取り調べ
手動運転罪が懲役5年という話を聞いて
俺は事態の深刻さにやっと気づいた。
5年も牢屋に入ったら、大学はどうなるのだ?
そもそも、前科持ちになってしまったら、
就職できるかどうかも怪しくなってくる。
しかし、手動運転の罪というのは一体なんなんだ?
そんなの聞いたことも無いぞ。
「大体、分かりましたかね?
それでは、取り調べを開始しますね。」
「はい。」自然に姿勢が良くなる。
「ええと、まず、あなたの名前を聞かせてください。」
「トールです。」
「はい。トールさん、と。国籍はどこですか?」
「日本です。」
その後、年齢、苗字、本籍地、などなど、
個人情報を聞かれて、正しく答えた。
「はい。ええと、緊急連絡先はありますか?」
緊急連絡先か……
親の家の電話番号でいいかな?
「はい。ありがとうございます。」
これで一通りの登録が終わったようだった。
「少し待ってくださいね。」と機械的な笑みを浮かべて、
女性警官は外で待っていた男性にメモを渡した。
「はい。では本題に入りますね。
あなたは弁護士を雇って取り調べの対応をしてもらうことも、
自分で取り調べに答えることもできます。分かりますか?」
「はい。」
「どうしますか?」
お、急に決断を迫られているぞ。
にしても、メリットデメリットも分からずに決断をできる訳が無い。
一応聞いてみる。
「どちらが良いのでしょうか?」
女性警官は笑顔を崩さずに返答する。
「どちらが良いということを私の方から答えることはできません。」
それはそうか。
きっと、弁護士を頼んでも、そう変わらないだろう。
「それでは、自分で答えます。」
それを聞いた女性警官が一瞬天を仰いだのを、
俺は見逃さなかった。これは弁護士を雇う方が
正解なのだろうか?
「という気にもなりましたが、やっぱり弁護士を雇います。」
「そうですか。では、国選弁護士を雇いますか?
それとも自分で弁護士を雇いますか?」
弁護士の知り合いなんていないしねえ。
「国選弁護士でお願いいたします。」
「分かりました。国選弁護士を手配しますので、
部屋に戻ってお待ちください。」
また、独房に戻された。
することも無いので、
またウトウトしていると、
扉をノックする音が聞こえた。
見ると、ゴミ回収のおじさんとは違う
おじさんが立っている。
「はい。なんでしょう?」
「トールさんですよね?」
「はい。トールです。」
「すみませんが、緊急連絡先に連絡をしたのですが、不通でして……。」
あれ、これは、どういうことだ。
この話に出てくる取り調べの流れは、現在の日本のものとは異なります。
あくまでフィクションとして、お楽しみください。