騎士対抗戦
薄ら寒くて目が覚めると王女は自室のベッドの上に居た。酷くお腹が減ってはいるが、気持ち悪さもほんの少し残っている。
昨日の事を思い出すと王女は大きな溜息を吐いた。
イリスに迷惑を掛けた。彼女の部屋で飲んだ酒を流すため大量に吐いたのだ。そのせいなのだろう、喉が少し痛い。
起き上がると部屋には誰も居なかった。リリーやマーレットは何処へ行ったのだろう。ベッドの上に座り胃の辺りを摩り、王女はベッドから降りた。
サイドテーブルに水差しとカップが置いてある。王女は水差しからカップに水を注ぎ一気に飲んだ。水は冷たく部屋の空気の寒さと重なり王女はブルッと震えた。
窓の外は良い天気でハボニア山の雪が輝いて見えている。
「あぁ、姫様、お目覚めでしたか?」
リリーとマーレットが入ってきた。
「ご気分はいかがですか? 昨日が昨日だけに心配なのですが……」
「おはようリリー、マーレット……あの……昨日は本当にごめんなさい。とても反省しています」
王女は俯きがちに声を出した。水は飲んだものの喉の調子が戻っていないのか声が通らない。
「良いのですよ。対処方法をイリス様が知っていたので良うございました。朝食はどうですか? 食べられそうですか?」
「……お腹は空いてます、でもそうは食べられないと思います」
「ならばスープをお持ち致しましょう。野菜を崩した物なら胃に優しいでしょう。今日は少し寒さが強うございますので、着る物は厚手の物を準備して参りました」
そのまま身支度に入り、一通り朝の準備を整えるとリリーはマーレットに声をかけ朝食の準備をお願いした。
王女はテーブルについた。朝食が運ばれてくるまでの時間、また、昨夜の事を苦々しく思い出す。もうあのような強い酒は二度と飲むまい。
朝食は野菜のスープと柔らかいパンだった。柔らかいパンと言っても、普通の丸パンのカリカリの皮を外し中身だけを切ったものであった。それでも今の王女には有難い食事だった。
スープは暖かく冷えた体が温まる。少し塩気が薄いのは今日の胃の状態を考えてくれたのだろう。王女は優しさの詰まった朝食をユックリと食べ終える事が出来た。
「食事を終えたら、エリスロット様とイリス様が声をかけて欲しいそうです。外で待機なさっているのでお呼びしてもよろしいですか?」
「えぇ」
リリーはすぐに部屋を出て行った。リリーの後ろ姿を見ながら、王女はエリスロットとイリスにも謝らなければと思った。マーレットはテーブルを片付け始めている。
「わたしは昨夜、マーレットにも迷惑をかけましたか?」
部屋に戻ってきた記憶のない王女は、おずおずとマーレットに声を掛けた。マーレットはニッコリと笑った。
「姫様は何にも迷惑は掛けておりませんよ。私はエリスロット様に言われてベッドを整えただけですから、いつもの通りでございました」
マーレットの笑顔に救われる思いがした所で、二人が入ってきた。
「おはようございます、姫」
「気分は如何ですか?」
爽やかな朝に相応しく、二人は笑顔で部屋に入って来た。
「おはよう、イリス、エリスロット……昨夜は申し訳ない事をしました。でもお陰様で今朝は朝食をいただく事が出来ました。本当に二人のお陰です」
「元気になられて良かった」
王女の顔を見て二人共ホッとしたように笑った。
「騎士に成り立ての頃、私も上司に勧められ強い酒を飲まされました。昨夜の姫様と同じような状態になり、必死に耐えた経験があります」
イリスが苦笑しながら話した。それに対しエリスロットは感心したように言う。
「そうなのか?……イリスにもそのような初々しい時があったとは初耳だ。今は蟒蛇だからな」
イリスはジロリとその声の主を見遣った。
「姫様の前で話すことではあるまい」
「今後長い付き合いになるのだから、知っておく必要はあると思うが……」
途端にイリスはエリスロットに向き直った。
「エリスロット、君の空気を読む感の良さは姫様にしか通用しないのだな……まぁ良い、後程ユックリと話をしようではないか」
