蕎麦屋
着いたのは立ち食い蕎麦ほどではないにしても庶民的な蕎麦屋だった。これならユリに奢ってもらっても罪悪感は抱かずに済みそうだ。店員さんに注文する。ユリは山菜蕎麦、俺はかき揚げ天蕎麦だ。
待っている間、ユリを改めて見る。普通に可愛いんだが、なんでか俺のリビドーに火がつかないというか、欲情しないというか……これは一体なんなんだろうな……
「なんですか?」
「いや、ユリは蕎麦で良かったのか?」
「私、麺類は結構好きなんです。私の祖父も麺類は大好きで、よく連れて行ってもらったものです。」
ふーん。そうこうしているうちに蕎麦が出てきた。早速、かき揚げ天蕎麦をすすり始める。サクサクの衣に蕎麦汁が染み込んで実に美味い。
俺が一心不乱に蕎麦をすすっていると、ユリが呟いた。
「そのかき揚げ、美味しそうですね……」
「やらんぞ。」
「えー。」
「やらん。」
「そう言わず、ちょっとだけ。ほんの先っちょだけでも。」
食事中になんて会話をしているんだと思いながら、渋々かき揚げの四分の一ほど渡す。それをユリは一口で食べてしまった。なんて勿体無いことを。
しかもユリは言う。
「あれ、あんまり美味しくないですね〜」
俺が文句を言おうとした瞬間、銃声が聞こえた。遅れてパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
「事件か?」
「多分事件ですけど、きっと大丈夫ですよ。」
店内は騒然としているが、ユリは何事も無かったかのように蕎麦をすする。そういうものかと思い直して俺も蕎麦をすすり出すと、また銃声が聞こえた。
「ああ、もう。近づいて来てるなあ。」
と独り言を呟くと、食べかけの蕎麦をそのままに、ユリは席を立って店を出て行った。俺も後を追う。見るとユリは体勢を低くして停車している自動車の陰に隠れようとしているところだった。俺も同じようにしてユリのそばに向かう。
「あら着いてきちゃったんですね。しょうがない。トールさんはここで隠れていてくださいね。」
絶対ですよと念を押して、ユリが走り出す。
また、銃声が聞こえた。ユリは大丈夫かと見ると、なんとユリが発砲した音だった。ユリが構えている方向に男性がうずくまっている。あの人をユリは撃ったのか?
あまりのことに呆然としている俺に向かって、
「非番なのにいい迷惑ですねえ〜」
と言いながら、ユリはふわっと笑った。




