表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退冒険者のおっさん(最強)、2人の少女と旅をする  作者: 餅は餅屋
第1章 おっさん、2人の少女と出会って守ることを決心する
11/31

閑話、その1 あるギルド職員の悩み

「本当に、これで良かったのでしょうか……」



 冒険者ギルド、アルケー支部の事務室で、女性が頭を抱えていた。

 彼女――ハシリーは、とある悩みのせいで、仕事に集中できずにいた。机の上には、書類が乱雑に積み重ねられており、もちろん進捗はよろしくない。



「ハシリーさん、まだ悩んでるんですか? もう済んじゃったことですし、良いじゃないですか」


 同僚の若い男が声をかけてくる。



「でも、やっぱり本当のことを伝えた方が良かったと思うんです」

「知らない方が、良いんじゃないですか? その方がグレイブさんだって、活動しやすいと思いますよ。変に意識しちゃうと、萎縮してしまうかもしれませんし」



 平然と告げてくるが、ハシリーは罪悪感を拭い去れないでいた。



「でも、グレイブさんにはお世話になりましたし……」

「そりゃそうですけど、それとこれとは話が違いますよ」

「フェニスさんには人情というものがないんですか? やっぱりグレイブさんに、申し訳ないですよ」

「言っちゃ駄目だって規則なんですから、仕方ないじゃないですか。あのときハシリーさんが説明したから、心残りになっちゃってるんですよ。だから僕が説明するって言ったのに」



 フェニスは飄々としている。



「ですが……」

「でもまあ、今回のことに関しては本部が悪いですけどね。いくら『アーリー・リタイア制度』を普及させるためとは言え、用意していた予算の全部をグレイブさん一人に使おうと言い出すなんて、本当にどうかしてますよね」

「そうです! その通りです!」



 我が意を得たりと、ハシリーが勢い込む。



「だいたい何ですか! 複数の冒険者を採用するよりも、グレイブさんだけを全力で支援した方が宣伝の効果が高まるって、いったいどういう考え方をしているんでしょうかっ!」

「まあ僕も、それは思いましたけどね。だけどよくよく考えたら、中途半端な人を支援するよりも、グレイブさんみたいな優秀な人に注力した方が、効果はあるかもしれないですよね」

「それはそうかもしれないですけど、グレイブさんへの負担が大きすぎます。それに本人に伝えないなんて、どうかしてますよ!」



 ハシリーが鬱憤を晴らすかのように憤激する。


 そう、実は『アーリー・リタイア制度』は、グレイブしか採用されていないのだ。

 当初は複数の冒険者に適用する予定だったのだが、グレイブが応募してきたがために、本部は大混乱となった。

 まさか現役のAランク冒険者が『アーリー・リタイア制度』に申請してくるとは思いも寄らないことだったからだ。

 本部は協議を重ね、グレイブだけを採用して、用意していた資金をすべて彼の支援に使うことが最終的に決定した。

『アーリー・リタイア制度』を普及させるためには、そこらの冒険者を幾人か採用するよりも、実力のあるグレイブの方が宣伝効果が高いと考えられたのだ。



『アーリー・リタイア制度』が認知されるためには、グレイブに各地を回ってもらう必要がある。そこで『スタンプラリー』という特典が編み出されたのだった。言ってみれば『スタンプラリー』は、グレイブのために考案されたようなものだ。


 グレイブの活動を支援するために、冒険者ギルド関係者の多くはこの経緯を知っているが、彼の性格が考慮され、本人に伝えるのは禁ずると本部から通達されている。



「まあでも、グレイブさんにとっても悪い話じゃないでしょう? だったら良いんじゃないですか? 我々だって悪気があってやってるわけじゃないんですし」

「そうですけど……」



 ハシリーはフェニスの弁に納得できないようだ。



「仕方ないですよ。もうグレイブさんはアルケーを出て行っちゃったんですから、どうしようもないですしね」

「…………」

「本当のことを伝えたらクビになっちゃいますよ? それに、グレイブさんは相当な実力者ですからね。僕たちが動かなくとも、自分の力で困難をどうにかできちゃう人ですよ。彼を信じて、今は目の前の仕事を片づけましょう」



 ハシリーの机に積まれている書類をフェニスは幾らか手に取った。



「……そうですよね。グレイブさんだったら、大丈夫ですよね……?」

「ええ、彼なら何があってもきっと簡単に切り抜けちゃいますよ。僕たちが心配したって、余計なお世話です。彼のすごいところは、僕たちが一番見てきたじゃないですか」



 そこで初めてフェニスが破顔した。



「これは僕がやっときますんで。残りはちゃんとハシリーさんがやってくださいね」



 フェニスは自分を励ましに来てくれていたのだと、ハシリーはここでようやく理解できた。



「……ありがとうございます。助かります」



 フェニスは自分の席へ戻っていった。



「そうですよね、グレイブさんなら、きっと大丈夫ですよね」



 ハシリーは晴れやかな表情になっていた。



「さてと、私もお仕事、頑張らなくちゃ!」



これにて第1章完結です!

ここまで読んでくださった方、感謝です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