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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おのれ悪役令嬢、貴様など信じられるか!

 乙女ゲーム。

 大抵は厳しい現実から目をそらす為のもの。有体に、いやざっくばらんに、もといぶっちゃければ安く上がるホストクラブみたいなものだと思うの。うん言い得て妙だと思うわけなのですよ、そこんとこどうなんです?

 まぁ穿った意見だとは思いますけど、でもそうとしか思えませんって。逆ハーなんて言われてますけどホント逆だと笑えませんって、結婚はまだいいとして出産どうするんですか、男一人と違って産むの主人公ちゃんですよ?いやまぁどっかの通説だったかなにかでアダム複数のイブ一人って人類進化学だかであったような…気がする。そこらへんも聞いてみたいけど、駄目?駄目ですかわかりました諦めます。


 そんなホストクラブ。

 物語としては面白いんですよね。よほどニッチな作品で無い限りはハッピーエンドですし、主人公ちゃんにとってはですけど。いえそう思ってもしかたないですって、粗探せばいくらでも出るものなんですから、細かい事はナイナイにするか寛容にスルーした方が楽しめますから。物語は頭空っぽにした方が楽しめるのです、これ大事。

 アンチ?それは否定しませんよ、明らかに失策が正当と押し切られると突っ込みたくもなるでしょうから。ただし特撮は別です、怪獣が火を噴くのはそういう器官をもってるから、この程度の理由で良いんです。進化とか被爆したからとか公害で~とかその程度でも良いんです、なんやかんやこんなこともあろうかとで解決されてもそういうものだと納得するのが特撮です。

 ほんと考えたらキリありませんよ?片手装備を両手に持っていつもより倍跳んで、更にいつもより3倍に回転してるから12倍の威力!とか、あこれは普通に納得できることでした。んー…。じゃあベストを破ってペンキに突っ込んだら丈が長くなったとかはどうでしょう?すごいですよねアレ、普通にきになりませんでしたもの。むしろ相手は体格よりもべたべた触ったんだから手のペンキに気付けって話ですけど、ああ話それてますね。


 何の話でしたっけ?

 そうそう乙女ゲームでした。たぶんですけど自己投影しやすいんじゃないかなと、主人公やたら可愛くなってますけどそこらもこうだったら良いなって希望でしょうし。悪役令嬢とかも相手が酷いから蹴落としても、表現悪いですね、主人公ちゃんと恋人になった方が幸せになれますよーって大義名分ができますから。これとても大事。

 とっかえひっかえも相手が幸せになるんですよーって思えるように相手にトラウマなり悲惨な過去なり仕込んでるんでしょうから、ともかく主人公ちゃんに都合の良い、もとい有利な状況があるわけです。もっとも乙女ゲーという特性上動くのが主人公ちゃんだけだから有利なんでしょうけど。これオンゲーだったら阿鼻叫喚になりそうですよね?正にホストクラブみたいに課金で毟られそうですけど。夢が無い?えぇまぁ現実を盛り込むと夢なんて入りませんよ、笑い話にはなると思いますけど。


 あーそれで言っていた乙女ゲームに繋がるんですか。

 それは確かにあの乙女ゲームは夢なんてほとんどないですよね、リアルでもありませんけど、いや昔ならありえたかな?内容やたらコミカルでシュールでしたからねー、理不尽に不条理にさくっと攻略対象がお亡くなりになりましたし、ギャグ時空でもなかったので生き返りませんでしたけど。

 途中から乙女ゲームじゃなくて推理ゲームになっていたような?でも細かい推理なんて飛ばして貴女が悪役だから犯人なんです!簡単論破!!になってましたねー。うん、これ推理ゲーム違う。開発は何を目指したかったのか…。

