サーカスの夜
みんなと別れて、オルガとハズはサーカステントの前で父さんと母さんを待つ事にした。ハズの両親は屋台で忙しいためにサーカスはオルガ達と見る事になっていたのである。
サーカステントの前は行き交う人々で混雑していた。その中を二人は逸れないように手を繋ぎ、テントに沿って歩いた。入り口側は更に人で溢れていた。待ち合わせ場所を失敗したかもしれない……そう思いながらオルガはハズと一緒に入り口の天幕の傍に立った。
人の波は引っ切り無しで、そこに立つと人の波に飲まれそうに成る。それに抗いながら二人は話をした。
「今日はありがとう」
オルガがハズに言うとハズは笑った。
「それはこっちの台詞でしょう? お陰様でランチボックス間に合ったもん」
ハズはいつもこんな感じだ。人に感謝しながら生きている。それはオルガも勿論同じだが、ハズはもう少し何か違う。その説明は難しいが何と言うか、感謝の深みが違うように思える。
「ハズは優しいよね」
「そうかな?」
「うん、そうだよ」
オルガが幼稚園に行くようになってからハズとは知り合ったが、ハズはいつも一人でジッとしているイメージだった。思い切って話しかけてから、オルガの人生が変わった。
「あ……ほら、おじさんとおばさん来たよ」
ハズの指差す方にエリックとレイチェルの姿があった。人の波をゆっくりとこちらへ進んで来る。オルガは手を挙げて二人を待った。
「こんなに凄い人だなんて、ビックリね」
レイチェルが傍に来てそう言うと、周りを見た。
「八百年祭が浸透しているから、きっと近隣からも来ているんだろう? 二人とも大丈夫か?」
エリックがオルガとハズに話しかける。
「うん、でもこれじゃあ身動き取れないね」
「開場まで後二十分程度あるなぁ。どこかで時間を潰すわけにもいかないし……ここにいるしかないかな……」
「良いよ、父さん、このまま待とうよ」
オルガはエリックにそう言いながら掴まった。ここを動くと、戻って来るのが大変だ。四人は角の方に小さく集まり時間を待つ事にした。
「今日は? 二人共どうだったの? 楽しめた?」
レイチェルの言葉にオルガとハズは笑みを浮かべた。
「うん! すっごく楽しかった! みんな良い人達だったし、子供達とは友達になれたの。ね、ハズ」
「うん、とても楽しかった!」
ハズは笑って頷いた。
「それは良かったわね。ハズのおかげね」
「そんな事……」
少しはにかむハズの肩をオルガは叩いた。
「本当にそうなの。ハズのおかげで最高だった」
そう言ってすぐにオルガは大事な事を思い出した。
「あっそうだ! 今日の花火をね、テッドの叔父さんの居るイグナーツセントス教会の塔の上から見る事になったの。八時に教会に集合するんだけど、行っても良い?」
オルガの問いにエリックとレイチェルは苦笑した。
「駄目だとは言えない状況だね。良いよ、但し父さんと母さんも行くよ。塔には登らないけど下で待つからな。ハズの事も父さん達は責任あるからね。最後まで付き合うさ」
「やった〜〜〜〜〜!」
「うふふ」
花火の事は親の許可を貰った。後は時間になればサーカステントの中に入ってセドリックのアイデアで出来た出し物を見て、教会の塔に行く。全ては順調だ。
そして開場時間になった。チケットを渡し半券を受け取ると四人は客席へ急いだ。高い天井のライトが明るく輝いている。
波のように人に押し流される中を行くと、奇跡的に一番前の席が空いていた。
「ラッキーだな。前の席の方が良いだろう?」
エリックは並びで四席を確保し、真ん中二席をオルガとハズに座らせて、その両サイドに二人を挟んでエリックとレイチェルが座った。テントの中にはドンドン人がやって来る。見る見るうちにテントは人で溢れた。客席は全て埋め尽くされ空席は一つも見当たらなかった。
