5.叡智な俺、育成ゲーで無双する……かも?
俺のメイドがすげー!の会に成り下がった感がある……。
ホントはスライムで無双させたかったんだけど……。
今回、少し長めです。
生命力が一割を切ってしまっているスライム。
そんなスライムのために俺は何をしたら良いのか?
まずはそこから調べないとーーー
「ーーーなんて、面倒なことはしない」
俺には二つのユニーク(もしくはレア)なスキルが存在する。
その中の一つが、この状況を解決することができる。
それがスキル、『叡智の書』である。
「どれどれ〜、と。とりあえずこの検索の仕方で良いかな……」
『叡智の書』の能力は、俺にだけ見える魔力でできた本を生成し、検索項目に俺が今知りたいことを入力することで、その情報を見ることができるのである。
検索に関しては、『死にかけのスライム、助命方法』にしてみた。
すると、やはり情報収集に関しては随分と便利なものらしく、沢山の情報を得ることができた。
そして、この中で一番楽な方法はーーー
「ロスカーさん、すいませんが今日使った水属性の魔石のゴミって、まだ残っていますか?」
ーーー魔石の吸収だった。
どうもスライムとは魔力の塊のようなものらしく、魔石を取り込めばすぐに回復するらしい。
魔石は家庭のどの器具を使うのにも欠かせない、地球で言うところの電池のような役割を果たしているものなので、どこの家にも常備されている。
ちなみに、魔石は魔物から取れる。
「魔石のゴミ……ですか?あることにはありますが……。一体そんなものを何に使うんですか?」
「ああ、死にかけのスライムを助けるのに必要だそうです。さっき書庫で調べて見て、わかりました」
「そうですか……。さすが、フィル様ですね。行動がお早い……」
む?もしかして、少し早すぎたか?
しかし、もう本で調べたと言ってしまった後だし……。
今更撤回しても余計に怪しまれるだけか。
俺はロスカーの褒め言葉を聞き流し、魔石のゴミを一キロほど入手した後、自室に戻ってスライムに与えた。
一キロは俺には持てなかったので、妹に半分以上持ってもらう、という中々の屈辱を受けた。
スライムは、俺の手に乗せた魔石のゴミがエサであると認識したのか、緩慢とした動きではあったが、食べ始めた。
もぞもぞとしばらくの間動いていたスライムを待っていると、全ての魔石のゴミを食べたところで、スライムが跳ねるようにして俺の体にぶつかってきた。
「うぶっ!?」
いきなりのことでスライムの突進の勢いを殺しきれなかった俺は、まあまあのダメージを体に負ったが、スライムが俺の体に自身の体をこすりつけているところを見て、回復&手懐けに成功したということを理解した。
ひと段落したところで、シャリルちゃんが俺に話しかけてくる。
「フィルにぃ、なにしてたのぉー?」
「うーんとねー。フィル兄さんは、怪我してた魔物さんを助けてあげたんだー」
「まもの?」
「そう、魔物」
「まもの!まもの♪」とそう言いながら、シャリルちゃんはご機嫌な様子でスライムを突く。
フィルにぃ、ではなく兄さんと呼ばせたい俺は、結構頻繁に自分のことをフィル兄さん、と呼んだりしているのだが、あまり効果はなさそうだ。
さて、俺はそろそろスライムの育成に力を入れたいので、スライムで遊んでいるシャリルちゃんをやんわりと引き剥がすと、「フィル兄さん、ちょっと出かけてくるから」と言い、自室を出る。
シャリルちゃんは「きをつけてねー♪」と可愛らしい笑顔を浮かべながら、手を振っていた。
◆
いくらスライムの育成がしたい、と言っても俺は子爵という位の貴族の息子である。
次男なので、この家を継ぐということはできないが、だからと言って貴族の位が完全になくなるわけではない。
少し功績を残せばもしかしたらまた、子爵という位に戻る可能性さえある。
だから、俺がスライムのレベル上げに行くためには護衛が必要になる。
「というわけでよろしくお願いします、フィル様」
俺の専属使用人である、ファーンが護衛になることになった。
「どうかしましたか?フィル様」
こう言ってはなんだが、護衛として適しているのだろうか?
