第九話 赤い女
本物の殺意というものを、その時初めて味わった。
目の前の少女は、おそらくはマコトと同年代くらいだろう。髪と同じ綺麗な朱色を宿したその瞳は彼女が勝気で活発な性格をしているだろうことを窺わさせる。ポニーテールで髪を纏めている所はまさにスポーツ少女といった様相だ。
なんとなくではあるが、メグミと同じ制服に身を包めば女子のリーダー的な存在としてクラス中から好かれるのだろうと思われた。
もっとも、そんな勝気で意志の強い瞳は、まっすぐに、睨むように敵意を向けてまるで引き絞った矢のようにマコトへとピタリと向けられているのだが。
「もう一度聞く。なぜお前がその剣を持っている? それだけじゃない、どうしてこの祠にやって来れた?」
虚言も誤魔化しも許さないとその瞳が語っていた。
相変わらずぴたりと向けられた矢を、視線だけを動かして見ながらマコトは口を開く。
「後ろに浮かんでいる小竜、あいつが俺たちをこの場所に導いた。この剣は、そこの女神像がいきなり寄こしてきた。生憎こっちも命がけでね、悪いが勝手に使わせてもらった」
静かに、ゆっくりと。
事実を告げながら、マコトはなるべく気づかれないように慎重に魔力を練り上げていく。
「…………そんなことは、ありえない」
つぶやくような声はより硬質に、より尖っているように聞こえた。
「そう言われてもな、そもそも俺にはこの剣がどういったものかもわからないんだぜ? まぁあんな隠し通路に大仰な仕掛けだ、こいつが重要な物だってことはわかるけどな」
「その剣はそんな簡単な言葉で片付けられる代物じゃない!」
「だろうな。いわゆる聖剣って奴だろ? 勝手に使った事に関しては悪いとは思ってる。返せと言われりゃすぐにでも返すさ」
ほら、と剣を突き立て両手を上げて見せる。
自分に危険はないと、降参のポーズをとるマコト。けれど正面から対峙する彼女にはそんな演技は通じない。
が、
「ならさっさと観念しやがれってんだ糞野郎!!」
マコトに蹴り飛ばされ気を失っていた男が叫び声を上げた。
どこから意識を取り戻したのかはわからない。けれど明確な殺意を以って引き絞られた弓とその声に、周囲に男たちもこぞって反応し、それが僅か、目の前の彼女の隙となる。
「な――っ、この馬鹿野郎! やめろ――ッ」
咄嗟の出来事に声を荒げマコトから意識を切る少女。
叫びを上げた男はためらいもなく引き絞った矢を離し、
「――――光の矢」
マコトはまるで識者の様に、掲げていた両腕を放る様に前方へ向ける。
瞬間、掌に展開された魔法陣が展開しそこから光の矢が放たれた。
高速で飛来する光の矢は鉄の矢よりも早い。放たれた矢を立ちどころに打ち落とし、威力を衰えさせないまま弓も射落とす。それは周囲にいた男たちも同じ有様だ。
「さて――」
叩かれた腕を抑えうずくまる男たちをゆっくりと睥睨し、最後に少女へと視線を向け、右手を掲げた。
「形勢逆転だ。で、どうする?」
右手を向けたマコトが視線を鋭く問いかける。右腕には魔法陣から光の矢が覗き輝くまるで重工の様なそれが光を放つ。其処に籠められているの明確な攻撃の意志。
驚愕に目を見開いていた少女は冷静に状況を見極める。きっと、矢を射かけるよりも早く、あの魔法は自分達に放たれるだろうと。
降参、と少女が手を上げるまでに時間はかからなかった。
「まずあの馬鹿を縛り上げるから、その為の行動を許してほしい」
腰を抜かし尻餅をついている男に視線を投げて少女はこともなげに告げた。
言葉に慌てるも、上手く立ちあがれない男。黙ったままのマコトの態度を肯定と捕えた少女は冷たく命じる。
「そこの馬鹿を縛り上げろ。抵抗するなら気を奪っても構わない。二度とあたしの邪魔をさせるな」
周囲で蹲っていた男たちがすぐさま反応し動きだす。腰元から縄を取り出すと慣れた手つきで男を縛り上げていく。暴れようとした男は命令通り、首元に一発喰らわされ意識を刈り取られた。
「仲間じゃなかったのか?」
「仲間よ。でも間抜けな行動で一気にあたしたちが窮地に陥った。そんな奴を放っておく事は他の仲間の命に関わる」
「なるほど。随分冷たいようだが、リーダーとしては当然ってわけか」
「もちろん。ところで、そろそろこっちとしてはその練り上げた魔法、止めて欲しいんだけど?」