珍しくイリスがニッコリと笑っている。そこで漸くエリスロットは気付いたようで黙り込んだ。
「そう言えば、騎士戦の事はどうなりましたか? 何か動きはありましたか?」
「あぁ、そうでした! それを言いに来たのです」
エリスロットが慌てて言う。
「今朝方早くに、ゼファール王より騎士団全員に騎士対抗戦を行う事が伝えられました。そしてその頂点に立つ者に褒美を与えると……ちょっとした工作は上手く行ったようです」
「では、今初めて聞いたように話を伺いに行きましょう。ゼファール様に会う手配をお願いします」
王女の言葉に皆は一斉に動いた。
広間では昨夜の酷い宴の名残は微塵もなかった。徹底して掃除を行ったのだろう、残り香すら無い。我がリングレントの同胞達は優秀である。そう思いつつ王女はゼファールに面した。
「お時間を作って頂き、ありがとうございます」
広間に入ると、王女は先ず会う許可を貰った事に感謝の意を示した。それに対しゼファールは、椅子に肘をつき頬杖のまま面倒臭そうに返事をした。
「私に会いたいのなら好きに会いに来れば良い。使者を送る方が面倒だ。我が妻となる者を咎めたりはせぬ。私もお前に会いたい時はそうする」
王女はニッコリと笑った。
「それは嬉しゅう御座います。では次回からはそうさせて頂きますわ。それで……騎士対抗戦の事をお聞き致しました。何をするおつもりなのか詳しく聞きたいと思いまして……」
王女は自分は微塵もそんな事を思っていなかったと言わんばかりに、澄ました顔でゼファールに言った。
「単なる余興だ。我がルーディア軍の猛者どもは気性が荒い。ここで息抜きをさせねばリングレントの者達に危害を与えかねんのでな……」
ゼファールはニヤリと笑ってそう言う。見ている王女にはそこに違和感は感じない。しかし……王女はまたニコリと笑った。
「あら……リングレントの騎士達の気性はご存知ではないのですか?こちらも強い者を揃えておりましてよ」
「……ふむ、ならばやる事に対しては異存はないのだな」
「えぇ、一番強い者など、やってみなければ分かりませんもの」
ゼファールは頬杖を止め王女を見つめた。
「面白い。ではルールを決める。ここは戦場ではない、よって殺し合うのは困る。使える武器は何れも練習用の切れぬ剣または槍のみとする。それで良いかな我が未来の花嫁殿」
王女はゼファールの申し出に意外な思いがした。ゼファールの雰囲気からは殺し合っても良いと言う勢いだったのだが、今の発言は明確に殺し合いは避けよと言ったも同じだ。
ゼファールと言う男はなかなか先が読めない。たかだか数日の対面でわかる訳はないのだが、その人の持つ印象と言うものは初対面でおおよそ予想がつくものだ。だが、ゼファールは違った。
「それで宜しいですわ」
優雅に微笑んでから王女はニコリと笑みを深めた。
ゼファールはすぐに騎士達を集めた。広間に入りきれない者は、後程聞いた者から内容を聞くよう伝えられ、皆の前でゼファールは宣言した。
「では明後日、午後より試合を始める。先ずはルーディアとリングレント、各々の上位二名を決定せよ。場所は砦の建物と壁の間の広場を使う。それからルーディアとリングレントのそれぞれの上位二名づつを無作為に戦わせ、頂点に立つ者を決める。頂点に立つ者には褒美をとらせるから心して行うが良い」
ここで一度言葉を止め、ゼファールは皆を見廻した。
「私は卑怯な者は好かぬ。誠実な者が好きだ。それゆえルーディアだろうとリングレントだろうと贔屓はせぬ。正々堂々と戦え!」
敵方の将とは言え、超然としたゼファールの言葉と態度はルーディアの騎士だけではなくリングレントの騎士達にも影響を与えているように見えた。そして今、ゼファールはルーディアの騎士を贔屓する訳ではなく全ての騎士達を平等に扱うと話している。
王女はまた驚いた。このような王が居るのだろうか? 自国の人間と他国の人間を分け隔てなく平等に扱う。人は誰しも身近な者を贔屓する。だからこそ正しい眼を養う必要があるのだ。だがゼファールはどうだ? 身内と他人の区別もしないというのか?