 え?それこそアンチだったんじゃって…確かにそうかも。あれ従来のに慣れてる人だと胸掻き毟りたくなるか壁に頭打ち付けたくなるかですもんね、プレイヤーをアンチ対象ってとことんまで挑戦的な開発とかいやだなぁ。まぁその分秀逸なギャグになってて楽しかったですけど。えぇ楽しめましたとも、主人公ちゃんが古典的な道化役でしたから。目上コロッコロして真実の愛は正義なんですとか不条理で笑えましたよ、それもただの正義ではありません、大正義なんです!(ドヤァ、ですからね。開発も高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にしすぎですよ、乙女ゲーム開闢以来の壮挙過ぎる。


 それで本題は、なんとなく予想できますけど。

 やっぱり転生ですかぁ…。結構生き辛いですよあの世界観、特典とかは?なしですか、記憶保持が特典といえばそうなんでしょうけど現代人で馴染めますかね。そこは頑張れって、また無茶をおっしゃる。うわぁ、あの世界観だとほんとに笑えない、見てる分には笑えたんですけど生きるとなると辛い。

 YOU逆ハー狙っちゃいなYO!って死ねと?死にますよ、あの悪役令嬢はほんと危険ですって。開発お墨付きの義理1謀略系お嬢様ですよ?ストーリーで王子死んだときは素で吹きましたよ、普通は殺さないだろって突っ込みましたとも狙うのは主人公ちゃんだろ!?って。動機も明かされず断罪されてましたし謎なままなんて怖くて仕方ないですよ、本気で別の所にして欲しいのですが、あ駄目ですか。

 はぁ…わかりました受けさせてもらいます、なんとか頑張って生き易いようにできれば、良いなぁ。



 ………。



 過去の、転生時の私、今ならそれが例え自分であったとしても殺したい。

 くっ、何故やめてじぶんころし!なんて状況に追い込まれたんでしょうか。少なからず私にも責はあるのでしょうけどここまで酷い状況に追い込まれるいわれは、あるかな?ありそう、だって主人公ちゃんが私なのですから。うわぁ、狙わなくても巻き込まれやすい位置、むしろ周りから狙われやすい位置。こんな学園なんてきたくなかったのに法律相手では分が悪すぎます。悔やむな私、今はなんとしても生き延びることを前提に行動しないと、そうしないと不幸な出来事でサヨナラしかねないです。

 そう、だから私は今日も生きる為敵地に乗り込む…。


「あら、マグダレナ。いらっしゃい」

「ごきげんよう、お姉さま」

「さ、座って。ふふ昨日良い茶葉を得ましたのでお茶を…」

「い り ま せ ん !」

「そんなに強く断るなんて酷いわ、可愛い妹にお茶を振舞おうとしただけなのに。何故かしら?」


 それ聞くんですか?

 まさか自分がどう思われてるか知らないとか、ないね!だってこんなにも目が怖い、蛇に睨まれたーとか例えるまでも無く温度の感じない目、まるで実験対象を見るような目。転生者なのは聞いたことがありますけど本当に私と同じ時代からでしょうか?あとゲームでは無かったミドルネームが不安を煽ります、なにがどうしてそんな名が。

 メイドさん達も怖い。アレは忠実な猟犬と狩人を合わせたような人種、何か無礼を働けば直ちに執行しかねない処刑人。分かり辛くしてますが確実に暗器仕込んでますよね?見え辛いですけど服のいたる所にスリット入ってますから取り出し口のはず。リボンが動いても型崩れしてないのはワイヤーではなく暗器としての針だと思います、あの長さなら横隔膜刺したりといろいろな所にプスっといけるはず、まぁそこまで分かりやすい殺し方はしないのでしょうけど。でなければお姉さまの叔母君方々全てが嫁いだ先で当主が怪死とかありえないですし。そして何故か領地が全てお姉さまのご実家に組み込まれてます、領地が現当主の代で倍になったとか恐怖ですよ、さらに叔母君方々全て責任を感じて自害なさっているのがますます怖い。絶対なにか裏があるに決まっているはずなのですが、それでも証拠が出てこない不具合、どうしてでしょうか。

 あぁまずい思考飛ばしてないで答えないと。理由話しても死なないですよね?もぅいいや言っちゃえ!


