ニンニク
ユリに拳銃を突きつけられて、俺はビビリまくった。だってそうだろう、相手は先日、人間相手に躊躇いなく発砲したのだ。俺相手に発砲しないとはどうしても思えなかった。2016年であれば、逮捕令状も無く逮捕など、現行犯でもない限りあり得ないが、ここは2077年だ。
「ま、ま、おお、落ち着くんだ……」
「私は落ち着いています。」
「なら、どうして逮捕なんて……俺が何をしたっていうんだ?」
「貴方はこのテロについて知っていたんでしょう?」
「あれは、東京駅で盗み聞きをしたんだ。」
「え?」
「ユリが買い物に行っている間、俺はユリにそっくりの女性がいたので、ユリだと思って、そっと近づいたんだ。そしたら、電話で話していて、盗み聞きしてしまったんだ。」
ユリは疑わしげに俺を見る。
「本当ですか?」
「本当だ。頼む。信じてくれ。」
「分かりました。ですが、重要参考人として警察までは来てもらいます。」
「ああ、分かった。行くから、その拳銃を下ろしてくれ。」
ユリはやっと拳銃を下ろしてくれた。どっと冷や汗が俺の背中を伝わる。そして、パトカーに乗せられて、また警察署まで行き、東京駅で盗み聞きした内容を詳細に説明した。ユリはまだ半信半疑のようだ。
「となると、来週末に東京駅でテロがあると……」
「そうだろうな。俺も盗み聞きしたときは何かサプライズライブでもやるのかと思っていたが……」
こうなってみると来週末東京駅でテロがあるのは確実に思える。
ユリは調書をじっと睨んでいる。いつになく真剣だ。大好きな自動車が犯罪に使われたので、心中穏やかならざるものがあるのかもしれない。
ただ俺は、深夜まで取り調べが続いたせいもあり、どうにも腹が減ってしまった。別に俺は容疑者ではないだから何か夜食を食べさせてもらっても良いのではなかろうか?
警察署で食べると言ったらカツ丼だが……
真剣なユリにお願いをしてみる。
「なあ、ユリ、ラーメンでも食べさせてもらえないだろうか?」
「そうですね。私もお腹が空きましたし、いいでしょう。ただし、トールさんは素ラーメンです。」
「うっ。」
ま、奢ってもらっている身の上だから、しょうがない。ユリに警察署最寄りのラーメンに連れて行ってもらえた。そこで宣言通りに素ラーメンを注文し、いつものようにトッピングのニンニクを大量に入れる。懐かしい味だ。
それを見てユリがビックリしたような顔をしている。
「どうしたんだ?」
「どうして、そんなに、ニンニクを入れたんですか?」
「どうしてって、無料だから……」
「でも、臭くなるじゃないですか?」
「臭くなってもいいだろ。」
ユリがポツリポツリと話し出した。
「……祖父も、ニンニクが大好きで、ラーメンを食べるときは、いつも大量に、ニンニクを入れていて……私もラーメンにはニンニクを大量に入れるものだと思い込んでいたら友達から臭いって言われて……でも祖父は、よく言っていたんです……ニンニクで、臭くなったくらいで、成り立たない人間関係なんか、捨ててしまえって……信頼があれば、ニンニクの臭さなんて関係ないって……」
なんか、ニンニクくらいで物凄い良い話っぽくなっているが……
「俺も同意見だな。」と言おうとしたところに、ユリがかぶせてきた。
「トールさん、貴方を信じます。ですから協力してもらえないでしょうか?」