王女が考え込んでいるうちに騎士対抗戦のルールが伝えられ、見ている間に騎士達の気持ちは高まっていった。王女はそれを不思議な感覚で見つめていた。
「面白いですね。このような事で人の士気は上がるものなのですね」
王女は傍にいたイリスに声を掛けた。声を掛けられたイリスは冷静にゼファールを分析していた。
「ゼファール王は士気を上げるのが殊の外上手いと思います。この様子から察するに、実戦になると更に士気は高くなるのでしょう」
王女はイリスの言葉に小さく何度も頷いた。成程、士気と言うものは先導者によって変わるものなのだ。ならばゼファールはルーディアの騎士にとって良い先導者なのだろう。
そのまま一同は解散になり、王女達も部屋へ戻った。
部屋へ戻るとすぐにイリスがエリスロットに向かって言った。
「……試合では、私は三回戦で敗退するとしよう」
イリスは涼しい顔でなんとも可笑しな事を言う。王女は耳を疑った。
「イリス、どういう事です?」
イリスは笑う。
「いえ……早めに敗退しておかねば王女に付く者が居ないのは困るので……エリスロット、君は勝ち残れ」
その途端エリスロットは不満そうに顔を顰め大きな溜息をついた。
「はぁー全くいつもこれですよ。イリス、一度くらい真剣に勝負をしてみたらどうなのだ? 折角の機会だ、やってみろ」
「悪いが無駄な事はしたくない。いくらリリー殿やマーレット殿が剣の腕が立つと言っても、二人だけでは心許ない。よって私は三回戦までは楽しむ事にするが、それ以降は警護にまわる」
王女はそれを聞いても意味がわからず、どう言う事なのか聞いてみると、イリスはいつも手加減をして剣の稽古の方も行うらしい。そしてそれが実力なのだと見ていると、真剣にならねばならない時には突如として誰よりも強くなるのだそうだ。
「こいつは姫の騎士を決める時もそうだったのですよ。勝負の時、私は彼女と対戦したのです。イリスはそれまで剣の使い手として目立った様子がなかったので、しめたと思っていたら……こいつは私より先に姫の騎士の座を射止めたのです!」
「あれは君が勝手に気を抜いていたからではないか。私のせいではない」
「クゥー、何というか無性に腹が立ってくる……今回だってのっけから手を抜くなど卑怯だぞ」
「卑怯なものか。三回戦まではやると言っているではないか。その代わり頂点は譲ってやるんだ。君が頂点に立てば良いだけの話だろう」
「それが腹が立つと言うのだ!」
王女は目の前で展開される側近二人の掛け合いを面白そうに笑って見ていた。
「それで? 実際にはどちらが強いのですか?」
王女の言葉にエリスロットは渋い顔をした。
「本当にわからないのです」
しかしイリスは表情さえ崩さない。
「エリスロットでしょう。私は副騎士の立場なので……あぁ、そうそうあの二人の伝令係、ロルカとフィリップには参加は必要ないでしょう。それを伝えねばなりませんね」
エリスロットは苦々しい顔をしてイリスを睨んだ。だがイリスは涼しい顔で微笑みさえ見せながらそう言った。
斯くして発表から二日の間に準備が進み、練習用の剣と槍も集められ、騎士達の試合が始まった。
王女と二人の侍女達は少し離れた試合の様子が見渡せる場所に席が作られ、そこで観戦する事となった。
初めはリングレントの兵士同士、ルーディアの兵士同士の戦いが行われる。全ての兵士と騎士が参加する仕組みは面白い程スムーズに準備されていく。その手順の良さから、王女はゼファールは実は何度もこのような行事を行っていたのかもと思った。
参加者達には数字の書かれた小さな木の札が配られた。
「それは自身の番号である。読み上げた者同士がこの場で戦うように」
