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引退冒険者のおっさん(最強)、2人の少女と旅をする  作者: 餅は餅屋
第1章 おっさん、2人の少女と出会って守ることを決心する
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第10話 おっさんの決心

 様々な露店を目にしながら、俺たちは宿を目指していた。

 アリシアは好奇心旺盛で、いろんな店に目移りしていた。本当はもっと出店を見せてやりたいんだが、その前にやることがあるからな。

 露店はまた後でゆっくり見物に来たら良いだろう。

 ということで、興味の赴くままにふらりと吸い寄せられてしまいそうになるアリシアの手をしっかりと掴んで、宿に向かって歩いている。

 もちろん反対の手は、リゼッタと繋いでいる。さすがにリゼッタも、もう嫌がる素振りは見せない。というのも、リゼッタが希望したので何度か手を離したんだが、そのたびに彼女は人混みに遭難しかけた。そのため彼女も諦めがついたのか、今は大人しく俺と手を繋いでいる。



 宿に近づいてきた。

 活気のある露店の道から一本別の道に入る。ここも人通りは多いのだが、出店はまばらだ。

 そこからさらに何本か道を横切って、細い路地に出た。



「ちょっと、本当にこんなところで当ってるの?」

「ああ、問題ない」



 細い路地を進み、さらに何本か道を折れる。

 すると、寂れた通りに、年季の入った建物が現われた。



「もしかして、ここが宿ですか?」



 アリシアが問いかけてくる。



「そうだ。見た目は相当古いが、中は小綺麗だぞ」

「怪しいところじゃないでしょうね?」



 リゼッタが威嚇してくる。



「もちろんだ。中に入れば、すぐにわかるさ」

「……ここまで来たら、もう仕方ないわね。騙されてたら運命だと思って、諦めるわ」



 潔いのか悪いのか、リゼッタの態度はどことなく投げやりだった。



「それじゃあ入るか」

「はーい!」

「ええ」



 俺たちは宿に入った。

 カウンターのところに、俺より少し年上くらいの女性がいる。



「宿泊かい?」

「ああ、二部屋頼む。俺の部屋と、この二人の部屋だ。部屋は隣にしてくれ」

「はいよ、わかったよ」

「それと、これで割引できるか?」



 俺は冒険者カードを提示した。



「どれどれ……ほう、あんた、良いもの持ってるね。これなら宿泊代はいらないよ。代金は冒険者ギルドが肩代わりしてくれることになってるからね」

「そりゃ助かる」



 こんなところでも特典の恩恵があるんだな。アーリー・リタイア制度は本当に便利だ。



「わー、さすがグレイブさんです! すごいですっ!」



 アリシアが興奮したかのように捲し立てる。



「ほんと、あんたはいったいどうなってんのよ……」



 リゼッタの方は、感心というより、呆れているようだ。


 そんな少女二人の様子を見て、宿の女性が相好を崩す。

 俺は苦笑しながら、女性から鍵を受け取った。


 三人で、三階にある部屋へと向かう。



「ほらな、別に何も問題なかったろ?」



 階段を上りながら、リゼッタをからかった。



「……そうね。でもそれはあくまで結果論よ」



 リゼッタがさらに俺に反抗しようとしたとき、アリシアが会話に割って入った。



「リゼッタちゃん、いい加減グレイブさんを疑うのはやめたら?」

「でもねアリシア、本当に悪いやつはこっちが警戒を緩めたときに牙を剥くのよ? まだまだ気は抜けないわ」

「リゼッタちゃんはちょっと過激すぎるよぉ」

「……そ、そんなことないわよ」



 焦ったようにリゼッタが言う。



「部屋だって、二つ取ってくれたんだよ?」

「それはそうだけど……! でもそれは、この人がお金を払うわけじゃないじゃない」

「それでもちゃんと用意してくれたんだから、感謝しないとだめだよ」



 アリシアがリゼッタを諭す。

 まあリゼッタが言う通り、俺はお金を出していないんだけどな。とはいえ仮に有料だったとしても、二部屋取っていた。

 少女と同室なんて、俺の方も気まずいからな。


 三階に辿り着いた。


「話したいことがあるんだが、大丈夫か? 疲れてたら少し休憩してからでも良いんだが」

「わたしは大丈夫ですよっ!」

「……話くらい聞けるわよ」

「そうか、なら一旦二人とも、俺の部屋に入ってくれ」



 二人の了承が得られたので、俺に割り当てられた部屋に三人で入る。

 内装は簡素だが、整然としていて、洗練された感じがする。

 俺は椅子に腰掛け、二人はベッドに座らせた。


「それで、話って何よ?」


 リゼッタが切り出してくる。

 アリシアも興味津々といった感じで俺の方を見てくる。



「あー、えーっとだな……」



 ……どうやって話そうか。