「いつ襲われるかもわからないからな、そいつは聞けない相談だ」
「あの馬鹿を縛り上げただけじゃ足りない?」
「生憎と、いきなり襲いかかってきた相手を信じるほどお人好しじゃないんでね」
睨み合うマコトと少女。
互いに一歩も引かない舌戦は硬直状態。
今練り上げた魔法も、この少女ならば躱せるかもしれないとマコトは思っている。ならその後で反撃が来るのは確定で、だからこそ迂闊に手を出せない拮抗状態。
「後ろの女神像、それは炎神アリス様を象った物なんだ」
不意に、少女が醸し出す気配が和らいだ。
「あたしらにとってアリス様は守護神であり、主神。だからさっきは弓を向けてたけど、本当はその主神を盾にするアンタたちに矢を射かける事はできないのさ」
「それを信じろと?」
「いや。ただ知ってほしかったのさ、あたしたちにとって炎神アリス様は犯す事の出来ない存在なんだってことを。そしてその上で――炎神アリスの名の下に、ディン・フォスターが誓う。けっしてあなた達に危害を加えない事を」
真っ直ぐな瞳を受け止める。
炎神アリスはこの世界の魔法色を司る五大神の一人。神の名に於いて交わされる宣誓は、この世界に於いて何よりも優先されるべき事柄だ。
破られた時、それは神による死罰をも免れない聖なる誓い。
その宣誓を、その誓いを捧げる女神像の前で告げた行為に、マコトは練り上げた魔法を霧散させた。
「信じよう。ならこの剣は、そこの台座に戻せばいいのか?」
受け入れ、魔法を解いたマコトに少女も行く分表情を和らげた。
「いいや、それは持っていていいわ。いえ、むしろあなたが持っているべきなのよ」
「どういう事だ?」
「そう言った事柄も含めて説明をしたいんだけど、良ければあたしたちの村に来てくれないかな?」
「お前たちの村?」
「ええ、そうよ。少しだけ歩くけど神殿を抜けた先に私たちの集落がある。あたしはそこの族長の娘なの。だから安全は保障するわ」
「……わかった。それも信じる」
「ありがとう。ならちょっとだけそこで待っていてくれる? その、今さらだけどアナタが斃した獣の死骸を片しちゃうから。後ろの娘にはちょっと酷でしょ、この状況は」
獣の死骸から流れる血でやってきた一本道は汚れていた。そこから漂う腐臭はとても気持ちの良いものではない。それをどうにかしてくれるというのは、マコトにとってもありがたい話だった。
「すまないが、頼む」
「ええ、任されたわ。ああそれと、こいつらの死骸はあたしらで引き取らせてもらうわ。それから村に人を送って族長に事前に話しを通すけど、いいわね?」
「ああ、お前を信頼する」
「なら、その期待に応える様にするわ」
テキパキと指示を出し始める少女。
同い年くらいの少女に男たちが動かされていくというのはある意味異様な光景だった。彼女は自分の事を族長の娘と言ったが、おそらくはそれだけではない何かが、彼女の資質として彼らを従わせているのだろう。
「悪かったな、こんな目に合わせて」
「ううん、全然。ねぇマコトちゃん、これからどうなるの?」
「さぁな。ただとりあえず、あの女は信頼して良いと思う。それだけは、間違いないはずだ」
「うん。なんだか、格好良い人だよね」
「そうだな。凄腕エージェントって感じだ」
「あ、それわかるかも。ヒロインで主役張っちゃう感じ! 凛としていてちょっと憧れるかも」
ふにゃっとした笑顔を浮かべるメグミ。それに張り詰めていた心が癒されるのを感じる。けれどその表情がハッと張り詰めた物に変わる。
「マコトちゃんっ、おしゃべりしてる場合じゃないよ! 傷! 怪我してる!」
「ん? あぁ、そういやそうだったな」
緊張と興奮によるアドレナリンですっかり痛みは飛んでいた。触れればまだ乾き切っていない血で指が汚れる。
「ま、魔法は!? 治せる!?」
「落ちつけメグミ。これくらいならすぐだ、問題ねぇよ」
なだめる様に、汚れていない方の手でぽんぽんと頭を撫でる。
矢を向けられて尚動じなかったくせに、たったこれだけでもう涙目だ。そんな幼馴染の姿に自然と撫でる手つきも優しくなった。
「――――治癒魔法」
ぽうっと指先に魔法陣を灯す。これまでよりも極少数の、ほんの僅かな魔法行使。指先を覆う直径二センチほどの魔法円は、それでも十分に回復効果を発揮した。
(…………回路に痛みがない? これくらいの力なら痛みが走らないのか?)
