外出
「トールさん、いますかぁ。」
翌朝、また、女性警官が訪れた。
落ち着いて見てみると、彼女は黒いショートカットが印象的な、
結構な美人だった。目鼻立ちがはっきりしていて、
大きな瞳がよく動くことから、活発な女の子といった感じがした。
俺は、また、2016年から来た話をしようか
迷いながらも、事情聴取に答えていった。
「まあ、こんなものですかねえ。」
彼女は出来上がった書類を見返しながら
独り言を呟いた。
美人と2人きりで会話をするなど、
大学生活においては夢のまた夢だと思っていたが
いざ、やってみると思いの外つまらない。
それよりも俺はこれからどうなるか
気になってしょうがなかった。
「これから私はどうなるのでしょうか?」
堪らず俺は質問をする。
「トールさんのような場合、扱いが難しいんですよ。
下手に雑な扱いもできませんしね。まあ暫くはここで
寝起きしてもらうことになると思います。」
「外出はできないのでしょうか?」
「あれ、外出はできると思いますが……ダメとか言われましたか?」
まあ、確かにダメだとは言われていないか……
良いとも言われていないが……
「良かったら、案内しましょうか?」
魅力的な提案にちょっと心が揺らいだが、
警官同伴で街を散策など、それこそ犯罪者ではないか。
「お気遣い感謝しますが、お仕事大変でしょう。1人で大丈夫です。」
「遠慮しなくてもいいんですよ。」
「まあ、大丈夫です。」
「そうですか……」
あからさまに残念そうな顔をしていたが、
俺は外出できるという事実に心が踊っていた。
やはり、数時間とは言え、あの独房暮らしがあって、
外の空気に飢えているのだ。
「で、何処に行く気なんですか?」
と、彼女に聞かれた。
「まだ、決めてはいませんけど、東京駅にでも行ってみようかなと思っています。」
「分かりました。電車で移動する予定なんですね。」
「ええ、そうです。」
俺の答えを聞いて、彼女はそそくさと帰って行った。
俺はちょっとゆっくりしてから、難民収容所の職員に、
道を教えてもらい、最寄りの駅に向かった。
駅に着きSuicaを使ってホームに出ようとすると、Suicaが反応する場所が無い。
あれ、これはどうしたらいいんだ?と思っていると
「トールさん。」
と声をかけられた。
見ると、あの女性警官が私服を着て立っていた。
「案内が必要ではないですか?」