彼女は女性の中でも結構小柄、そして細身な方であり、控えめに見積もっても強そうには見えない。
白いエプロン姿に、白のニーソックスがよく似合っており、とても情欲がそそられる体つきをしている。
胸はその小柄な体躯に見合った大きさで、そこまで小さくもなく、また大きくもない……と言ったところだろうか。
所謂美乳というやつだ。
……ちょっと心配だな。
そう思った俺は、いつもはプライバシーという問題もあって、人には使わないようにしている『真眼』を使おうとしてーーー
「ーーーっ!?」
突然、ファーンに目を塞がれる。
あまりにも突然のことだったので、俺の体がビクッと震えてしまった。
ファーンは俺の耳にふっくらとした唇を近付けると、囁くように言う。
「スキルなどと無粋なものを使わなくとも……私が自分からお見せしますので。どうぞご自身の目でご判断ください。大丈夫です。フィル様を失望させるような真似はいたしませんから……」
「う、うん……」
耳に直接息がかかり、妙にくすぐったい。
俺はそのくすぐったさから逃れるために体をよじると、ファーンから離れた。
ーーーん?
そういえば、こいつ今、スキルって言わなかったか?
俺が驚愕したようにファーンに視線を向けると、ファーンは自身の唇に人差し指を当てて言う。
「しー♪ですよ。フィル様……」
どうやら俺は、何か知ってはいけないことを知ってしまったようだ。
◆
「さて、とりあえず護衛役は私に決まった、ということで話を進めていきますが……。それよりもフィル様?フィル様はどのようにしてそのスライムを育てるおつもりなのですか?正直に申し上げますと、スライムという魔物は、あまり強い魔物ではないですし……」
ファーンの言う通り、スライムというのは元来強い魔物ではない。
野生にいるスライムの平均性能は、大体Fの底辺、良くてもFF程度と言ったところだ。
正直言うと、そこらへんの村のガキンチョが蹴り殺せるレベルだ。
しかし、このスライムは少し違う。
『真眼』というスキルを持っていない人からすれば、少し色が変わったスライムだな、程度にしか取られないが、俺にはこいつの才能が見えている。
こいつは種族の隣に変異種という文字が入っていたのだ。
きっとこいつはそこらへんにいるスライムとは比べモノにならないくらい強くなる……多分。
だから、このスライムにかけることにした。
「フィル様……。いくらフィル様の性能が優れていないとはいえ、ゴブリンぐらいなら大丈夫ではないでしょうか?それともそのゴブリンすら怖いとおっしゃられるのですか?……それなら私が一緒について練習に付き合いますので……」
どうやら俺の沈黙が、ファーンにいらぬ誤解を与えてしまったようだ。
しかも、何気にファーンの俺への評価が結構酷評だ。
このまま勘違いさせておくのもいいが、この人なんか怖い感じがするんだよね……。
ここは正直に言うとしよう。
「ファーンさん、別に僕はゴブリンが怖いとか、そういう理由でスライムを選んでるわけじゃないですから。ただ単純に僕がこの子を気に入っただけですから」
俺は上辺だけの笑顔をファーンに向けると、肩に乗せていたスライムを撫でる。
撫でられて嬉しいのか、スライムはギュムギュムと俺の手に体を押し付ける。
「ふーん……そうですか」
対して、俺の返答に納得できていないのか、目を若干細めながら薄笑いを浮かべるファーン。
……こ、怖いっすよ、ファーンさん!?
俺の狙いがなんとなく見透かされているように思うものの、この人が俺の護衛役と決まっている以上、仕方なくついて来てもらう他なかった。
アークウォイト子爵家は、王都にそこまで遠くはないため、案外都会の部類に入る。
ここから王都まで、馬を一時間とちょっと、と言ったところだ。
しかし、そんな文明がまあまあ発展しているであろうところでさえ、少し歩いただけで森が見えてくるのだ。
異世界と地球との文明に格差を感じさせられた瞬間だった。
「ーーーっ!お下がりください!フィル様!」
森の中を歩いてもう少し一時間に達すると言ったところで、いきなり険しい顔をしたファーンが俺の前に手を出して、後ろに下がらせた。
「これが、ゴブリンか……」
茂みがガサガサと揺れた後、中からゴブリンが五匹現れた。
