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プロローグ


 遥かな(いにしえ)の時、この街には竜が住んでいた。

 二匹の竜は人間とも仲が良く、人間も彼らの事を大事に思っていた。

 

 そんな彼らの姿はどこにもなく、今は『竜の伝説』だけが残っている……






            * * * * *






 オルガは本棚に並べてある『竜の伝説』の絵本を手に取ると、机の上でパラリと捲った。


 幼い頃から馴染んでいるその絵本は王道のハッピーエンドだ。


 竜の住む小さな王国の王女と隣国の王子が竜と共に冒険に出るこのお話は、翼を持つ竜の背に乗って空を飛びながら色々な国を訪れる。


 二人と竜はいつも仲良しでどんな困難にも負けずに進んで行く。


 時には悪い奴らと戦い、時には変わった習慣を持つ国に連れて行かれ、多くの人々を知恵と勇気で助けて周るのだ。


 世界中の何処にも困っている人が居なくなると、二人は大きくなったら再び会う事を約束してそれぞれの国へ帰って行く。



 そんな内容だった。



 オルガの住む街には実際に『竜の伝説』がある。

 街の人気者だった心優しい竜は、ある日、寿命が来て死んでしまったのだという。その竜を偲んでこの街では年に一度『青の祭り』が行われていた。


 オルガが自室の窓から外を見ると、二週間前から街中に青いリボンが飾り付けられていて、その青色の間にオレンジと檸檬色の二色のリボンが見え隠れしていた。


 祭りの準備は着々と進んでいるのだろう。


 今年はその『青の祭り』が、八百回目を迎えるという。

 八百年前に住んでいたという竜の記録は歴史博物館にほんの少しあるだけだ。


「この街に竜がいた……」


 その事実は信じられないが、人が好きだったという竜が生きていたのなら自分も会ってみたかったと思う。



 オルガはそのまま窓の外を見ていた。

 きっと今日も父は街の飾り付けに向かうだろう。そして母は祭りのお菓子を焼き、祭りの最中は街の中央広場には様々な露店が並び最高の賑わいを見せる。

 そして毎年やってくる街の一番のイベントのサーカスをみんなで見に行くのだ。


 物心ついた頃から『青の祭り』の過ごし方は変わらない。


 祭りが始まるまでまだ数日あるにも関わらず、彼女の気持ちは落ち着きがなくなっていた。



 視線を絵本に戻すと、捲った絵本のページには美しいドレスを着た大人になった王女と素敵な王子が描かれていた。


『数年後、大人になった王女と隣国の王子は、舞踏会で再会しました』


 そのページにはそう書かれてある。オルガは次のページを捲る。


『王女と王子はお互いの思いを確かめました。そして二人は結ばれたのです。二人の結婚式には、一緒に旅をした翼のある竜とずっと帰りを待っていた翼のない竜もやってきました』


 旅をしたのは翼のある竜だけど、最後のページにはもう一体翼のない竜の絵も描かれている。伝説の中ではその竜の活躍はないけれど、愛嬌のある優しい竜の顔はどこかホッとさせる表情だった。


 最後のページには王女と王子と二匹の竜達の幸せそうな姿が描かれている。


「そして王女と王子と竜達はその後も幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」



 オルガは幸せな二人と二匹の生活を思うと和やかな気持ちになる。きっとこのまま平和に楽しく暮らしたに違いない。


 オルガは何よりこの優しい竜達の話が一番好きだった。



 

 そして、もう直ぐ竜達の『青の祭り』が始まる。

 この祭りは竜達の鎮魂のために行われる祭りなのである。


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イラスト:青羽さんより(@aoba_bw)

青羽さん素敵なイラストをありがとうございました!

大切にします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 青の祭り。タイトルと合わせて美しい響きですね。 これからどんな物語が紡がれるのか、楽しみです。
[良い点] 非常に先が気になる導入であり、物語の触りとして十分な機能を発揮している。作者の思惑は概ね表現されていると感じた。 [気になる点] 現時点で、『フィオナ』の性別が不明であるがゆえに、男女どち…
[一言] プロローグ、入れたのですね。一番シンプルなパターンですね。 やはりここで竜の物語が入って、え「竜がいたのか?」と記憶の片隅に覚えてもらうのはイイ感じです。 (読者によっては色々な感想があ…
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