十全に効果を発揮した魔法にマコトは思案を巡らす。魔力を叩きつけるのでなく、効力を以って発現させる魔法行使。今まで使う度に起きていた痛みをもしかしたら抑えられるかも知れなかった。
「今の、白の治癒魔法?」
振り返ると少女が中央の通路を辿り、ゆっくりとこちらに近づいてくる所だった。
もう死骸の片づけは終わったのだろう、声を掛けたのは少女なりに気を使ってくれたようだ。
「ああ、俺の魔法色だ。さっきも見せたろ?」
「えぇもちろん、とても驚かせてもらった。まさか無詠唱であんな真似をされるとは思わなかったから。ねぇキミ、ひょっとして大魔法使いかなにか?」
「は? 知るかそんなの」
「ちょ、マコトちゃん。そんな態度は良くないよ!」
ぎゅっと腕を引っ張ってメグミがマコトをたしなめる。少女の態度が柔らかくなり友好的になったのを敏感に察したのか、メグミはそっとマコトの背中から顔を出した。
「ごめんさい、マコトちゃんいつもこんな感じで」
「いや、あたしは気にしないよ。むしろ弓を向けたのにこうして信頼してくれたんだ。これで文句を言う方が罰あたりさ」
「あ、ありがとうございます! それから、わたし、メグミです! 白崎愛美!」
「ん? ああ、そうか。名乗りがまだだったね。あたしはディン。ディン・フォスターだ。よろしく、メグミ。あたしの事は気楽にディンと呼んでくれ」
「うん! よろしくね、ディン!」
パッとマコトの背中から飛び出して、そのまま小動物がじゃれつくように少女――ディンの手を握りにこにこと握手をするメグミ。
唐突な行動に完全に邪気を抜かれたのか、ふっとディンも笑顔を見せる。
切れ長の瞳が和らいで、メグミに笑いかけるディンはまるで妹を見守る姉の様な笑みを浮かべた。
そのまま、視線はマコトへと注がれる。
「…………武藤、誠だ」
「そうか、よろしくマコト。じゃあさっそくだけど、あたしたちの村へと案内するからついて来て」
くるりと踵を返し、ディンは返事を待たずに道を引き返していく。
どうするの? とメグミの視線が向けられ、マコトは突き立てていた剣を掴む。
「行くぞメグミ。ヒスイ、念のためだ、後ろを頼む」
「キュアっ」
任された、と一声鳴く。
空いている手でメグミの手を握ると、マコトはディンの後に続いて入口へと向かって行った。
● ● ●
連れていかれるがままに辿り着いたのは集落もしくは村とでも表現すべき場所であった。
防衛と入口を表す為であろう、木でつくられた大きな門があり、その周囲には柵が巡らされている。さらには監視のための物見櫓も建っているところを見ると立派な外観だが、マコトが魔法を行使すれば簡単に壊せそうなものでもあった。
門を潜ると住居と思われる建物が現れる。そのどれもが石のブロックで造られた円筒系の形をしており、屋根は藁の様な物を重ねたまるで三角帽子のような造りだ。
それが大小様々に立ち並ぶ。
入口の門もそうであるが、そのどれもが自然の浸食を受け、それを受け入れるようにして建っている。蔓草を纏った建物たちは自然の中に溶け込む様に存在し、不思議な空間を醸し出す。
まるでファンタジー映画の世界にでも紛れ込んだような風景だ。
「そう警戒しなくても約束通り手出しはさせないから大丈夫よ」
村に着いた途端に周囲へと目をやり警戒を表すマコトにディンは苦笑交じりに笑う。集落に辿り着くまで漂わせていた鋭い気配は窺えず、どこか安心させるような雰囲気が醸し出されていた。
