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6.とっておきの魔法を持つ俺、他力本願の真髄を知る

今回、ちょっとだけ主人公の無双回。



「グルルルアァァアアアアアッ!!!」


突如として現れたジャイアントベアーという魔物の存在によって、俺は再び生命の危機にさらされる。


「グルゥッ!」

「っ!?」


ジャイアントベアーの大柄な体躯には似つかないハイスピードで、俺に向けて鉤爪を喰らわせにくる。

ジャイアントベアーの鉤爪は、俺の頬を浅く切り裂い後、バキバキという音を立てて木にブッ刺さった。

ジャイアントベアーが鉤爪を木から抜く間に、俺は酷使していた足に鞭打って無理矢理に走った。

正直に言うと勝てるビジョンが見えない。

とりあえず、ここから逃げるしかない。

しかし、ジャイアントベアーはそこまで甘い生き物ではない。


「グルゥおおおおッ!」


意味があるかわからない雄叫びをあげながら、引っこ抜いた鉤爪をこっちに振り回してくる。


「ぐぶっ!?」


たまたま鉤爪が俺の体にクリーンヒット!

俺は地面に叩きつけられるような形で転ぶ。

どうする?どうすればいい!?

スライムをジャイアントベアーにぶつけるか?

いや、無理だ。

どう考えても今のスライムでは時間稼ぎにもならない。

しかし、だからと言って他に方法はーーー


「……『叡智の書』」


そこで俺はスキル『叡智の書』の存在を思い出す。

そうだ、こいつならなんとかなるかも……!?

俺はすぐさま『叡智の書』を起動し、現状を打破する方法、という検索ワードで検索する。

すると、驚くべき結果が出た。


方法一。

近くに潜んでいるファーン(偽名)に助けてもらう。

方法ニ。

フィルウェルト・S・アークウォイトが所持している魔法『貸借魔法』を使用し、フィルウェルト・S・アークウォイトの使い魔、スライム(名無し)のステータスを借りる。



「えっ……!?」


近くに潜んでいる、ってどういうことだファーン!?

もしかして、ジャイアントベアーを連れてきたのはファーンなのか?

だとしたら、事態は随分とまずい状態へと進んでいるようだ。

ファーンは次男とはいえ王都近くの子爵家の専属使用人にされているぐらい、家の信頼が厚い。

そんな奴が謀反なんか起こされたら家は終わりだぞ……!?

それに、目的がよくわからない。

ただ単に俺を殺したいんだったら、殺す隙なんかいくらでもあった。

なのに何故、奴は手を出さなかった?

直接手を下すことを嫌ったのか?

それともジャイアントベアーを俺にけしかけたことには他に意図があるのか?

わからない……。

ファーンが今、何を考えているのか……全くわからない。

とにかく、方法一であるファーンに助けを求めるのは無理だ。

奴が今、俺が危機的な状況に立たされているのはわかっているはずなのにも関わらず、助けに来ないということは、言っても助けにくるどころか、俺を殺しにくる可能性さえある。

そうなると、俺はたった一つの可能性、俺の魔法『貸借魔法』に賭けるしかない。

俺は今まで見ようとしなかった自分の魔法に、『叡智の書』で検索をかける。


『貸借魔法』

所持者:フィルウェルト・S・アークウォイト。

効果:ある明確な契約のもと、経験値や魔力、その他ステータスの貸し借りを行うというもの。対象は生物であること。ただし、対象が所持者の提示した条件に合意をしなかった場合、この魔法は成立しない。


経験値や魔力、その他ステータスの貸し借り……?

しかし、いくらスライムのステータスを借りたとしても俺がジャイアントベアーに勝てるものなのか?

……悩んでても仕方がない。

今はそれが最善なんだと自分に言い聞かせるとスライムに救援を求める。


「なんでもいい!スライム!とりあえず、俺をここからどっかに飛ばしてくれ!」

「グルゥアッ!?」


俺の雑な命令にスライムはすぐさま応じ、ジャイアントベアーの攻撃が当たる前に俺はスライムの触手によってある程度の離れたところに打ち付けられる。


「ぐっ……」


投げ飛ばされて多少痛かったものの、命あっての物種だ。

贅沢なことは言わない。

俺はスライムに近くに来るように指示すると、近くにきたスライムに提案する。


「良いか?俺は今から魔法を使う。これは『貸借魔法』って言って、相手の合意無しには使うことができない代物らしい……。そこで、だ。スライムよ、俺に全てを捧げてくないか?

