無料の説明会?
あの会見からしばらく経ったあと、例の《切符》の発売日が決まった。
異世界への《切符》の発売に伴い、製造と販促を行う会社が設立されたらしい。
あれから異世界への期待が膨らみ、まだかまだかと待ち侘びていた俺には嬉しいニュースだ。
しかし発売日の発表と同時に、注意喚起の内容も発売された。
どうやら設立された新会社のホームページに掲載されているらしい。
「んー、どれだ?」
少々見辛い専用ホームページの中から注意喚起文を探すと、どうやらそれらしいものを見つけられたようだ。
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弊社の商品である《切符》は生身の体のまま異世界へ移動しますので、普段より身の危険を感じる場面に直面するかもしれません。
《切符》を使用したお客様の怪我や物品の紛失などのトラブルに対し、弊社は一切の責任を負いかねます。
異世界への移動の楽しさと危険性、危険に対する弊社の対応案をお客様に体感して頂くため、弊社は販売に先立ち説明会を開催することに致しました。
無料の説明会になりますので、弊社の《切符》に興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。
説明会は事前予約制になっておりますので、下記リンクのページよりご予約をお願い致します。
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「無料かー、とりあえず行ってみるかなー」
最寄り駅そばで説明会が開催されるらしいことを知った俺は、軽い気持ちで予約ページに必要事項を入力した。
◯
「おー、ここか。けっこう人がいるんだな。でもけっこう若い人が多いんだなー」
説明会開始時刻の少し前に会場に着くと、そこには多くの人が集まっていた。
一人で来ている人もいれば、友人と数人で参加している人もいるが、共通点としては皆若い。
おじさん世代は興味が無いのか、疑ぐり深いのか、色々理由はあるだろうが若い人ばかりなのは気が楽でいい。
スマホを眺めながら始まりを待っていると、スーツ姿の若い女性と中年の男性が入ってきた。
どうやら始まるようだ。
「本日は弊社の説明会にご参加くださりありがとうございます。本日説明を担当致します、天草です。よろしくお願い致します。」
少々個性的な声で、スーツの女性が話しだした。
「皆さまのお席に資料を配布しております。《切符》の説明はこちらの資料に沿って行っていきます。この資料は説明会終了後お持ち帰り頂けますので、自由に書き込みなとされて構いません。お席に資料が無い場合は、お知らせください。」
天草と自己紹介した女性が続けて話し出す。
「しまった、何か書く物を持ってくればよかった」
思わず独り言が出たが今更気にしてもしょうがない。
できる限り覚えるようにしよう。
説明の本筋に入るようだ。
「まずは《切符》について説明致します。弊社の《切符》は、行き用と帰り用の2枚1組となっております。
青い方が行き用、赤い方が帰り用となっています。」
スクリーンに映し出された映像に《切符》が映し出される。
確かに青い方と赤い方があるが、色以外の見た目はだいたい同じのようだ。
大きさは手の平サイズより少し小さめぐらいに見える。《切符》と言う名前から想像していた物より、だいぶ大きい。
「こちらの《切符》の使用方法は、行き帰りどちらも共通です。先日の会見をご覧になってくださった方はもうご存知かも知れませんが、《切符》を破ることで効果が発動し使用できます。
‘破る’という行為は同じですが、行きと帰りで効果が発動するタイミングが異なります。
まず‘行き’の方は破ったあと、《切符》の持ち主の方が眠りに入られるまでは効果が発動されません。つまり寝ている状態のときに《切符》の効果は発動し、持ち主の方は眠ったまま異世界へ移動することになります。
次に‘帰り’の方ですが、こちらは破るとすぐに効果が発動致します。そのため異世界で何かお客様が身の危険を感じる状態になった際、切符を破ることでその危機的状態を脱出することができます。」
行きと帰りの発動タイミングのズレについて、スクリーンに映し出された図を指しながら天草さんが説明を続ける。
ホームページに載っていた‘危険に対する対応案’というのはこれのことだろうか。
確かにヤバい事態状況になったときは切符され破れればどうにかなりそうだ。
しかし《切符》をすぐに破ける状態にする方法を考える必要があるな。
あれこれ考えている間にも天草さんの説明は続く。
「《切符》の発動タイミングを説明致しましたが、もう一つ重要なのが効果の発動対象です。
《切符》を破いた際に異世界に移動されるのは‘破った方’ではなく、その破られた《切符》の‘持ち主’になります。
《切符》は購入時にお客様とリンクされます。その為誤って誰か他の方にお客様の《切符》を破られますと、就寝後目が覚めますと異世界へ移動された状態となります。
お客様の意図しない移動の場合、帰り用の《切符》を破ればすぐに元の世界に戻ることができますが、《切符》が一枚無駄になってしまいます。
保管方法には十分にご注意願います。」
特に説明はなかったが、行き用の《切符》の効果発動タイミングが破ってすぐではないのは、‘誰が破いても持ち主が異世界へ移動する’という特徴が関係していそうだ。
他人に《切符》を破かれても、その事実を知ってさえおけば寝るまでに異世界で起きた後の対策を準備することができる。
最悪帰りの《切符》を手に持ったまま寝て、起きると同時に破って元の世界に戻ればいい。
ただそれは非常にもったいないな。
「それでは続きまして、現在確認されている異世界の特徴を説明致します。」
〜次話の内容は〜
誓約書と引き換えに島津ゲンナイが《切符》を一枚手に入れます。