「まだ警戒心は解けてないようだけど事実よ。少なくとも、この村の連中はメグミには手を出さないから」
「どういうことだ?」
マコトの後ろに隠れるようにして歩くメグミ。その背後にはマコト以上に警戒心を露わにしているヒスイが付いている。マコトよりも鋭敏に、家の中から注がれる視線に反応しているのだろう。
「その竜種が原因。さっきからずっとメグミを守って片時も傍を離れない。だからよ」
「恐怖心でも抱いているとかか? 嘘を付け、最初に攻撃を仕掛けて来たのはそっちだ。それにこいつはガキだぞ。成体ならいざしれず、こんな小さな生き物を恐れるのか?」
「射ったのはあたし。あれは牽制とまぁ、実力試し。マコトのね。でも仲間は弓を向けるだけで射たなかったでしょ?」
「それは女神像があったからだろ?」
「ええ、もちろんそれもある。でもそれだけじゃなくってね、まぁこれも信仰の問題なんだけど。竜種は神獣の中じゃ最高位でしょ? しかもあたしらは炎神アリス様を信仰している。彼女がこの世界に現れなくなってから神の代行はその眷族とも呼べる五竜王が担ってるのは知っての通り。なかでも此処はその一柱、炎竜王クラティス様のお膝元。だから同じ竜種に攻撃を仕掛けるっていうのは心情的に無理ってわけ。メグミがその竜に守られているなら尚更、ね」
「なるほどな。でもさっきから聞いてる限りだとおまえはまるで気にしてないみたいだな」
「言ったでしょ、心情の問題だって。敬意は払うけどもともとそこまで信心深いわけでもないの。なにより生まれた時から成体になった亜竜種すらも倒せるような化け物と暮らしてるんだもの、強者に対しての感覚は鈍ってるの。それにマコトの言う通りその竜種は幼体だもの、あたしの方が強い。信仰よりも弱肉強食の摂理を信じるタイプだからね、あたしは」
「随分と現実的だな。けどよ、ドラゴンを倒せるって奴、そいつは人間か?」
「えぇもちろん。これからあなた達が合う人物――この村の長でありあたしの実の父親よ」
ピタリ、と少女の歩みが止まる。
そこは小高く盛った場所に建つ、この村で一際大きな家の目の前だった。
丸太で造られた階段が家の入口へと伸び、その周囲は他と同じように花や芝で覆われ自然へと溶け込んでいる。
そんな階段の先、木製の扉がゆっくりと開かれた。
大きく作られた扉すらまだ小さいとばかりに頭を少しかがめ、男が表れる。
屈めた身体を伸ばしたその姿は巨躯。自然体に立つその様に隙は無く、巌のような体躯は威風堂々と胸を張る。
初老に近いか、短く刈られた髪には白いものが混じって灰色に近くなっている。
けれどディンと同じ褐色の肌は、ゆったりとしたまるで浴衣の様な服を纏い、その上からでもわかるほどの筋肉の鎧に覆われている。
まるで値踏みするようにじっと見据えるその眼光はまるで衰えを感じさせない強い光が宿り、むしろ精力滾るかのような力強い眼差しに、威圧されるような感覚をマコトは覚えた。
彼女の言った竜種すらも倒せる、という言葉を自然と納得させるだけの貫禄が、目の前に立ちはだかる男から醸し出されていた。
ただ相対しただけ。
それだけでマコトはまるで眼光に縫いとめられたかのように、その場から動けなくなる。
「――――ふむ。報告には聞いていたが、実際にこの目で見るとやはり、驚かざるを得んなぁこれは」
いったいどれほど経っただろうか。
ただ見られているというだけがこれほど長く感じた事はない、そう思える感覚を味わうマコトに、低い、少し皺枯れたような声が届く。
