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異世界日本オムニバス  作者: ささかま
転移初期の群像
3/6

初接触

 様々な問題を孕みつつも、少なくとも内政の面では日本はなんとか前後不覚から立ち直り、次のアクションを撮り始める。

 第二の衝撃的な事件が起こったのは、そんな転移から20日ほどを経過したタイミングだった。

 事の起こりは、転移数日後から自衛軍ーーーこの頃は自衛隊と称していた組織が行っていた、全方位に向けての偵察である。


 転移前の2018年、おとなりの中華人民共和国、および中国に対する経済的依存を深めていた韓国では、上海発の金融危機から始まった大不況が吹き荒れていた。

 原因は当事者たちが情報統制を引いた上、転移後今となっては確かめようもない。過剰な土地投資と無秩序な地下経済の拡大、そして内需拡大の失敗等の原因が積み重なった結果ではないかと推測されている。

 結局のところ、バブルの崩壊は急速な経済成長を成し遂げた国が必ず掛かる麻疹のようなもので、中国はその巨体に比して貧弱な抵抗力しか持たなかった、ということになるだろう。


 日本も含めた世界各国はこの自爆とも言える不況に対して一斉に守りに入った。結果先進国の経済成長率は軒並み0%を下回るか否かのところまでまで落ち込みを見せるも、そこまででなんとか食い止めた。少なくとも経済学者の歴々はそう口を揃えたし、特に異論も出なかった。

 なにしろ自爆した当事者たちは、なんと通年でマイナス15%のGDP成長率を記録したのだから、異論が出ないのも当然と言えるだろう。株式市場は下落どころがほぼ全ての銘柄が連日底値を打った挙句、取引を無期停止した。

 当然民衆は不満をつのらせ、26億の怒れる瞳に怯えた指導者たちは伝統的な政策を打ち出した。

 外敵の脅威を煽って国内の団結だ。

 そして21世紀初頭から続いている伝統的な仮想敵として日本があった。


 程なく列島南部の離島地域で挑発的行動が、以前にも増して激しく行われた。

 本来中国の最も重要な政治的目標であった台湾への圧力も当然強化されたが、台湾は大陸の不況の煽りをもろに受けた結果反中国感情が史上最悪のレベルまで悪化していたので大きな動きになることはなかった。

 中国の思惑としてはこれを持って日本の政権基盤に悪影響を与え、日本側の譲歩を引き出すことだったが、経済危機を招いたことの悪感情もあって大多数の国民は政府に強気の対応を求める。

 これを受けて日本の態度は硬化、中国側も引くに引けず、ついには日本側の海上保安庁職員に殉職者を出す自体になる。

 両国の国民感情が最悪のものになるまでさほど時間はかからなかった。


 国際社会の反応は大きく2つにわかれた。傍観か、日本に対する援護かである。大体の先進国は、日本という世界経済の一つの重心がこの不況下でまかり間違って戦争になど突入すれば、破滅的な経済的損失を招くことが分かりきっていたので、こぞって日本側に立った。

 大国同士の戦争で利益が上がる時代などとうに過ぎ去っているのだ。例えるならば、グローバル経済という一人の人間の中で、胃と肝臓が争うようなものだった。


 第二次大戦後の列強である常任理事国は、まずアメリカが断固として同盟国を守ることを非常に強い口調で宣言。ジェラルド・R・フォード級原子力空母一隻を含む空母打撃群を第7艦隊に増派するとともに、在日米軍基地の海兵隊兵力を強化した。韓国が防衛線として使い物にならなくなって久しい中、日本を失うことはアジアにおけるプレゼンスが消滅することを意味しているだけに、アメリカは本気だった。

 イギリスもすぐにアメリカに追従した。経済が崩壊した中国市場に用はなかったし、EUから離脱して以降はアメリカに接近する向きを強めているので当然の動きだとすら言えた。

 フランスはアメリカとイギリスが賛成したので態度を保留しようとしたが、国際的な立場もあって中国を非難。

 ロシアも不況の煽りを受けて経済がガタガタであり、軍備を増強し始めた中国の圧力を嫌ったこともあり日本側に好意的な中立。

 無論のこと中国自身は日本側に全ての責任があると抗弁したが、外交的に孤立しているのは明らかだった。


 といっても、各国は中国と戦争をするつもりがあったわけではない。

 彼らの思惑としては、ここまで国際的旗色が明確になれば、最悪でも国境紛争レベルで片がつくという予測があったのだ。

 そもそもこのご時世に国家の総力を尽くした戦争など経済的な負担を考えれば甚だ困難であり、まして中国経済の末期的状態を鑑みれば長期間の戦争など何をか言わんや。勝とうが負けようが国家崩壊は不可避であった。

 短期戦であれば両国の経済は深刻な影響を受けず、程よい消費を喚起する。そして世界最強の米軍とその最高の補助組織である自衛隊を相手にして中国軍が勝利する可能性などあろうはずもない。