暫くすると開演のブザーが鳴った。その途端、騒めきの人の声が消えた。そしてライトが消え辺りは闇に包まれる。突然スポットライトが円形舞台の中心に立ち上がった。そこにピエロが一人立っていた。数時間前バックヤードを見せてもらった時に会ったピエロとは別人のようで、衣装が違った。
彼はパントマイムで、色々な事をし始めた。会場から笑いが起こる。それに気を良くし、彼は続けた。
見ている者を引き込むその演技は、自分の居場所がどこに居るのかわからなくなる程に見事だった。時には海を渡る船の上、時には風船を掴んで空を飛び、時には小さなトンネルの中、時には重力の重い場所。見ているこちらが経験しているような錯覚さえ起こした。
彼のパントマイムが終わると割れるような拍手が起こり、サーカステントの中が喝采で満たされた。ピエロの演技を皮切りに、出し物は次々に変わって行く。
手品、ナイフ芸、長い竹馬の上でのジャグリング、綱渡りは一輪車で渡り、空中ブランコでは空中で三人が繋がった。舞台上で水が出て来る出し物や、舞台が斜めになる物もあり、どれもこれも息を呑む面白さで、観客は夢中になった。
次の出し物は何だろう? そう思った時、舞台へ続く袖の奥から長い棒の前後を持ったピエロが二人出て来た。オルガとハズは目配せをした。その内の一人は数時間前に会ったあの時のピエロの服を着ていた。そうだ、彼はルネだ。
ピエロ二人が持って来た棒は、余りに長過ぎて円形舞台の上では痞えてしまった。
ピエロ二人はどうしようかと思案する。二人でああでも無いこうでも無いと色々試すうちに、ルネが天井に向かって立てようと言い出した。円形舞台の真ん中に上まで通そうとパントマイムで示す。
もう一人が出来ないと言うが大丈夫だとルネが言う。二人は上を見上げ頷き合った。ルネが長い棒の先を持ち、客席ギリギリまで進んで行く。そうしてもう一人が後ろから棒を支えながら腕をいっぱいに押し上げピョンピョンと飛び上がった。
ルネは前で支えるが棒は持ち上がらない。その内もう一人が棒を掲げながらルネの方へ寄って来た。徐々に後ろは地面に落ちて行く。でも構わずに二人は協力し前方の部分を渾身の力を込めて持ち上げた。本当にゆっくりと後方が持ち上がり、あれよあれよと言う間に先端がライトに届いた。観客はライトに接触した棒を見上げ、歓声と拍手が起こった。
次にピエロの二人は舞台の真ん中にある穴に棒を固定した。そして一人が棒を上がれと言う。今度はルネが怖いから嫌だと首を振る。上がれ、嫌だを繰り返した後、ルネは棒に手を添え棒の先を見上げた。決意したのだ。そして恐る恐る上がり始めた。
客席の観客は息を呑む。ドンドンドンドン上がって行くルネ。目線が観客と合い始めそれを越して行く。ドンドンドンドンまだまだ上がる。そして遂にライトの傍まで行き、その上へ行ってしまった。歓声と拍手が起こる。
もう一人のピエロはピョンピョン飛び上がって喜んだ後、自分も棒に手を添えた。そして、ルネと同じように棒の先を見上げ上がって行く。観客がその様子を見守る中、彼も同じようにライトの向こうへ消えて行った。
二人が上がった後の舞台は二人の男が棒を片付け始めた。一体これはどうなるのだろう? そう思っていると、一本の細長い布が降りて来た。
上を見るとライトの光が押さえられ、二人のピエロが見えた。ピエロ二人はまだそこにいた。彼らはいかにも間違えた、というように布を引っ張り上げ、そしてその布を自分達に巻きつけた。
そして布を巻き付けたまま、先ずルネがライトの位置から飛び降りた。響めきが上がる。その中をルネは観客の頭上の高い位置をぐるりと円形に飛び、ポケットから青い紙吹雪を撒き散らした。走るような格好をしたり、手を振ったり、大笑いをしたりのパフォーマンスも忘れない。もう一人も同じように布を身体に巻き飛び降り、同じように青い紙吹雪を撒き散らす。降って来た紙吹雪はほんのりと薔薇の香りがした。
