第1話 テュラーの街の冒険者ギルドに行ってみる
第2章、開始です!
アリシアとリゼッタは宿で少し休憩したいとのことだったので、俺は一人で街を歩いていた。
恐らく、二人で今後のことを話し合いたいのだろう。
俺はただ漫然と歩いているわけではなくて、ちゃんと目的地がある。
テュラーの街の冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドにちょっとお願いしたいことがあるからな。
それに、二人の相談が終わる前に戻っちまったら、どことなく気まずいし。
俺はテュラーの街並みを観察しながら、冒険者ギルドへ向けて足を運ぶ。
冒険者ギルド・テュラー支部に到着した。
やはり活気のある街だから、それなりの外観だ。
アルケーの街もどちからといえば栄えている方なんだが、さすがにテュラーとは比べものにならない。
観音扉を開け、冒険者ギルドの中に入った。
やはり人が多くて活気がある。冒険者も、ギルド職員も、たくさんいる。
これだけ人がいるってことは、仕事がたくさんあるってことだ。
魔物退治というよりは、行商人の警護の依頼が多そうだけどな。
受付を待っている列があったので、最後尾に並んだ。
受付の職員は仕事が速くて、人がどんどん捌けていく。
大きな街で仕事をするには、相応の能力が求められるからな。それに、何度も数をこなしていれば、自然と熟達していくものだ。
「お次の方、どうぞー」
俺の番がやってきた。
「御用件は何ですか?」
まだ若い女性の職員だ。
「えっとだな、お願いがあって来たんだが」
「はい、なんでしょう?」
俺は懐から冒険者カードを取り出した。
「俺は『アーリー・リタイア制度』に採用されていて、これを渡されたときにある程度なら俺の要望を言っていいと聞いたんだが――」
俺が話を続けようとしたら、受付嬢の態度が一変した。
「も、申し訳ございません! 少々お待ちください!」
慌てて奥の方へと駆けていった。
いったいどうしたんだ?
何かまずいことでもしたか?
暫く待っていると、さっきの受付嬢が五十代くらいの男性とともに急いでやってきた。
「お待たせしました!」
「いや、別に構わないんだが……」
どうしても気になって、男性の方をちらちらと見てしまう。
「たいそう失礼を致しました。私、ここのギルドマスターをやっておりますオルカと申します」
「ギ、ギルドマスター!?」
俺はビックリして大声で叫んでしまった。
周囲からの視線を集めてしまう。
そりゃそうだ。
普通、たかだか冒険者相手にギルドマスターが出てくるなんてあり得ないからな。
「どうしたんだ?」「なにがあったんだ?」という囁き声が、耳に入ってくる。
「ここではゆっくり話せませんな。どうぞ、中へ。私の部屋で応対させていただきます」
すると周りの冒険者たちが、
「おい、聞いたか? ギルドマスターの部屋に案内されるんだってよ!」
「おいおいまじかよ! あいつ何者だよ!」
「おっさんなのに、すげえな! いったい誰なんだ?」
「ギルドマスター直々に対応だなんて、聞いたことねえよ!」
あちこちで俺のことを騒ぎ立てるもんだから、恥ずかしすぎる。
俺は急いで中に入り、ギルドマスターに案内されて豪華な部屋へとやってきた。
「ささ、どうぞお座りください。遠慮はいりませんので」
「は、はあ……」
俺は呆然としてまともな言葉が出てこない。
椅子に腰掛けたら、体が沈みそうなほど柔らかくて、驚いた。これはきっと、高級な椅子に違いない。
「まずは長いことお待たせしてしまったことをお詫びさせてください」
ギルドマスターが頭を下げてきた。
権威の象徴たるギルドマスターが冒険者相手に謝罪するなんて、まずないことだ。
「いえいえ、別に大丈夫ですよ! みんな並んでましたし!」
だから俺は混乱しながらも慌てて発言した。
「そう言っていただけると私共も助かります。……ですが次からは、待機列は無視して直接受付の職員に冒険者カードをお見せください。そうしてくださると私が直接お話をお聞きしますので、グレイブさんをお待たせしなくて済みます」
「いやいや、そんなことできませんよ! 並んでいる冒険者の人がいるのにそんなことしたら、悪いじゃないですか」
なんで俺の名前をオルカさんは知っているんだ?
受付嬢が俺の冒険者カードの名前を見て、それをオルカさんに伝えたんだろうか。
「おお! なんとも立派な方だ! 噂で聞いていたよりも、よっぽど優れた人物とお見受け致します」
「う、噂……?」
ギルドマスターは感心したかのようだが、そんなことよりも聞き捨てならないことを耳にしてしまった。
俺についてどんな噂が流れているんだ……?
「いやはや、こちらの話です。……それで、何か御要望があると伺ったのですが……」
はぐらかされてしまった。
あまり余計な詮索をして蛇が出てきても困るしな。気になりはするが、本題に入るとしよう。
「はい。確か俺の要望をある程度までなら聞き入れてくれるという話があったかと思うんですけど……」
「その通りです! 『アーリー・リタイア制度』に採用された方の意見を聞くのは大切なことですからね。どのようなことでもおっしゃってください」
「それじゃあ早速お願いしたいことがあるんですけど」
「はい、何なりとお申し付けください」
なんだか立場が逆転したみたいな感じだ。
それから俺は自分の望みを伝えたら、あっさりと許可された。まさかこの場で了承されるとは思っていなかったので、またもや驚かされた。
それからテュラーのスタンプを押してもらい、冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドを出るとき、ギルドマスターに見送られたもんだから、またしても周囲の人たちに注目されて、恥ずかしかったぜ。