「お姉さまのお茶は危険です」

「良いお茶よ?」

「お茶?毒を混ぜてるとしか、むしろ毒とした思えないのですが、それとも呪いですか?血を吐いて死に至り、幻覚幻聴の悩まされて自害。あぁ肌が黒くなったり青くなったりで悶死したときもありました。やっぱ毒ですよね」

「混ぜてないわ。折角のお茶にそのようなことするはずもないでしょう?」

「本当ですか?」

「えぇ、もちろんよ」

「ではその黒い粉、ぼかすの止めます。その火薬の詰まった茶釜はなんでしょうか?」

「火薬な訳がないでしょう、これは保護剤よ」

「火薬で「保護剤よ?」ハイ、ホゴザイデス、オネエサマ…」


 目ぇ怖っ!?

 もうやだメゲたくなってきました、メゲたら楽になれ…死にたくないです!なんとしても生きて生きて今度こそ大往生、もとい幸せな結婚したいです、そのためにも生きなければ。相手は普通の方が良いです、見た目から普通の方が特に良いです。非凡だと疲れますから、貴族社会ですと大抵は見た目からして非凡なんですよね、血統主義ですからそうなるのはわかりますけど。いっそ辺境貴族のお嫁さんなんてありかも、それもなるべく国境線がない辺境の、うん素敵な考えかも。少々貧しくても庶民育ちの私からすれば問題ありませんし、不幸中の幸いかこの体は主人公ちゃん、魔法を駆使すればそこそこ豊かに暮らせるはずです。

 さてそうなると問題はお姉さまと腐れ貴族、もとい貴族のお坊ちゃま方。あれらをどうにかして。

 あれ?特に何もしなくても居なくなりそうな気がします、原因としてはお姉さまが主で。何と言ってもお姉さまの噂を聞きつけ私を心配したのか宮廷魔法局長子息が秘密を暴こうとし、そして怪死しました。それも警備の厳重な魔法の使えない生徒寮の自室で。密室となっていて薬物反応が無いにも関わらず錯乱したかのように自ら顔や首を手で掻き毟りそれが原因で死に至ったとの公式見解。あからさまですが自殺の動機は未だ不明、疑わしいお姉さまが何らかの手段を講じていたとしてもどうやったかなんてさっぱりです、主人公ちゃんはもしかして二進も三進も行かずあのような暴挙にでたのでしょうか…。


「ローラお嬢様、またマグダレナ様が思索の深みに嵌っております」

「ふふふ、見ていて飽きないわ。このまま部屋に飾れたらどれだけ素敵なことかしら」

「手段を講じておきます」

「お願いね?」


 なんか物騒な会話が聞こえたかも、しれないです。

 あーでも本当にあのお坊ちゃん方をどうにかしないと。殿下に嫁いだら後宮で籠の鳥ですし、自由なんてありはしません、出産ですら国の道具扱いでしょうし幸せには程遠い。騎士団長子息ですとこれまた出産の道具扱い、むしろ殆んどの中央貴族ではこうなりそうな?やっぱり穏やかな地方に嫁ぐべきですね、私の魔力量や魔法適正と錬度であれば庶民出だとしても歓迎されるはずです。

 何故か周りが騒がしい気がしますがそれどころでは、そう私の将来がかかっているのです瑣事には関わっていられません。どこかに穏やかでのほほんとした適齢期の貴族様はいないでしょうか?浪費癖が無く家臣の言うことを良く聞いて判断し仕事を任せ、趣味も読書とか園芸とかそういったたおやかな方なら尚良しです、正に私が望む超優良物件。高望みしすぎでしょうか…。


「マグダレナ、何度言えば分かるのだ、此処に来てはいけないと…マグダレナ?何故返事をしてくれないのだ、どうしたのだ!?ラ・シュエット、貴様またしてもマグダレナを!」

「それは言いがかりというものですわ。ただ私はマグダレナとお茶を楽しんでいるだけです。見ての通り楽しんでいますわ、ええスールであれば当然の事かと。で、あれば。先触れも出さず乗り込まれたムエット様に何を非難されることがありましょうや」

「おのれ、おのれ!ラ・シュエット!貴様!!」

「どうかなさいましたか?ムエット様」

「白々しい、貴様マグダレナに何をした!?」

「…え?私の話!?お待ちくださいルノー様!お姉さまはただ私とお話をしていただけです」

「マグダレナ、良く聞くのだ」


 何を?あぁ、また何時ものお小言?