ゴブリンと読んで、小鬼と書くに相応しい貧相な体躯をしており、身長は屋敷で一番背が低い俺より少し上、といったところだ。
歯はほとんど手入れをしていないのか、ドロドロとした真っ黄色でありところどころ虫歯が見える。
服はどこの狩猟民族だよ!?とツッコミたくなるぐらい野生的で、鹿かなんかの毛皮で身を包んでいる。
武器は棍棒……というか、木の根っこ。
俺の専属使用人ファーンは、五匹のゴブリンを視界に収めたまま、俺をできるだけゴブリンから遠ざけると、スカートからダガーを抜き出した。
ダガーを抜くためにスカートを少し翻す様が妙に艶かしい。
数瞬、露わになるファーンの太ももに気を取られながらも、彼女がどのくらいの戦闘技量を誇るのかを見定めるために、無理やり視線をゴブリンの方へ向ける。
「ギギィッ!!!」
ファーンが武器を抜いたのを敵対行動とみなしたのか、五匹のゴブリンは連携のれの字も知らなそうなお粗末な団体行動で、攻撃を仕掛けてきた。
五匹のゴブリンが一斉に棍棒を振り下ろす様は、武器がいくら木の根っこみたいなものだとしても、中々に威圧感があり、普通の女性だとこれだけで萎縮してしまうだろう。
しかし、ファーンはそうはいかなかった。
ファーンは冷静に駆け出すと、まず一番前のゴブリンの首を一閃。
「ギゲェッ!?」
ファーンは、首筋から多量の血を噴出しているゴブリンを尻目に、その隣で動揺しているゴブリンに襲いかかる。
「ギャッ!?」
動揺から立ち直るのが少し遅かったゴブリンは、振り下ろそうとした棍棒を持っていた手首を斬り落とされた後、最初のゴブリンと同じく頸動脈を斬られ、死亡。
残り三匹になったゴブリンたちは、さすがに相手との力量差を察したのか、茂みの奥へと逃げていった。
「ふぅ〜……。どうですか?フィル様。これなら、フィル様の護衛役をしても問題ないぐらいには強いとは思いますが……」
「そうだな……」
強い、なんていうが、彼女の軽い口調以上に俺はファーンの強さを感じ取っていた。
いやいや、あんた強すぎでしょっ!?
ゴブリンを瞬殺、というレベルになると冒険者と呼ばれる戦闘を行う傭兵集団のランクで言う所のDはあるだろう。
いや、俺を守りながら、しかもある程度の魅せる余裕まであったのだ、もしかしたらCに達するかもしれない。
冒険者のランクCとなると、その業界ではベテラン級に値するわけなので、普通に暮らしている分には絶対身につかない実力だ。
ファーンは俺を安心させるために実力を見せつけたのかもしれないが、その判断は誤りだったとしか言いようがない。
このレベルの実力となると俺からすれば、安心の対象ではなく、警戒の対象になるのだから……。
しかし、あからさまに警戒しても仕方がない。
なるべく穏便に今回のスライム育成を終わらせるとしよう。
俺はできるだけ和かに笑うように努めながら、ファーンを褒める。
◆
スライムのレベル上げにおいて何が必要なのか?
それは豊富な魔力を帯びた食べ物である。
というよりも、ほとんどの生物のレベルアップの条件が豊富な魔力を帯びた食べ物である。
では、豊富な魔力を帯びた食べ物とは一体なんなのか?
答えは、出来立ての生物の死体だ。
「へぇー……。魔物はこうやってレベルを上げていたんですか……。それは初耳ですね」
「ああ、まぁそうでしょうね。書庫でも随分と奥の方に管理されている本でしたから……」
まさか自分のスキルで調べました、なんて言えない……。
俺は若干冷や汗を流しながらも、お得意の愛想笑いで誤魔化す。
「いやー、それにしてもスライムってこんな風にして食事をしているんですね」
俺はボロが出ないうちに話を変える。
ファーンは笑顔だが、相変わらず目が笑っていない。
ムッシャムッシャ、とゴブリン(死体)を食べているスライムの体を撫でる。
ムニムニとした感触が、少しだけ俺を安心させてくれる。
「じゃあ、またゴブリン退治、お願いできますか?」
「……わかりました」
しばらくは、ファーンに魔物(主にゴブリン)を狩って貰ってそれをスライムに食べさせるというサイクルを続けた。
ーーー数時間後。
「お!おおっ!結構、強くなったじゃないか!スライム」
ギュムギュムとした感触のするスライムを撫でながら俺は大いに褒める。
ファーンがなんか理不尽そうな顔でこっちを見ているが、そんなのは気にしない!
