第3小節【男には引くに引けないときだってあるんだ】
家の近くのハンバーガー屋で食事を済ませ、家に帰ってくると、階段を登って二階にある自分の部屋に入り、コントローラーを手にして、ゲームの電源を入れる。
時間にして十秒ほど。まさに流れるような普段からのルーティーンである。
そしてそのままベッドに倒れ込むと、これで夜更かしの準備は完璧に整ったわけだ。
「よし。今日でこの街のクエスト全部終わらせてやる・・・・・・」
まさにそう呟いたときである。
スマートフォンが震えながら着信を知らせてきた。
ディスプレイに「愛莉」の文字が表示されているのを確認して、電話に出た。
「おお、愛しのマイシスターよ、お兄ちゃんと離ればなれになって寂しくなっちゃったかい?」
・・・・・・ツーツーツー。
どうやら切られてしまったようだ。
しかしこれは愛莉がよくやる手段なのだ、まったく可愛い妹である。
案の定、一息置いてまた着信がくる。
「・・・・・・ごめんね?」
「―分かればいいです」
ぷりぷり怒っている愛莉がそのまま続ける。
「―明日の準備は済みましたか?」
「おう、もうすっかりバッチグーよバッチグー」
「―お兄ちゃんのことだから、明日は寝坊したり、新幹線を間違えたりはしないと思いますけど、くれぐれも気をつけてくださいね。」
「お兄ちゃんはそんなフラグには負けないから安心してくれ、マイシ・・・・・・」
「―じゃあ明日の十三時に春多岐駅で待ってますね」
「あ、はいっ」
愛莉の食い気味な勢いに押されて、オレは思わずよそよそしくなってしまう。
「―じゃあ、今遊んでるゲームを消して、とっととお風呂入って寝てください。」
「あっ、・・・・・・はーい」
まるで真横で見られていたかのように、オレのことを分かっている愛莉に対して、見透かされていた恥ずかしさを覚えながらも、それを悟られないようにそっと通話終了ボタンを押す。
部屋の壁にかかっている時計の針は、すでに十二時を指そうというところだ。
そこまで朝が早いわけではない、どうせ九時、十時に起きれば問題ないのだから。
「よし、クエストスタート!」
そういってゲームを始めてしまったわけで、オレはまったく意志の弱い男であると改めて自覚した。