 お姉さまを警戒するのは分かりますけど離れていれば安全とはいなないのですけど、むしろ離れている方が不安です、傍に居ればある程度事前に察知できますし対応策も増えるのですが。聞かないでしょうね、この方。どうしてこういった騎士然とした方はご自分の価値観だけで物事を考えるのでしょう。そう言う考え方、生き方は強者の特権ですよね、弱者には無理な生き方なのですけど分かってくれそうにありません。庶民は強者と言う災害を必死になって耐えるだけ、下手に逆らえば本当に虫けら同然に潰されます、ひっそりと倒木の陰で生きるのがお似合いなんです。できれば幸運に恵まれたいと思ってはいますけど。


「例えこの毒婦がスールだとして、呼ばれたにしても行くなと言っておいたはずだ」

「私の意志で参りましたが」

「…真か?」

「はい。私の意志で参り、そしてお話をさせていただいております」

「先ほど意識を飛ばしていたようだが…」

「飛ばしておりませんが」

「何故だ、何故なのだマグダレナ」

「ご理解いただけましたか?ムエット様。スールの語らいに水を差すなど紳士のなさることでは、まして剣を佩いて乗り込まれるなど何をお考えで?」

「お姉さま、どうか今回のことは」

「あら。ふふふ、そうですわねマグダレナのお願いとあっては無碍にもできませんし」

「くっ…!」


 うわぁ、これは酷い当て付け。

 扇子で口元を隠して冷たい目で流し目が似合いますね、まさにルノーさまが言うとおり毒婦。あぁこのまま弄ってしまいそう、凄惨な現場は見たくないですなんとかしないと。アイコンタクトでお姉さまに通じるでしょうか。そっと見て…怖っ!?え、その三日月のような笑みはなんでしょうか、艶かしい唇を這う舌はいったい。よしましょうこの先を考えると幸せになりそうにありません、ルノー様どうぞ私の幸せの為犠牲となってください。


「今、とてもとても幸せな気分ですわ。くふふ、それでムエット様。今回のご用件は」

「マグダレナを…」

「えぇ私の愛いスール、マグダレナを?」

「おのれラ・シュエット…。くっ、鹿狩りに誘いにきたのだ!」

「そうですの」


 …鹿狩りは、まずいです。

 なんで私は何もしてないのに死亡フラグが勝手にやってくるの!?これが神の、いえ乙女ゲームの意思とでも言うのですか。お姉さまが関係しますと鹿狩りは正に鬼門、うっかりとか間違えてとかで射殺されること請け合いです。勢子の配置や狩りの区分けでなにかしらのミスが発生しそうで怖い、あきらかに事故にしか見えない謀略っぽい出来事が起きそうで怖いです、お家芸と自慢して良いほど芸術的な謀殺にさらされそうです。もっとも証拠は例の如く出ないでしょうが。

 なのでここはきっぱりさっぱり理由をでっちあげてお断りをしないと…。


「ルノー様、申し訳ありませんが鹿狩りにはお付き合い致しかねます」

「何故だ」

「鹿狩りは遊戯としてだけでなく戦場の模擬と聞き及んでおります、その場に私のような者が居てはお歴々方に顰蹙をかいましょう。淑女の倣いといたしまして、ここは待つ事とさせていただきたく」

