act 0 惑星『青』
取り敢えず書き始めました。よろしくお願いいたします。
0 プロローグ
運命の女神に愛された者は、良くも悪くも波乱に満ちた生涯を送る。そんな苛酷な日々を幸福に思える者が、いったいどれだけいるというのか。
刺激的なことなど、最小限でいい。
平穏無事に過ごしたい。
それを贅沢どころか不可能とまで言われてしまうのが先天的に持って生まれた我が身の特殊性ゆえだとしたら、恨むべきはやはり『運命』ではないだろうか。
この身が生まれて凡そ百年、そろそろ落ち着きたいと言うのが、彼のささやかながらも切実な望みだった。
「死神、次の任務が決まったぞ」
「オレは休暇です」
前回の任務が最低最悪だったので、生き延びたメンバーはもれなく無期限のリフレッシュ休暇かに突入だ。それでも復活出来なければ移動か引退である。
厚待遇の割に離職率がバカ高いのが問題にならない特殊にしてブラックな職種である以上、使う方も使われる方も今更文句を言う余地はない規則のはずなのだが。
「優雅な休暇の片手間でいい簡単な任務さ」
「‥‥オレが当たった任務で、簡単だったモノなど一度もない気がするんですが」
「良かったな、初体験じゃないか」
上司は部下に対して公正でありながら柔軟でもある有能極まりない存在だが、当然のように腹黒い。
種族的特性のため現場に出ることは出来ないので、順調に行けば将来的には本部の参謀長になるはずだ。裏工作に奔走する必要もない、血統能力実積ともに問題のないエリートだからこそ、危険度ナンバーワンの彼を部下に出来たのだ、あくまでも表向きの話だが。
「現場はド辺境、しかも未開の第六レベル惑星《青》だ」
「‥‥手出し禁止の監視対象でしたよね?昇格でも?」
「まだ可能性の段階だが、調査員が入った。その追跡調査になる」
最重要レベルの極秘の調査を担当する隠密部は所属すら違うため、上司が情報の連係だけはするという状態だろう。彼のような下っぱは自分の部署のメンバーさえ全員は知らないのが当然なのだから、他所の、しかも隠密調査員との連係などあり得ない。
「オレ、移動ですか?」
「特例の貸し出しだ。なにせ第六レベル惑星で調査員が音信不通になったんだ。本部もビビったみたいだな~」
「怒り狂ったんではなく?」
第六レベル惑星は、通称《黎明星》だ。
文明も霊長の能力も夜明けもまだの原始レベル。
惑星外に出られるか否か、他星人と意志疎通出来るかと言う彼等を保護するためという名目で、強制的にコチラからすべての接触を禁止していた。
例えるなら大人と赤ん坊だろうか。
彼等にとっては警戒するのも馬鹿馬鹿しいほど、か弱い存在のはずだというのに。
「原因究明と救出もしくは報復目的で送り込んだ第二陣までもが音信不通となると、さすがに上った血も下がるらしい」
鼻で笑う態度は誉められたものではないが、気に食わない相手の狼狽は滅多にない楽しみなのだろう。
「‥‥それで、死神投入ですか」
「そ、おまえは現地で好き勝手して帰って来ればいい。それだけの任務さ」
簡単だろ?と笑う上司を、無表情で見つめる。
「つまり《青》は滅亡させろ、と」
「助けてみるか?構わないぞ」
所詮、馬鹿の失態の後始末だ。
面白そうにうそぶく上司から目を反らしつつ、彼は答えた。
「面倒くさいことをワザワザする気にはなれません」
それは現時点では、紛れもなく本音だった。
我が身ひとつさえ持て余す彼は、新たな何かと関わると考えるだけで憂鬱になるのだ。
「もっと気楽に生きればいいのに」
「死ぬも生きるも気楽に出来れば、どんなに幸せでしょう~」
軽く言い放った彼の言葉に、上司は軽く眉を寄せる。
「おまえ、死にたいのか?」
「いいえ。でも楽になりたい気はします」
それは我が身だけでなく、世界を巻き込んでの破滅。
知ってしまったら決して選べない、ささやかで切実な願望だった。