終わり際のサプライズ
「以上が現在確認されている異世界の代表例となります。」
そう締めくくった天草さんの説明は、俺の想像を超えるものだった。
「多いなー…」
会場の中で誰かが呟いたが、その気持ちもわかる。
行ける異世界の数が会見のときに話していた20種を大きく上回っている。
いったいどんな方法で異世界を探しているのかは想像も付かない。しかし、とても効率的な方法なのか、あるいは大量の人員を投入して探しているのか、そのどちらかでない限りこの数は到達不可能ではないだろうか。
少しざわつき始めた会場の雰囲気を正すように、天草さんがまた話しだした。
「異世界の数に驚いてくださる方が多いと思いますが、この‘数’も弊社の《切符》の強みとなっております。
行ける異世界の種類が多いからこそ、お客様が求める世界と異なると感じた場合やり直しが可能となります。
自分が理想とする異世界を探し求めるも良し、定期的に異世界を渡り歩くのも良し、それはお客様が自由に決めることができます。
弊社は異世界に思いを馳せる全てのお客様を満足させられるよう、今後も異世界の探索は行なっていきます。」
すごい自信だなと思う反面、実現可能と納得させられるだけの説明ではあった。
ーー早く異世界に行ってみたい。
溢れそうな思いを抑え込みながら、その後の細かな説明に耳を傾けた。
◯
説明用資料の最後まで到達し、これで説明会も終わりかと思っていると天草さんから予想外の発言が飛び出した。
「今回説明会に参加してくれた皆さまには特別に、体験版代わりの《切符》を1枚差し上げます。」
「おいおい、まじかよ!?」
もはや独り言の域を超えた音量で言葉を発してしまったが、それを気にする者は会場にはいない。
それぐらい参加者は各々興奮しながら歓喜の台詞を口にしていた。
「会場の隣の部屋にて《切符》をお渡ししますので、お帰りの準備が整った方から移動をお願い致します。
隣室では係の者にお客様のお名前をお伝えして頂きました後、身分証の提示をお願い致します。
その後専用の端末から必要事項を入力頂けたら、お客様の《切符》を発行しお渡し致します。
もし今回身分証をお持ちでない方は別途引き渡しを行う方法を記載した資料をお渡し致します。
以上です、本日はご参加頂きありがとうございました。」
危なかった。
説明会の予約をしたときの持参物の欄に身分証があったから、とりあえず持ってきていて正解だった。
(身分証の使用目的が書いてなかったのは、最後にサプライズ感を出すつもりだったのかな?)
我れ先にと隣室に急ぐ人でごった返す人達を見ながら、椅子に座ってのんびりと待つ俺はそんなことを考えいた。
◯
だいぶ人も少なくなってきた頃、俺は席を立った。
「島津 ゲンナイです。お願いします」
係の人にそう伝えながら身分証を出した。
「島津 ゲンナイ様ですね、身分証を確認させて頂きます。」
「ありがとうございました。それではこちらの端末で必要事項の入力をお願い致します。」
そう促されて俺が入力を進めている間、係の人はなにやら準備をしている。
「終わりました。」
そう伝えると最後一枚の紙を渡してきた。
「最後にこちらの内容を全て確認頂き、了承頂けましたら一番下の欄にフルネームでご署名ください。」
目を通していくと前半は個人情報の取り扱いに関する内容だったが、後半は誓約書だった。
俗に言う‘怪我しても文句は言わないでね’というやつ。
少々怖くはなったが異世界への期待に胸が膨らんでいる今の状態では承諾する以外に選択肢は無かった。
記入後の‘誓約書’を渡すと、封筒を一通渡された。
「中に島津様の《切符》を入れております。使用される前に同封の説明書きを必ずお読みください。
また、《切符》の特性上、保管方法にはご注意ください。」
そうだった、誰かに誤って破かれないように注意しないと。
〜次話の内容は〜
初めて行く異世界の概要がわかります。