「そうか。確かに腕を見せたいと思ったがそこまで考えが至らなかった、よく言ってくれたマグダレナ」

「過分なお言葉、ありがたく」

「では私は行くとしよう。あまり長居せず戻るのだぞ。それと鹿狩りの話を土産として持ち帰る、楽しみにしていてくれ」

「はい」


 さっさと行ってください、私の胃にこれ以上ダメージを与えないでください。

 私とだけならまだ対応出来ていると思いますが、思いたいですが、他の方が絡むと手に負えません。どうか私の安寧と幸せの為関わってこないでほしいです。ほら見てくださいよお姉さまの顔、心底楽しそうにくつくつ笑ってます。いえこれは見せられない笑顔ですよね、ありえないくらい怖い笑顔です。

 あぁあぁ瞳孔開ききっちゃってますよ、なにあれすっごく怖いです。予想するにルノー様を攻め立てて追い立てるのでしょう。聞きたくないですよぅ…。


「お遊戯での張り切り様はさぞマグダレナへの土産となりましょう、勢子とは言え上前を撥ねるが如く有様は世を風刺する歌劇に勝る出来、伝え聞くのを楽しみにしておりますわ。ふふ、戦場でも手柄を奪うなどしないようしっかり学んでくるとよろしいかと、聞き学ぶことは何も恥ではありませんもの。では御機嫌よう、ムエット様」

「貴様などにっ…!失礼する!!」

「あっ」


 うわぁこれは酷い。

 もう忘れて、むしろ自棄になってお茶を楽しむとしましょう。毒を食らわば皿までです!自分で入れれば後は茶葉や茶器次第、少しは確立が下がってくれるはずです。


「お姉さま、茶器を貸していただけますか?」

「あら、マグダレナが入れてくれるの」

「手習い程度ですがお姉さまと楽しみたくて、駄目でしょうか…」

「いいえ、とても嬉しいわ。ふふふ、毎日練習していたのはこのためだったのね?」

「…」


 何 故 知 っ て る し !?



 ………。



 ルノー様がお亡くなりになりました。

 予想通りに区分けでミスがあったそうです。そして鹿と勘違いした勢子の追いたてに反応し動いたのを射られてあえなく。なんてお粗末な死に方なんでしょう、これでは騎士団長とて息子の不甲斐無さに怒り心頭ですね、あまりにも酷い。

 ミスは伝え聞いた限り区分けの伝達不備、並びに見取り図の縮尺の不具合、それとルノー様の不慣れと怒りに任せて意気込みすぎたのが原因。お姉さまが煽りに煽りましたからね、それはもぅ血気盛んに突き進んだようです。あぁそうですホラー映画で開始早々に死ぬ不良っぽいのと同じような気が。迷信だろやら俺が暴いてやら良いながらサクッと死んでしまうキャラ、良い配役ですねはまり役と言えます。

 さて、今日も生きる為敵地に乗り込むとしましょう…。


「あら、マグダレナ。いらっしゃい」

「ごきげんよう、お姉さま」

「さ、座って。ふふ今朝良いお菓子を得ましたのでお茶を…」

「い り ま せ ん !」

「そんなに強く断るなんて酷いわ。ああ、もしかしたら今日もマグダレナがお茶を淹れてくれるのかしら?」


 おぉうどうしてそうなったのでしょう。

 やはり生きるためとはいえ茶坊主よろしく立ち回ったのが失敗だったのでしょうか?でもお姉さまはお茶をこよなく愛するから問題ないと思いますけど。お姉さまの実の姉君が嫁いだ先で当主が毒殺と思われる亡くなり方をしたとしても、それがお姉さまの送った茶葉が原因と考えられていても、どう調べても薬物反応や魔力反応が出なかったにも関わらず怪死したとしても、ついでにもはや通例と言っても過言ではなく姉君が責任を感じて自害したとしても、お茶は好きなはず!強いものには巻かれて生き汚く足掻くのが庶民に出来る最後の防衛術、私はまだ死にたくないのです。