「だがまぁ、懐かしい姿でもあるな。いやさ、納得だ。オメェさんなら炎神様も応えるだろうよ」
ゆっくりと階段を下りて近寄ってくる。
マコトの手には変わらずに剣が握られており、振れば届く間合いまで無造作に歩み寄られる。けれどマコトにはその剣を振る事も構える事も出来なかった。
気押されているという自覚はある。けれどもそれ以上に、たとえ剣を振りかざしたところで目の前の男に当たるイメージがまるで浮かばない。
せめてもの意地とでもいう様に、マコトは男の視線からメグミを隠す。そして睨みつけたまま視線だけは逸らさない。それが現状でできる、唯一の抵抗だった。
男はただ正面に佇むだけ。それだけで、吹きあがる汗が止まらない。
「あんた、何者だ……?」
絞り出す様にして発した声は小さく、それでもなんとか震えだけは堪えていた。
「何者か、か……。今じゃただの老兵だな、うむ。もっとも――昔は英雄なんぞと呼ばれていたがね」
「えい、ゆう……だと?」
「そうさ。ところで、なぁ坊主――異世界人というやつは、みんなそんな格好なのか?」
「――――ッ!?」
弾かれた様にマコトは剣を向けた。
重くのしかかっていた重圧を一気に跳ねのけ、痛みすらも忘れ全力で魔力を回す。
男の発した一言。それが、危険への意識が、男の呪縛を上回る。
「マコトちゃん!?」
「ヒスイっ、メグミを守れ!」
突然の行動に混乱するメグミに、けれどマコトは答える事ができなかった。代わりにヒスイが、わかった! とでもいう様に一声鳴いて牙をむき出しにして男を睨む。
突き付けた切っ先は僅かも揺らぐ事は無く、睨んだ視線は男へと向けられているようでいてその実周囲全てへと向けられている。
マコトの咄嗟の行動に、思わず弓を構えたディンの動きを片手を上げて制しながら、男はそんなマコトの態度に感嘆の声を上げる。
「血筋、で片付けていいもんかね、この反応の良さは。ま、テメェの女を第一に守ろうとする所は完全に父親譲りだろうよ」
どこか嬉しそうに、空いた手で顎をさすりながら男は満足げに頷いた。今まで漂っていた威圧感は嘘のように霧散し、人好きのする笑みを浮かべている。
「安心して良いぜ、坊主。俺ぁ手を出す気はこれっぽっちもねぇからよ」
信頼させるように、弓を構えるディンにそれを下ろさせ、男は両手を上げてみせる。
怪訝な表情すら浮かべず、油断するそぶりすら見せないマコトは剣の切っ先を向けたまま動かさない。
「そういう態度は実に懐かしいもんだよ。いや本当に、実にそっくりだな、オメェさん」
「……何の事かわからねぇし、安心しろと言われて頷くバカがどこにいる?」
「ハッ! まーそのとおりだわなぁ。一本気は父親譲りで、強情さは母親譲りってところか?」
愉しそうに浮かべた笑みを崩さない男に、マコトに守られていたメグミがハッと視線を向ける。
「ね、ねぇマコトちゃん。ひょっとして、この人って……」
そっと肩に触れられた手に、微かに切っ先が揺れ動く。
メグミに言われるまでもなくわかっていたとでもいう様に、どこか困惑と苦々しさの入り混じった表情を浮かべるマコト。
「そうさ、お察しの通りだ青少年。俺の名はグラッド・フォスター。英雄・ヤマトの仲間だった男だよ」
ニヤリと、男は不敵な笑みを浮かべるのだった。
第一章 ~始まりの地~/異世界来訪編 了
/To be continued
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