ちなみに、この数時間でスライムはこれだけ性能を手に入れた。
ーーーーーー
【名前】
【性能】Lv.13(←Lv.9)
筋力:F+(←F−)
敏捷:DDD(←DD+)
体力:C(←C−)
耐久:E(←E−)
器用:F(←F−)
魔力:F−(←GGG+)
知力:EE+(←E)
【スキル】吸収Lv.3→Lv.4
ーーーーーー
戦闘を全てファーンに任せたせいか、レベルが三も上がった割にはそこまで成果が見受けられないような気もする。
しかし、これで魔物を食べさせるだけで十分強くなれるとわかったわけだ。
今日はこの辺にして、ファーンが護衛役ではないときにでもまた、検証を再開すればいいか。
「今日はこの辺にして帰りませんーーー」
とりあえず今日はもう、帰ろう……そう伝えようとしたところで、そこで初めてファーンが険しい顔をしているのに気付いた。
これは今までも見てきたゴブリンみたいな魔物が茂みから現れる前兆だ。
「どうかしたんですか?また、ゴブリンですか?」
「……これは、少しまずいことになりましたね」
「……?」
俺はいつもと少し様子が違うファーンの姿に首を傾げる。
額から冷や汗を流し、体を小刻みに震わせているファーンの姿は、まるで天敵である蛇を前にした蛙のようでーーー
「……良いですか?私が合図を出したらすぐに来た道へと走ってください」
「……へ?一体何をそんなに慌ててーーー」
「今です!走ってください!!!」
俺の疑問は、ファーンの鋭い掛け声によって掻き消される。
俺は困惑しながらも、とりあえず彼女の言う通りに来た道へと走り出した。
すると、ファーンの前方から凄まじい轟音と、木々が薙ぎ倒される音が聞こえた。
「グルルルアァァアアアアアッ!!!」
一体何の魔物なんだーーー?
純粋な知的好奇心のもと、俺は後方へ振り返ってすぐにその行為を後悔することとなった。
「あ、あれはーーージャイアントベアー……!?」
アークウォイト家領地に生息する森の魔物の中で一番強い魔物……。
ーーーランクCの魔物だった。
◆
「はあはあはあ……ぐえっ、はあ……」
使用人、ファーンが懸命にジャイアントベアーに立ち向かっていく姿を尻目に、俺は必死になって森の中を走った。
スライムは肩から下ろし、一緒に並走してもらった。
もちろん俺よりも彼(or彼女)の方が足が速いので、置いてかれる危険性があったが、命を助けたのが良かったのか、非常に俺に懐いていたため置いてかれるなんてことはなかった。
しかし、俺は体力のランクはG−と最低ランクだ。
全速力で走れたのは最初の数メートルで、あとはほとんどスライムに引っ張って貰っている形となってしまった。
……マジでスライム様、神だな。
「ここまで来れば追ってくることは多分ない、とは思うが……」
ジャイアントベアー……。
俺はこの森に入る上で、ちゃんとそういった脅威が存在していることを知っていた。
スキル、『叡智の書』によって……。
だから、予めこのようになることもわからないわけではないのだが……。
「いや、それにしても不自然だろ……」
自分の愚かさから目を背けたいのではない。
ただ単純に、俺は客観的な事実に従ってそう言っているのだ。
何故なら、ジャイアントベアーは調べたところ、生息地域はこの森の奥地、それも隣接している男爵家領地、アンデラート山脈に近い地域に生息しているはずなのだ。
確かに俺たちは少し森に深入りしてしまっていたかもしれないが、それにしたってアンデラート山脈からは、まだ三十キロぐらいは離れていたはず。
こんなところに出現しているなんておかしくないか?
「まぁなんにせよ、出てしまったのだから仕方がない……」
こういう不測の事態が起きたときには、ぐちぐち文句を言うよりも行動した方がよっぽど良い。
……地球での経験則だ。
「ファーンが勝っていると良いが……」
そうすれば俺はジャイアントベアーに生命を脅かされるなんてことはなくなるし……。
まぁ、最悪ファーンは死んでても良いから、ある程度ジャイアントベアーに手傷を負わせてくれはしないだろうか?
……少し、難しいか。
俺はファーンの戦闘を見て、冒険者ランクCはあるかも……なんて言ってたりしていたが、魔物のランクと冒険者のランクというのは同列ではない。
魔物の脅威のランクは、複数人の冒険者に匹敵する、という考え方だからだ。
もちろん、ゴブリンのような雑魚だったらランクは同列でも一対一でやり合えるとは思う。
しかし、ジャイアントベアーのような強者……特にランクC以上の魔物は、冒険者一人で……とはいかないだろう。
最低でもランクCのパーティ(冒険者が複数人で集まって組んでいる団体)で挑まないと無理だろう。
そうなると、ファーン相討ち作戦は成り立たない……か?
俺がうんうん唸りながら歩いていると、不意に何かの魔物の雄叫びが聞こえてきたような気がした。
……空耳か?
「グルルルアァァアアアアアッ!!!」
ーーーいや、空耳じゃない!?
バキバキッ、という木々が薙ぎ倒される音と共に、そいつは現れた。
「フシュー……」
「チッ……やっぱ、ファーンじゃ無理だったか……」
そこにはほぼ無傷の、ジャイアントベアーがいた。
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