた。
◯
「知らない天井だ…」
まさか自分が言うことになるとは思っていなかった台詞が自然と口から漏れた。
天井だけではない。
壁も、床も、目に入るものは全て知らないものだらけだ。
「異世界に来れたのかな」
確信はなかったが、状況だけ考えると異世界への移動は成功したように思える。
喜びの感情が湧き上がってきたが、確認すべきことを思い出し、慌てて自分の周囲を確認した。
「良かった、ちゃんとある」
おそらく持ってこれるだろうと思い用意していたリュックが自分の横にあった。
身の回りの物を持ってこれるとわかったことだけでも、今回の異世界行きは収穫有りだ。
服もちゃんと寝たときのままの服装になっている。
次以降の異世界は事前準備がしっかりと活かせそうだ。
一通り周囲を見回したが、どうやらここは小さな小屋のようだ。
だが窓も無いので外の様子を確かめる方法がない。
「しょうがない、外に出てみるか」
扉を少し開け、隙間から周囲を観察する。
見える範囲内には危険なものはなさそうだ。
外の確認を続けながら、少しずつ扉を開いていった。
海だ。
小屋は土部分に建てられているが、そのすぐ先は砂、更に先には海が見える。
「小さめの島に行くって書いてあったもんなー」
呟きながら砂の上を歩き海に近づいていくと異変に気づいた。
「なんで海の水が白いんだ!?」
牛乳レベルとまでは行かないが、確かに水の色が白く見える。
思わず手を伸ばしていたが、途中で思い留まった。
触っていい物かどうかがわからない。
ここは異世界だ、元の世界と同じ感覚でいると危ない目にあう可能性がある。
慎重になりすぎてもデメリットは無いはずだ。
どうせ海には戻れないのだから、それからは内陸を散策することにした。
この《切符》の説明書きには祭りが開催されていると書いてあった。
まずはその祭りの会場に向かおう。
アスファルト舗装とまではいかないが、土が押し固められて整えられた道路は存在している。
これに沿って歩いていけば町か、それらしい物には辿りつけるはずだ。
途中誰かに会えれば祭りの会場を教えてくれるかもしれない。
あくまで[言葉が通じ]、かつ[こちらに危害を与えてこない]誰かに会えた場合によるが。
説明書きに書かれていたように温暖な気候で、幸い晴れているのでしばらく歩く分には問題なさそうだ。
後は説明書きの通り‘比較的安全な’世界であることを祈ろう。
〜次話の内容は〜
異世界で美少女と出会います