ゼファールの側近の一人が取り仕切りリングレントの騎士とルーディアの騎士に分かれて配されている。リングレントの七十名程の騎士達はその木の札を持ち、それぞれに下がっていった。
「先ずは一番と二番、前へ出よ」
二人の騎士が前へ進み出た。一人は細身で背が高く、一人は中肉中背の若者だ。ゼファールの側近はその札を確認し二人を相対させた。
「では、始め!」
二人の騎士は練習用の剣を互いに握り、相手を睨みつける。
一見すると手足の長い身長の高い者の方が優勢に見えた。だが始まってみると、中肉中背の者の方が安定感があり剣先にブレがない。初めはお互いに牽制していた二人は、何度もぶつかり合い、終いには体力の違いもあり無駄な動きの少ない中肉中背の者が勝利した。
「面白いですね。見た目の予想とは違う結果が出るとは……それとも剣士であれば見ただけでわかるのでしょうか?」
「身体の大きさを見ただけではわかりません。でも、その者の動きで大体の予想はつきますよ……あちらの戦いはきっと身体の小さい者が勝つでしょう」
王女の細やかな疑問はリリーとマーレットによって説明された。身体が大きい方が力は強く、手足が長い分剣が届く範囲が広い。だが動きに敏捷性があるのは小さい身体の者の方が優れている。それに耐久性も加われば、身体の小さい者でも勝ち抜いて行けるのだという。
「エリスロットとイリスはどちらに居るのか見えますか?」
「……こちらからではまだ分かりかねます」
リリーが視線を彷徨わせながらいう矢先、マーレットが声を上げ指差した。
「あ! あちらにエリスロット様がいらっしゃいます」
「あの分では試合はまだまだ先のようですね」
指差す方に、頭一つ分背の高いエリスロットの金髪が見えている。エリスロットの確認は出来た。次はイリスだ。
「イリスはどちらかしら?」
その時ゼファールの側近が声を上げた。
「次! 七番と八番は前へ出よ!」
騎士二人が前へ出る。そしてそこにイリスが居た。イリスは長い髪を後ろの高い位置で結び、防具は何も付けずに剣だけを携え出て来た。
「イリス様の試合です!」
リリーが少し興奮気味にそう言った。そして「始め」の声と共に試合が始まる。
相手の男はイリスより少し大きな身長ではあるが、何故か彼が緊張しているのがこちらからもよく見えた。相手の男は剣を握り締めじりじりと近付いて行く、しかしイリスは剣を構えもせずに立っていた。
「……どうしたのかしら?」
王女がそう呟いた時、男がイリスとの距離を詰めた、そして剣を振り下ろそうとした瞬間、イリスが一歩だけ動き剣を下方から男の剣を受けそのまま振り上げた。距離を縮めていた男はそのままその一振りに弾き飛ばされゴロゴロと転がって行く。
見ていた者達は一瞬の出来事に何が起こったのかわかっていなかった。会場がシーンと静まる中、イリスはそのまま会場を下がって行く。
「何と……イリスは強いのですね」
「はい、あれがイリス様の戦い方です。イリス様の信義にもある通り、無駄な事はしないのですよ。それが功を奏し長く戦えるのだと聞きました」
「リリーはイリスの戦い方を知っていたのですか?」
「えぇ勿論です。私達、新しい姫様付きの侍女達は、皆イリス様と剣を交えて選ばれていますから」
それは初耳だった。そう言えば、新しい侍女を選ぶと言っていた頃、イリスは父に呼び出され半日戻って来なかった事がある。きっとあの時だろう。
「そうだったのですか……」
自分の周りの者達の忠誠と信義と心情を今更ながら心深くに思う。彼らと出会えた事は有難い事なのだ。
剣の試合は着々と進み暫くするとエリスロットの番になった。エリスロットの対戦相手は筋肉の盛り上がる大男だった。あの巨漢で太刀を一振りされると吹き飛ばされるのではないかと思う程の大男だ。比較的筋肉の付いている筈のエリスロットが華奢に見える。