 あとは国際的責任を盾にして中国を外交的に屈服させ、市場を自分たちの都合のいいように再構築すれば良い。特にアメリカにおいてその傾向が顕著で、日本以上にやる気満々だったほどだ。

 しかし当事者の日本では、準戦時とすら言える状況下にあってすら盲目的に戦争反対を唱える勢力が国内で幅を利かせていた。都合の良いことに2年後には東京夏季オリンピックを控えていることもあって、ここで戦争を起こしては経済的損失は計り知れないという理屈には一定の説得力があった。

 一時は彼らの声に押されて日本側が折れる事態になりかけたほどだ。アメリカも自分たちの戦後政策を後悔したと言われている。

 これが一変したのは反戦運動で指導的な立場にあった野党の有力議員が中国関係者と深い関係を持ち、しかも不当な献金を受け取ったとのスクープが発覚してからだった。野党の支持率は急転直下の様相を見せ、その勢いをかって行われた解散総選挙において、野党は歴史的な大敗を喫した。言うまでもなく、国内ハト派の影響力は地に落ちた。

 関連法は矢継ぎ早に整備されていった。防衛省の予算は増額され、自衛隊をガチガチに縛っていた法は改正された。戦争をするつもりはなくても、出来る能力があることを示すのが重要だった。

 国際社会もそれを支持した。


 結局、日米の努力と中国側の政変により戦争は起こらなかったが、戦争以上の国難である転移に対しても十分に役立つものだった。非常時こそが働き時である公務員たち、その最たるものが自衛隊であったからだ。


 紛争が一旦落ち着いた後も大陸に向かっての警戒を怠っていなかった忠実な番犬は、突然の引っ越しに少し慌てながらも家主より早く冷静さを取り戻し、縄張りの状況把握に努めていた。

 日本を取り巻く環境は一変していた、というより変わっていないところがないほどだった。大陸も、半島も、北の油断ならない熊も消えた。同盟国も、日本を数回は滅ぼせる分の武器を山盛り残して消えていた。

 すぐにでも自分たちの目で詳細を確認しようとしたが、まずは政府の指示を仰がなければならない。

 幸い、政府も混乱を乗り越えて特措法を通過させ、その中で首相に付与された権限で持って、まずは周辺地域の調査が命じられた。

 東西南北それぞれに偵察機を出し、あるはずの陸地がないことを、あるいはないはずの陸地があることが確認されていった。


 北には2,000km程離れたところに巨大な陸地と、不確定だが人工物も確認され、さらなる詳細な調査を急ぐことになった。

 南はおよそ1400kmほど行ったところからかなり大きな島嶼地帯が発見された。が、ほぼすべての土地が巨大な森やジャングルに覆われており、人の痕跡を見つけることは出来なかった。

 東側には大海原が広がっているだけだったが、元々太平洋があったためこちらはある意味想定通りと言えた。

 期待を裏切ったのは西側で、そこには東側と変わらない青だけが広がる光景があった。世界一巨大な大陸でああったはずのユーラシア大陸は最後まで見つからなかった。

 本来であれば明らかに中国の領空に入っているため偵察を慎重に行っており、あまり深入りはしていないという事もあったが、少なくとも2,000kmまで大きな陸地が無いのは半ば確定的だった。


 そして何れの方面で行った偵察でも、海図に存在していない主規模な島が数多く発見された。何れも高空からでは人工物を発見することは出来なかったため、後々詳しい調査を行うということで一旦は捨て置かれた。

 しかしこれから予想される事実が問題であった。すなわち日本は、地球上とは別の場所に存在している可能性が限りなく高くなったということだ。天体にも異変があることを鑑みれば別の惑星であるという予想もいよいよ現実味が出てきてしまった。


 半ば分かっていたこととはいえ改めて現実を思い知った政府は、さらなる情報を求めて海自を中心とした任務部隊の編成・派遣を決定した。空と海とでは、得られる情報が望遠鏡と双眼鏡ほど違うのだ。

 この部隊は多数のヘリをDDH「ひゅうが」を含み、探索任務に特化した編成だった。ひゅうがを始めとしてやや旧式化した艦が多かったが、海図もない地域に出せる艦艇としては最大限努力した形だったろう。最新鋭出ないということは、逆に乗員の練度が高いということでもあるので、それが考慮されたかもしれない。

 また西部方面普通科連隊から抽出された部隊、及び特別警備隊が投入されたという話もあるので、上陸しての調査なども想定した派遣だったということだろう。

 この部隊は任務に際し様々な困難に遭遇し、それを乗り越えていったわけだが、その詳細については様々な書籍が取り上げているので本書では言及しない。


 転移に次ぐ第二の衝撃的な事件はこの部隊の分遣隊が、沖縄から3000km南下した位置、現在で言う黒毒島から500km程北の位置の探索を進めていた時に起こった。


 人間型知的生命体、「ホモ・サピエンスではない人類」との接触である。

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