二人はグルグル回りながら紙を撒き散らす。そうしながら二人のピエロの身体に巻きつけた布が徐々に絡んで行き、とうとう二人はお互いに手の届く位置に来ると、健闘し合い抱き合った。そして絡まる布はユックリと舞台へ降りた。青い紙吹雪が舞う中、大歓声が起きた。幻想的で、何とも言えない『青の祭り』のための演出だ。
「凄いね! 面白かったね!」
オルガとハズも夢中で拍手を送った。ピエロの二人は観客に挨拶をして廻る。その間もおしみのない拍手を受けていた。
そして、ルネがオルガとハズの前に来た。オルガとハズは二人共熱い拍手を送った。その時、ルネがオルガにチョイチョイと前に乗り出すように促した。そして自分のポケットを弄ると何かを取り出し、オルガに手を出せとパントマイムで示した。
オルガは恐々と手を出した。その上にコロンと乗せられたのは父さんが持っていたのと同じような青い石だった。
「え?……」
オルガはエリックを見た。エリックも驚いた顔をしている。どう見てもオルガの手の上に乗せられた物はエリックが持っていた『青き夢』と同じ素材の物だった。だがエリックの物とは違った。あの深い真っ直ぐの傷がない。
ルネを見るとルネはオルガのポケットにその石を入れろと示した。オルガのワンピースにはポケットがない。それでもピエロのルネは何度も仕舞えと示した。仕方がないので首元のひだの所の少し窪んでいる部分に青い石を押し込んだ。青い石は落ちては来ない。大丈夫だ。それを見てルネは満足そうに去って行った。
一体何なのだろう。手でその石の膨らみを確認し、オルガはルネの後姿を見つめた。
そのまま『青の祭り』の初日のサーカスは終わった。最後に出演した演者が全て舞台上に出て喝采を浴びた。その中でも二人のピエロは特に多くの拍手と賛辞を受けていた。
オルガは『青き夢』の存在が気になり、フィナーレも気が漫ろだった。全てが終わってもルネは『青き夢』を引き取りに来る気配は無い。
「父さん、これどうしよう……返しに行っても良いかな?」
サーカステントの出口へ向かいながら、オルガはワンピースの首元に押し込んだ宝石を取り出し、見せながらエリックに尋ねた。エリックは暫くそれを見つめた後、静かに首を振った。
「返して欲しいならちゃんと取りに来るだろうから……それまでオルガが責任持って管理しなさい」
「うん……」
オルガは無くしてはいけないと、またワンピースの首元のひだの窪みにそれを押し込んだ。
その様子を見ながらエリックは顔には出さなかったが、かなり動揺していた。あの青い石はあの時あの少女が持っていた物だ。確信を持ってそう思った。
かつて、自分とレイチェルとミランダ、そしてクリスが出会った少女。エリックはオルガの横顔を見つめた後、レイチェルを振り向いた。レイチェルと目が合った。そのレイチェルも不安そうな目をしている。彼女も気付いたのだろう。
何かが着々と静かに準備されて行く。運命に逆らうように足掻いても、聞き届けられない何かがあるのだ。それを強く思った。
サーカステントから出ると、広場はやはり混雑していた。花火を見るために場所を確保しなければならない人々で溢れている。
その時、エリックは青年を見つけた。大学生の彼は離れた場所で思い詰めた表情をしてこちらを見ていた。そしてエリックと視線が合うと、静かに礼をした。
エリックはもう一度オルガを見た。オルガは何も知らず、ハズと笑っている。胸が締め付けられるような思いがしたが、そのまま彼に向き直りエリックは少し微笑んで頷いた。
「あっ、父さん、花火までもう後十五分しかない。イグナーツセントス教会に急がなきゃ!」
オルガが声をあげた。ハズは思わず時計台の時計を仰ぎ見る。
「本当だ、おじさん、おばさん、急ごう!」
二人は教会の塔の上からの花火観覧を楽しみにしていた。きっと手に届く程の距離で、綺麗に花火が見えるだろう。折角テッドが神父をしている自分の叔父に頼んでくれたのだ。遅れる訳にはいかない。始まる瞬間、塔の上から花火を観たい。