「エリスロットは……大丈夫でしょうか?」
見ている王女は流石に心配になり、思わず心の内を口に出してしまった。
「心配なさらなくとも大丈夫ですよ」
王女の心配を他所にリリーもマーレットも笑って見ている。王女は両手を握り締めエリスロットに視線を注いだ。
エリスロットは普段の彼と変わらず、前へ進んだ後、落ち着いた様子で巨漢の男と対面した。男は決意した顔をしている。リングレントの兵士ならば王女付きの側近の腕のレベルは知っているのだろう。しかしあの体格の差は見るからに何ともエリスロットが不利に思えるのだ。
エリスロットはユックリと剣を構えると「始め」の言葉を待った。
声が掛かると、二人は暫く睨み合ったまま動かなかった。しかし先に行動したのはエリスロットだった。間合いを詰めたかと思うと相手の剣先をピンと跳ね上げそのまま距離を取る。相手は急に間合いを詰めたエリスロットに剣で切りつけようとしたが、一瞬エリスロットの方が行動は早かった。剣を跳ねられはしたが男の手から落ちる事はない。だが焦りが見えた。
今度は男の方が動いた。一歩前進し剣をエリスロットに向け横に斬りつけた。エリスロットはそれをしゃがみ込んで回避すると、次の瞬間一歩踏み込んだ形で体勢の崩れた男の腹に剣を当てていた。稽古用とはいえ思い切り剣先で押されると痛いのだろう。男は剣を持ったまま腹を摩るのが見えた。
それで終わりだった。
「何という事、本当に私の騎士達は強いのだわ」
「これは序の口でございますよ。お二人共、当たり前に頂点に立つ腕は持っておりますから」
「……」
王女は何も言えなかった。よく知る者の本気を見るのも悪くはない。知らずにいた彼等の様子は実に胸がすく思いがする。
こうして一次戦は滞りなく終わった。全員参加の人数が半分になった事で次の日はもう少し時間的に余裕が出来る。次はルーディア側の様子も見たいものだ。そう思いながら王女は自室に戻った。
王女が部屋へ戻るとすぐにイリスとエリスロットが戻って来た。
「二人共ご苦労様でした。見ていて私の騎士は強いのだと誇らしく思いましたわ」
王女の賛辞にエリスロットは嬉しそうに笑顔を浮かべ、イリスは少しニヒルに笑った。
「イリスはそんなに細いのに何故あのような自分より大きな者を、一太刀ではねのける事が出来たのですか? とても驚きました」
王女の言葉に、イリスは少し笑い何でもないように言う。
「コツがあるのですよ。タイミングを少しズラせば、相手は己の力で転げて行くのです。お望みならばお教えして差し上げますが……」
だがすかさず慌てたエリスロットが声を挟んだ。
「イリス、それだけは辞めてくれ、姫が姫で無くなってしまう……」
「何故だ。剣を使えるようになれば身を守る事になるではないか」
「わかる……それはわかるが……」
エリスロットは言葉を濁し、小さな声で呟いた。
「イリスのようになっては欲しくない……」
「何だ? 私に聞こえるように、大きな声で言え」
腕を組み冷めた目付きでイリスはエリスロットを見た。エリスロットはそのまま黙り込む。リリーとマーレットはお茶の準備をすると言い、そそくさとその場を離れて行った。
「貴方達二人は本当に、とても仲が良いのですね」
そう言いながら満面の笑みを浮かべニコニコと笑う王女に、エリスロットは恨めしそうな目を向け、イリスは何事もなかったかのように平然としていた。
エリスロットとイリス。
貴族の階級上、エリスロットが上司の立場を取っていますが、実は腕はイリスが上かもしれません。
いや、本当、イリスが真面目に勝負をしないので本当に解らないのですがね……。