 この子たちの境遇を聞いてからずっと考えていたことだが、いざ口にするとなると、度胸がいるな。

 とりあえず俺は、二人に勘付かれないように、防音の魔法を使った。これでこの部屋の会話は、誰にも聞かれる心配はない。

 そう、俺は誰かに聞かれるとまずい話を、今からしようとしている。



「何よ、歯切れが悪いわね。さっさと言っちゃいなさいよ」



 リゼッタが催促してくる。

 そうだな、言っちまうか。



「えっとだな、お前たちを買い取ったっていう貴族がいるだろ?」

「はい……?」



 アリシアが怪訝そうにしている。



「実はな、俺はその貴族をやっつけようかと思ってる」

「はぁっ!? あんたバカじゃないの!? 貴族に逆らうなんて、正気の沙汰じゃないわよ!?」



 リゼッタが激しく罵倒してくる。

 アリシアも、まん丸と目を大きく見開いた。



「ああ、それくらいわかってる。だけど戦う理由が二つもあるからな」

「いったい何よ……?」



 恐る恐るリゼッタが質問してきた。



「一つ目はお前たちのような少女が他にも捕らえられているだろうから、その子たちを救出してやりたい。二つ目はお前たちのことが関係している」

「……わたしたち、ですか……?」

「……どういうこと?」



 二人とも、何のことかわかっていない様子だ。



「ああ、そうだ。自分たちがどういう状況に置かれているか、わかってるか?」



 二人は互いに顔を見合わせて、首を振る。

 ……やはり、気づいてなかったか。まだ幼いし、仕方ないな。



「お前たちは今、非常に危うい立ち位置にいる。貴族の元に向かっている途中で逃げ出したようなものだからな。言ってみれば、貴族に逆らったようなもんだ」



 リゼッタはどういうことか理解したのだろう。顔が青ざめた。

 一方アリシアはきょとんとしている。



「お前たちが黒狼に襲われた現場には、御者や馬の死体が残っているからな。お前たちの生存が判明すれば、どんないちゃもんをつけられるかわかったもんじゃない」


 あのときは気が動転していて、そこまで頭が回っていなかった。気付いていれば、その辺りの処理も抜かりなくやっていたんだが。

 息を吐いてから、話を続ける。



「正直、貴族が本気を出してくれば厄介だ。再び変態貴族にお前たちが捕まったら、どんな目に遭わされるかは俺にもわからん。できることならお前たちを守ってやりたいが、俺の手に負える範囲を超えている」



 二人とも、顔が絶望に染まっている。

 せっかく貴族のところへ行かずに済んで助かったと思っていたところで、突然希望が断たれたのだ。無理もない。



 暗い顔をして俯く二人を見て、俺は胸を痛めた。

 やはり、俺がどうにかするしかない。

 俺は改めて覚悟を決め、口を開く。



「……だが、それはあくまでも貴族の側が先手を打ってきた場合の話だ」



 二人が俺の方を見てくる。



「こちら側から攻めれば、やりようはいくらかある」

「……だから、貴族をやっつけるってこと……? でも、どうして……?」



 リゼッタが問いかけてくる。



「さあ、なんでだろうな? 俺にもよくわからん。だけど、一つだけ確かなことがある」

「……なによ?」

「それはな、子どもが辛い思いをして傷つくことは、間違ってるってことだ。どうだ、単純だろ?」

「……なによそれ、バカじゃないの……」



 リゼッタが毒づいた。



「……やっぱり、グレイブさんは優しい人なんですね」



 沈黙を保っていたアリシアが、口を開いた。



「グレイブさん、お願いがあります」

「なんだ? 言ってみろ」

「わたしたちを、助けてくれませんか……?」


 縋るように、アリシアは俺を見つめてくる。

 リゼッタも、どことなく不安そうな表情だ。


 もちろん、俺の答えは決まっている。



「ああ、任せてくれ。これからしばらく、よろしくな」

「はいっ!」



 アリシアが輝くような笑顔を見せてくれた。



「……その、今まで悪かったわね。それと、頼りにしてるわよ」



 リゼッタがそっぽを向きながら、ぼそぼそと告げた。

 彼女が勇気を出して言ってくれたことが、伝わってきた。



「昨日までは現役のAランク冒険者だったんだ。期待しててくれ」



 彼女たちの不安が和らぐよう、力強く断言した。



 こうして俺たちは、もう少し一緒に行動することになったのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

お陰様で、これにて第1章が終了となります!

ここまで読んでくださって、感謝です!


1度閑話を挟んでから、第2章を開始したいと思っています。


良かったら、ブクマ・評価していってくださいね!


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