事の起こり
「はい。大盛りお待ちどう。」
学食で俺は大盛りラーメンを頼んでいた。
金が無いので、俺が食べるラーメンは、いつでも素ラーメンだ。
そこに無料のトッピングであるニンニクをたっぷり入れる。
「全く、またラーメン大盛りにニンニクたっぷりかよ。」
文句を言いつつ、同じようにラーメン大盛りを頼んでいるのは、
平間コータ、俺の大学の同級生だ。
「いいだろ。美味いんだから。」
「俺だからいいけど、他の人間だったら近寄って来なくなるぜ。」
「それだけ、お前を信用しているってことだよ。」
実際、俺たち理系の大学生の口がどれだけ臭くなろうが、
何か問題でもあるのだろうか?
いや無い。断じてNoだ。
学生の本分は勉強であり、
部屋を掃除する暇も惜しんで、
こうして大学で勉強している訳だ。
と言っても今はラーメンを食べている訳だが。
それにしても、俺の周りには女性が少ない。
俺が目指しているのがプログラマーだからというのも
あるのかもしれないが本当に少ない。
ただでさえ少ないところに、
イケメンどもが手近な女性で済ませようと
少ない女性を取り合うので、
俺たちフツメンにとっては、
女性はいないも同然だった。
「トール、今度、温泉でも行かないか?」
と、ラーメンを食べながら、コータが言う。
「いや、いくら女性が少ないからと言って、
俺はそこまで落ちぶれたくないんだが……」
「違うわ。折角、免許を取ったから、遠出してみたいだけだ。」
ああ、そうか。
そう言えば、この夏にコータと俺は免許を取ったのだった。
俺はそれからほとんど車に乗っていないが、
コータは何かあるたびにレンタカーを借りて、
皆(ただし、男性のみ)を乗せていた。
「紅葉も綺麗だろうし、良いかもなあ。」
「だろ。という訳で場所も決めてあるんだ。」
見ると、山奥の公衆温泉のチラシを持っていた。
「ええと、コータさん、これってもしかして……」
「もちろん、車中泊!」
うへえ、車中泊ってツライんだよなあ。
休みの日、コータと俺はレンタカーを借りて、
目的の温泉につかり、帰宅の途についていた。
俺は車中泊がキツく、あまり眠れなかった。
コータは大丈夫だろうか?
「なあに、俺は運転してるから、トールは寝てていいぜ。」
「おお、悪いな。」
という訳で、コータの運転を信用して、
俺は助手席で眠ることにした。
俺の下手な運転では、コータは眠れないだろうしね。
衝撃があり眼が覚めると、やたら見晴らしの良い場所にいた。
あれ?
ここはどこだ?
見回すと丁度ガードレールをぶち破って、
俺の座っている助手席が崖の上から突き出すような形になっていた。
「おい、これはどうなっているんだ?」
「すまん。俺、寝ちゃったみたいなんだ。」
さきほどから、シーソーのように車が揺れているのが分かる。
揺れが大きくなったら、崖の底に真っ逆様だ。
「おい、下手に動くなよ。」コータは俺に注意した。
確かにこれは下手に動く訳にはいかないな。
俺は少しずつ、コータが座る運転席の方に移動を開始する。
コータにも少しずつドアを開けさせる。
やっと俺が運転席に移動しきったくらいのところで、
コータに合図する。
「そっと降りてくれ。そっとだぞ。」
「分かった。」
コータがそっと降りると、
「「ああ!」」
コータという重しを失った車はバランスを崩し、
谷底に激突して、俺の短い人生はTheEnd。
かと思ったら、車は崖をジェットコースターのように
猛スピードで走り、谷底を突き破り、
またジェットコースターのように走る。
嘘ではない。車が谷底を、何かの膜のように
突き破ったのだ。
だが、そんなことよりも、俺は車のスピードに耐えきれず、
失神してしまった。
気がつくと、俺は怪我もせずに車の中にいた。