四人は賑やかな中央広場の繁華街を抜け、通り沿いに急いだ。
イグナーツセントス教会はガラスのハウスの丘から、街の二番目のシンボルとして見える塔を持つ教会である。この教会もとても古く、建立されてから六百年の年月が過ぎている。
その塔を持つ教会を目指し四人は速足で急いだ。
イグナーツセントス教会の門が見えた時、その前に数人の人が居るのが見えた。
「あっ、みんな来てる!」
ハズが嬉しそうに声を上げた。テッドを初め、ヒューゴにリコにセドリック、マーシャとルーシィまでが居る。
「ルーシィもお許しが出たんだね」
オルガが駆け寄りルーシィの頭を撫でると、ルーシィは嬉しそうにオルガを見上げた。
「リコが一緒だから……」
「みんな揃ったな。じゃあ行こう!」
テッドの掛け声でみんなは門の中へ入った。イグナーツセントス教会の扉を叩くと、テッドの叔父であるバシリオ牧師が出て来た。
「やぁ、いらっしゃい、みんな来たね。エリックとレイチェルも一緒に上がるかい?」
バシリオ牧師の言葉にエリックは首を振った。
「あぁ……いえ、子供達だけお願いします。僕等はここから観させてもらいますよ」
「まぁねぇ、塔の上は狭いからね。大人は管理者として私がついて行くよ」
「お願いします」
エリックとレイチェルの見守る中、子供達はバシリオ牧師と共に教会の中へ入って行った。
「さっき……ここへ来る途中、広場で彼を見たよ」
エリックはレイチェルを見ずにそう呟いた。レイチェルは不安な表情でエリックを見る。
「もう、きっとどうしようもないんだよ。オルガはあの青い石を得た。あれからいろんな事があった、でも……あの子は今もあの頃も変わらず幸せそうだっただろう? 僕等もそうだ、幸せだった……きっとこれからだってそうだ、幸せな筈だ……」
「エリック……」
エリックはレイチェルの体を引き寄せ抱き締めた。
「待つしかないんだ。レイチェル……」
レイチェルはエリックの腕の中で黙って何度も頷いた。その目には涙が溢れていた。そして二人は塔を見つめた。
塔の中に入ると、ずっと先の上の方まで螺旋状に階段が続いていた。子供達はみんな、それを見て眉間に皺を寄せた。
「……なぁテッド。これを上まで行くのか?」
ヒューゴが聞いて来た。
「上がるしかないだろう? 花火を見たくないのか?」
「いや、そりゃあ見たいけどさ……」
渋るヒューゴにハズが笑顔で言った。
「行こうよ! ほら手すりも付いているから大丈夫だよ。スージィはみんなで代わり番子に抱っこしようか?」
「そうだね、じゃないと間に合わない。先ずは私がスージィを抱っこするよ」
リコがすぐに反応し、スージィを抱っこした。テッドが先に歩き出し、次にリコが続いた。みんなそれぞれ最上階へ向けて歩き出し、一番最後にバシリオ牧師が続いた。
「みんな気をつけて、一歩一歩歩くんだよ。ほらちゃんと手すりを持って、気を付けて」
バシリオ牧師の声にみんな励まされ、ドンドン上がって行った。セドリックも懸命に足を動かし、スージィはみんなで代わる代わる抱っこし、もう少しで天辺に着くという時に花火の上がる音がした。
「始まった! おい、みんな! ゆっくりで良いから急げ!」
「何だその矛盾……いや、ニュアンスは分かるけどさ……」
テッドの焦る声にヒューゴは反論したが、みんなは反応した。少し足の動きが早くなる。
「良いから! ほらすぐ次が上がるぞ!」
(明日は間違いなく筋肉痛だ……)
そうは思ったが、オルガもセドリックを引っ張りながら急いだ。着いた時には三発目の花火が上がる所だった。港の方で上がる花火は塔の上から綺麗に隠れる所なくよく見えた。
「わぁ〜〜〜!」
くり抜かれた石の窓に乗り出し、みんなは同じ方向を向いて夜空を眺めた。遅れていたバシリオ神父も漸く追いつき、窓から外を見る。花火は美しく空にあった。
「良く見えるね! 来て良かったね!」
