第2話 特典色々!
「では気を取り直して、ここからは、アーリー・リタイア制度の具体的な説明に入らせていただきますね」
ギルド職員のハシリーさんが親切に教えてくれる。
よし、いよいよ本題だ!
いったいどんな特典があるんだろうか?
周りの冒険者たちも、こっちに聞き耳を立てているのが丸わかりだ。
「まずはですね、グレイブさんの口座に、毎月お金が振り込まれます!」
「「「な、なんだって~~っ!?」」」
周囲の冒険者が、こぞって騒ぎ立てる。
そりゃそうだ、俺だってビックリだ。
こう言っちゃなんだが、冒険者稼業は博打な仕事だ。浮き沈みが激しいし、収入が安定しない割に、危険が大きい。
一発当てることなんて、よっぽどのことがない限りほぼ不可能だし、マトモな人なら冒険者なんて普通はやらない。
そんな冒険者が増加の一途を辿っている原因が実はあるんだが……今は関係ないので置いておこう。
「グレイブさんはAランクなので、給付額もかなりのものですよ! 働かなくとも、一生贅沢に過ごすことができます!」
「ほ、ほんとか!?」
「本当です!」
ハシリーさんが勢い込んで告げてくる。
ランク維持のために、今まで頑張ってきて正解だった。努力が報われた瞬間だ。
そうそう、言ってなかったけど、俺はAランクの冒険者だ。
Aランクの上には、S、SS、SSSランクとあるんだが、Sランク以上になるためには特別な条件を達成しないといけないから、Aランクが最高だと言ってもいいかもしれない。
ちなみに、この街のAランク冒険者は俺だけだ。
あんまり言うと自慢みたいで好きじゃないんだが、Aランクになるのは相当難しい。だからAランク冒険者というのは、超一流の冒険者と同義で、人々からは尊敬の眼差しで見られることが多い。
Aランクの冒険者はそんなに数も多くないしな。良くも悪くも、目立ってしまう。
そんなわけで、俺がAランク冒険者であることを自分から大っぴらにすることは滅多にない。
バレたら一気に人が集まってきて称賛されるから、恥ずかしいんだ。
この街では数年過ごしているから、俺がAランク冒険者であることはみんな知っている。俺がAランクだと周囲に知れ渡ったときは、それはもう大変な騒ぎになった。
「他にも、冒険者ギルドが関係している施設を格安で利用することができます! 無料で使えるところもありますよ!」
「す、すごいな……。ということは、観光施設なんかも、割引されるってことだよな?」
「はい、その通りです!」
冒険者ギルドは各地にあるから、その関係で観光業にも携わっている。
「最近流行ってる温泉なんかも、安くなったりするのか?」
「もちろんです! 無料になるところもありますよ!」
これは朗報だ。
若い頃は一晩ぐっすり眠れば身体の疲れが取れてたんだが、最近は寝ても疲労が残っていることが多かったからな。温泉が安く使えるなら、ありがたい。
存分に温泉を楽しんで過ごすというのも、悪くないな。
他にも、冒険者ギルドに併設されている酒場を無料で使えたり、どこの国や街でも自由に出入りできる権利が保証されたりと、特典は驚くほどあった。
だが俺が一番驚いたのは、
「そしてですね、他にも色々とあるのですが、なんと言っても凄まじいのが、『スタンプラリー』です!」
ハシリーさんが熱く語ってくれたことを簡単にまとめると、たとえばA国B街に行けばA国とB街のスタンプが、その後にA国C街に行けばC街のスタンプが、各地の冒険者ギルドで申請することによって俺の冒険者カードに付与されるらしい。このスタンプは国や街によって固有のものらしく、国や街を巡れば巡るほど、つまり多くの国や街を訪れれば訪れるほど、スタンプが増えていくというわけだ。
もちろん冒険者ギルドのないところでは、スタンプを手に入れることはできない。
そして肝心なのは、獲得したスタンプの数に応じて、冒険者ギルドからさらなる特典がもらえるということだ。
スタンプを集めるために大陸を渡り歩くのも良いかもしれないな。
アーリー・リタイア制度の過剰なまでの恩恵に、俺は驚嘆する。冒険者ギルドが本気で冒険者の数を減らしたいからこそ、これほどまでにサービスが充実しているのだろう。
正直、こんなにサービスがあっても使いきれるのか不安だ。
「アーリー・リタイア制度のおおまかな説明は、以上で終わりです。まだ試験的な制度なので、追って新たな特典が増えたりすることもあるかと思います。何かわからないことがあったら、冒険者ギルドで聞いてみてくださいね」
「ああ。ハシリーさん、丁寧に説明してくれてありがとな」
「いえいえ、お役に立てたのなら、良かったです。……あっ! 忘れるところでした!」
「ん、まだ何かあるのか?」
「はい、一番大事なことを言い忘れそうでした。アーリー・リタイア制度はまだ仮のものなので、より良い制度にするべく、お試しをしていただく方の要望を積極的に取り入れようということになっています。ですのでグレイブさんが、こんな特典が欲しいと思うものがあれば、いつでも遠慮せず、冒険者ギルドにお伝えくださいね。全部が全部採用されるとは限りませんが、ある程度融通は利くと思いますよ」
冒険者ギルドが個人の要求を受け入れるなんて、にわかには信じられないことだ。
「そりゃまた太っ腹だな。でもそんなことして、冒険者ギルドは大丈夫なのか?」
するとなぜかハシリーさんは、俺から目を逸らした。
「え、ええ! だ、大丈夫です! 何も問題はないはず、です」
ハシリーさんは何かを誤魔化しているように見えた。
だがまあ、細かいことは気にしなくてもいいか。せっかく冒険者を引退できるんだし、冒険者ギルドのごたごたに巻き込まれるのは御免だしな。
「そうか。なら、良いんだけどな」
俺がそう言うと、ハシリーさんは曖昧な笑みを浮かべていた。