もちろんただとは言わない。なんだ?何か俺にできる範囲で、してほしいことはないか?」


言葉が通じるかどうかが非常に怪しくはあったが、何とは無しに俺の言いたいことが伝わったらしく、フルフルと体を揺らして考えている。

俺とスライムが、体を寄せ合っているのを目にしていたジャイアントベアーは、何か策を練られると感じたのか、俺たちに向かって突進する構えを見せた。


「悪い!時間がないんだ……!早く!」


すると、スライムはいきなり地面に字を書いた。


『家族』


そこには確かに家族、と拙い字ではあるが書いていた。

どうやってこんな字を習得したんだ?とは思ったが、なんとなく言いたいことは伝わった。


「俺と『家族』になって欲しいんだな?」


俺の切羽詰まった問いに、スライムは体をフルフルと揺らして肯定の意を示す。


「よし、わかった!これで契約成立だ!」


すると体の中の何かがなくなっていく感覚を覚えると同時に、ジャイアントベアーが突っ込んできた。

危ない!

そう思うと同時に俺は避けようとして足を動かしーーー


「えっ!?ちょっ、待っ!?ーーーぐはっ!?」


かなりのスピードで移動し始めた。

勢いは衰えることなく、俺はそのまま木に激突。

あまりの間抜けさに突進したジャイアントベアーも呆然としている。


「な、なんだ、これは……!?」


この世界に来てかつてないほどに体の調子が良くなった自身のステータスを確認した。



ーーーーーー


【名前】フィルウェルト・S・アークウォイト

【生命力】14(+157)/30(+160)

【魔力】120(+80)/150(+80)

【性能】Lv.1

筋力:G(+F+)=FFF

敏捷:G+(+DDD)=C−

体力:G−(+C)=C+

耐久:GG+(+E)=EE+

器用:A−(+F)=A

魔力:C(+F−)=CC−

知力:SS−(+EE+)=SS−

【魔法】無属性(貸借)

(水属性)

【スキル】叡智の書

真眼

(溶解Lv.3)

(打撃耐性Lv.2)

(火炎耐性Lv.4)

(吸収Lv.3)

【加護】愚者神の加護Lv.2


ーーーーーー


俺が自身のステータスをある程度確認し終わった後、(他者には見えないが)手に持っていたスキル『叡智の書』が光り輝いた。


「……?」


どうかしたのだろうか?と思い、俺が『叡智の書』を開けば、そこには水属性魔法の名がいくつも載っていた。

これは……?

『叡智の書』がイマイチ何を言いたいのか、要領をつかめないでいると、ジャイアントベアーが俺に向かって襲いかかってきた。

敏捷値がランクCの土台にたった俺は、今までの必死こいた動きではなく、余裕のある軽やかな動きでジャイアントベアーの攻撃を躱す。


「グゥアアアッ!」


ジャイアントベアーは俺の余裕綽々な態度が気に入らないのか、雄叫びを上げて乱暴に腕を振るう。


「くっ……」


ランクC代とはいえ、相手と互角になっただけ。

しかも筋力は圧倒的に相手の方が上なため、殴り合いをしたら一瞬で俺が負けることが目に見えてるし……。

よくよく考えてみると俺って、攻撃手段皆無じゃね……?

しかし、俺はそこで気付く。

そうだ、そういえば俺はスライムの水属性魔法を借りている。

これはつまり、俺は今水属性魔法を使える、ってことか?

さらに言えば、詠唱すべき魔法の名はおれの『叡智の書』に載ってる。


「もしかして、ガチでいけるか……?」


試す価値はある、と判断した俺は、ジャイアントベアーから全速力で距離をとる。

そして、距離がある程度取れたと思った俺は、なおも光り輝いている『叡智の書』に目を通す。

光っている『叡智の書』の項目には、よくよく見ると光っていない文字と、光っている文字でわかれている。

おそらく光っている文字の魔法が使えて、それ以外が使えない、というシステムなのだろう。

そうなると、この魔法がベストなのか……?