マーシャが顔を輝かせ、みんなを振り向いた。その顔がみんなの気持ちを代弁している。ルーシィはヒューゴに抱っこされ、耳を塞ぎながらも目を輝かせ花火を観ている。みんな笑顔だ。誰一人塔に上がった事を後悔してはいない。
「こんなに綺麗に見えたんだね。ここから花火を見るなんて、テッドに言われるまで気にもしていなかったよ」
バシリオ牧師は汗を拭きながら上がる花火に目をやった。
花火の上がる港の方には明るく見える場所がある。あの辺りは中央広場と同じように屋台が出て混雑しているに違いない。そしてまた花火が上がる。
「花火、見飽きないね」
ハズがオルガに耳打ちした。
「うん、綺麗……」
今日から毎日、何千何万という数の花火が三日間に分けて打ち上げられる。今日は初日だから『青の祭り』の始まりに相応しく青色の花火が多い。その中にたまに黄色とオレンジが混ざる。
その配色は街を彩るリボンと同じで、見ていると祭りの意味を思い出した。
『竜の鎮魂』、伝説は悲しいものだったが、鎮魂の意味を込めているのは間違いない。花火を見ながらオルガは、知らず知らず手を組んでいた。
(どうか、ソラとフィールが穏やかでありますように……どうか天国で出会っていますように……どうか……もうソラとフィールの魂に悲しい事が起こりませんように……)
その気持ちはオルガの深い所から空へ舞い上がっていくような感覚を呼び起こした。その時隣のハズがオルガの袖を掴んだ。見ると不安そうな表情をしている。
「どうしたの?」
「何だか、一瞬オルガが居なくなるような気がして……」
「そんな訳ないでしょ? あの青色の花火を観ていたら、竜の幸せを願わずにはいられなくて……今、祈ってた」
「……竜の伝説の?」
「そう」
オルガはハズに笑顔で答えた。ハズは安心したように笑い返したが、袖は掴んだままだった。本当の『竜の伝説』の事はハズは知らない。でも、勘の良いハズはオルガの思いを感じ取ったのかもしれない。オルガはハズを安心させるように掴むその手をポンポンと叩いた。
花火はそれからも打ち上がり、始まって一時間を回る頃に今日の分は終わった。明日、また同じ位の量の花火が打ち上げられる。
「終わっちゃったね……」
暗くなった夜空を見つめ、リコの呟きに呼応するようにオルガは頷いた。
「今日は本当にありがとう。俺、みんなとこうして花火を見る事が出来て、嬉しかった」
「私も! とっても嬉しかった」
ヒューゴとマーシャがテッドに向かった後、ハズとオルガに目を向けお礼を言った。セドリックもリコもスージィもみんなの目が笑っている。ハズは朝から忙しかったけれど、この笑顔を見ると報われる気がする。
「じゃあ、そろそろ下へ降りようか……」
バジリオ牧師の掛け声で、みんなは動き始め、塔から降りて行く。オルガは最後にもう一度石の窓に近付き港の灯りを見つめた。自分はこの日を忘れる事はないだろう。
「おい、オルガ、降りるぞ」
後ろからテッドに声を掛けられオルガは振り向いた。その時、首元のワンピースのひだから青い石が転がり落ちた。
「あ!」
慌ててオルガはそれを取ろうと手を伸ばしたが、青い石はその手を擦り抜けた。急いで追いながらオルガは青い石が落ちる寸前で掴まえ、ホッとしたのも束の間、体勢が崩れた。
しまった! と思った瞬間、身体が塔の上の階段脇の小さなスペースから乗り出し……。次の瞬間、テッドの悲痛な顔と差し伸べられた手が見えた。オルガはその手を掴もうと必死に手を伸ばすが、そのまま落ちて行った。
「いやぁ! オルガ!!!」
誰かの叫びが聞こえた。落ちながら両親とみんなへの詫びる気持ちと諦めが心を巡った。
そして地面へ叩きつけられる恐怖の思いが起こり、オルガの記憶は途絶えた。
本当に、いつもありがとうございます。
メッセージ、本当にどれだけの力になっているのか説明が出来ません。
感謝しか出てこない。
このペースで書いていけたらと思います。
他の方々もメッセージをくださったら嬉しいです。