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自動運転の安全性

それから、すべての自動車に対してハッキングを行い、俺のプログラムを侵入させていった。これでテロリストのプログラムが混入している自動車も正常に戻る。


そこまで見届けてから、俺は警察署の仮眠室で休ませてもらうことにした。



「トールさん! 」

ユリの声で目が覚めた。


日本の危機を救ったヒーローに何か用かな?


「大変なんです。トールさんのプログラムが動かない自動車があって……」


そんな馬鹿な。確かにテロリストのプログラムが、ターゲットを決めて突っ込む準備に入っていれば、俺の分岐処理は動かないが……

まだ今週末までには日がある。突っ込む準備に入っているとは思えないが……


「とにかく、来てください。」


会議室に行くと初老の男性が深刻そうな顔をしていた。

「テロリストから脅迫が来ていてね……要求を飲まない場合は渋谷駅をターゲットにするそうだ……」

「そんな馬鹿な……だって……」


そこまで話して俺は気づいた。通常、前夜祭と後夜祭があったら、それらの間にメインのイベントがあるということを……


「前回はテロリストの自動車の判別ができず後手に回ったが、今回は君のプログラムが起動していない自動車の判別は済んでいる。なので周囲に影響が出ない場所で爆発させられるテロリストの自動車は爆発させた。ただ、1台ほど繁華街しか走行しないのがあってな……しかもテロとは無関係な一般人が乗っているのだ。それをなんとかして爆発させずに処理したい……」


なんと、なかなか、ハードなことをやってのけたな。それにしても暴走中の自動車を止める方法か……


「なんとかなるかもしれません。」

「本当か?」

「プログラムにはシグナル処理というものがあり、自動運転のプログラムにもそれがありました。それをうまく使えば、なんとかなるかもしれません。」

「それを使うにはどうしたら……」

「一番簡単な方法はガソリンタンクカバーを無理矢理外すことですね。そういう処理が自動運転のプログラムにはありました。そうすればシステムは強制停止するはずです。」

俺は自動運転のプログラムのテキストを思い出しながら言う。


コータの安全性への拘りだろうな。ガソリンタンクカバーが自然に外れることなど、どれだけあるのだろうか……


その話に初老の男性は首を横に振った。

「無理だな……現在走行している自動車のガソリンタンクカバーを外すなど……止まっていれば拳銃でなんとかなるかもしれないが……」

「いや、でも自動車で近寄れば……」

「手動で運転すれば可能かもしれないが、そんな曲芸に近い運転ができる人間は警察にはいないのだよ。」

「ええと、俺ができますが……」

「本当か!」



手動運転ができる俺は警察の期待を受けて警察署からパトカーに乗って出発した。まさか俺がパトカーを運転する日が来るとはなあ。それにしても自動車で並走するだけなのに曲芸に近い運転とは……よほど運転が下手になっているんだなあ。


拳銃は俺が撃つ訳にもいかないので、ユリが撃つことになった。


サイレンを鳴らしてターゲットの自動車の横につける。後部座席ではユリが拳銃を両手で構えている。


「ユリ、いけるか?」

「任せてください。」


ユリが引き金を引いた。弾丸はしっかりとガソリンタンクカバーに当たったようだが、まだ外れるまでには至らない。


「もう少し寄れますか?」

「任せろ。」


そうは言ったものの、俺の運転ではこれが限界に近い。しかもあまり近づくと奴の自動運転機能が働いて回避を始めてしまうのだ。


「ユリ、これくらいで頼む。」

「分かりました。」


ユリはガソリンタンクカバーに向かって連発した。ガンガンガンとリズミカルに衝撃音が鳴り、とうとうガソリンタンクカバーが外れた。


「やりましたよ。」

「よし。」


これでシグナルが発行されて、プログラムの例外処理が走る。そしてシステムは強制停止する。自動車は生気が抜けたように自然に停止した。乗っていた人も安心しただろう。


一安心した俺はフーッと長いため息をついた。


「トールさん、感謝します。」ユリは俺を見つめながら言う。

「いや、君のお祖父さんの安全性への拘りのおかげだよ。」

まったく、コータの安全性への拘りの勝利と言って良いだろう。


ユリの悲しそうにしていた顔が、ふわっと笑顔になった。

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