水属性魔法一覧

・『水の砲撃アクアシェリング

広範囲攻撃魔法。水属性中級魔法の一つで、攻撃力だけなら中級魔法の中でも随一の威力を誇る。しかし、その反面魔力の消費が激しく、またコントロールの難しい魔法のため、しばしば暴発する新米魔法師がいたりする。


威力が中級魔法でも随一ということは、相当な威力を誇るだろうし、ジャイアントベアーでもかなりのダメージが与えられる気がする。

しかし、魔力の消費とコントロールに難あり、か。

少し暴発しないか心配ではあるが、それでもこの文字は光っているのだ。

多分、俺にも使いこなすことができるものなのだろう。

そう判断して、俺はこの魔法を使うことを決意する。


「……『水の砲撃アクアシェリング』っ!!!」


俺は距離を詰め、鉤爪を振りかざしていたジャイアントベアーに向けて右手を向けて放つ。

右手からはよくわからない幾何学的な文様が現れた後、凄まじい音を発してジャイアントベアーへと襲いかかる。


「……っ!?」


衝撃は俺の右手にも多少伝わり、少しの痛みを伴う。

しばらくの間轟音が続いた後、その音が不意に止んだ。


「終わった、のか……?」


痛みのあまり閉じていた目をゆっくりと開けると、そこには跡形も残っていないジャイアントベアーと思しき死体と、森に大砲でも放ったかのような、何かが貫通している跡が残っていた。


「は……ははは……。はぁ……」


これはしばらく使用禁止だなと、ピョンピョン跳ねて喜びを体現してくれているスライムを見ながら思った。





私がアークウォイト家に仕えてから既に三年が過ぎた。

この家庭はどこの貴族よりも善良で、種族がどうのこうのと言う豚とは違い、他種族にも優しい。

家族構成は家主とその妻、長男に長女、後少し歳が離れているところに次男と次女がいる。


「ファーン、君はこの二年、勤勉に私たちに尽くしてくれていた。本当にありがとう。そこで、今回は私たちの次男であるフィルの、専属使用人になってもらえないだろうか?」

「はい!よろしくお願い申し上げます!」

「頼んだぞ」


二年間真面目に働いていた甲斐があったのか、私はその働きぶりが認められて、フィル様の専属使用人を任せられた。

普通ならどこの馬の骨とも知れない田舎者の私に、こんな重要な仕事を任せないだろう。

でも、ここの領主は相当のお人好しのようで、どんな人間でも仕事さえ良ければ仕事をくれる。


「やはり、ここを選んだのは正解だったようです……」


私はここに来てからのことを思い出しながら、目の前の光景に目を向ける。

……フィルウェルト・S・アークウォイト。

愛称としてフィル、と呼ばれることが多く、五歳にしては小柄すぎる体型と悪すぎる彼の顔色が、欠食児童のように見えてしまう。

顔つきは華美というわけではないけれど、それでも整った容姿をしていて、少し困っているかのように歪んでいる眉と優しげに垂れている目は、見る者を安心させてくれる。

まだ、小さいからか、少し中性的に見え、大体の人が女の子と間違えることが多い。

フィルの性能は、平均値がD−、とそこらへんにいる子供たちよりも性能が低いが、その性能の劣りを補って余りある聡明さが売りである。

言葉遣いは極めて丁寧で、どんな人にも必ずですます調で会話をする。

奇怪な病をおった一週間後、高熱は下がったが、脳に障害が残ってしまい、記憶喪失となる。

記憶喪失となった後も、誰に対しても敬意を払う態度は変わらないフィルではあるものの、若干周りの人たちと距離を置いている模様。

そして今回、フィルの距離の置き方に疑問を持った私は、この森最強の魔物、ジャイアントベアーをフィルに嗾けることで、彼に対しての疑問の正体が何なのかを探ることにした。


「一体、フィル様は……祝福の儀でどんな加護を授かったのか……?」


ジャイアントベアーと渡り合い、あまつさえ打ち倒してしまうほどの強力な水属性魔法。

そんな強力な魔法を一体どこで習得したのか?

加護で底上げされていたとしても、いきなり中級クラスの魔法が撃てるなんていうことにはならない。

おそらく、どこかで練習していたはず……。

本当は助ける予定ではあったが、フィルが一人で倒してしまったために、何だかファーンという使用人が子爵家次男を放って逃げた図にしかならない。

これで自分があの家から解雇されたらどうしよう……。

私はそう思いながら、傷の手当をしているフィルのもとへと歩いて行った。




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