 ちなみにその領地は経営の難しさと地勢からシュエット家に委ねられ今は大変発展しています、マジおっかないです。他にもお姉さまが関係したと思われる事柄で元から広かった領地が倍になったとか怖すぎて泣きそう。なぜ王室や宮廷は放置しているのでしょう、あからさまですし実害も…税収が上がってるのでもしかして黙認?まさかですよねぇ?あれ、本当にありえそうです。無能が減り治安や経済が安定するのであれば良い事に思えてきました。だとしたら陛下はエグイ手を使っていますね。

 これが真相だとしますと、あのお坊ちゃん殿下は確実に標的となるはずです。私に何故か言い寄ってお姉さまと対立していますし、そろそろ変死したとしても不思議ではありません。ついでとばかりに妹君である姫殿下は比べるのも馬鹿らしくなるほど出来た方ですし野心や虚栄心の少ない方を王配として迎えれば八方丸く収まるような?おぉっとこれは事案です、巻き込まれないように立ち回らないと…。


「ローラお嬢様、またマグダレナ様が思索の深みに嵌っております」

「ふふふ、見ていて飽きないわ。磨けば才覚も申し分なしとなれば、なんとしてでも手に入れないと」

「状況はローラお嬢様の筋書き通り確実に整ってきております」

「それは楽しみね」


 なんか陰惨な会話が聞こえたかも、しれないです。

 いえ、それどころではないです。何としてでも殿下のお亡くなりになるであろう時期には保身に立ち回らないと巻き込まれます。ここはいっそのこと被害者の立ち居地を手に入れて同情票を集めて凌ぐ?結構良い案のような気が、それに出来そうなレベルにあるのが助かります。特に私のような庶民が王族や貴族に言い寄られ断ることも難しい状況に追い込まれ見世物晒し者の連続、実際良識的な方々には便宜を図ってもらっていますから上手く事を運べば収まれそうですね、健気に下手に立ち回ってきたのがここで役に立ちそう。しかし周りがなにやら騒がしいような気が、でも気にしている場合では。そう、今後の事を考えないと。考えて…。

 くひひ、ありがたいことに運気が上向いてきたみたいです。怖い怖いお姉さまはこのまま従順な妹として、そして敵対するであろう無能連中の失策を招く餌として役立てばそれなりの信を得られるはず。そうなれば最大の敵がもっとも隠れやすい最大の庇護者に変わります。

 あぁ私の安寧の日々が見えてきました、残るは小寄せ、最後まで読みきれば私の勝ちです!なんとしてでも読みきらないと…。


「マグダレナ、どうしてこの場に、此処はこの憎き梟雄が輩…マグダレナ?何故返事をせぬ、何故だっ!?シュエット、貴様まさかマグダレナをも!」

「それは言いがかりというものですわ。ただ私はマグダレナとお茶を楽しんでいるだけです。見ての通り楽しんでいますわ、ええ愛し合うスールであれば当然の事かと。ふふふ、ただ見つめあうだけでも幸せになれますの。なれば先触れも出さず乗り込まれた懸想もされぬ殿下に何を非難されることがありましょうか」

「おのれ言わせておけば、おのれぇ!我が妃に相応しきマグダレナが貴様如きと愛し合う等と」

「至極当然である事をさも一大事の様に。それがどうかなさいましたか?殿下」

「忌々しい梟雄めが、白々しい!貴様マグダレナに何をした!?」

「…え?またこの流れ!?お待ちください殿下!お姉さまはただ私と仲睦まじく逢瀬を…」

「なんと言うことだ…。聞け、マグダレナ」


 何を?あぁまたスタイリッシュ自殺までのプロセスですか?

 これで私の幸せ計画を邪魔する方がまた一人脱落してくれますね、本当に邪魔で仕方なかったのですよ。庶民が王族と結婚して幸せになれるはずもないと言うのに、それなのに相手のことなどお構いなしに言い寄るとか色々と終わっています、この体たらくでは世継ぎには到底到底。早急に排除されるようここらで失着を引き出すとしましょう、私の幸せの為に。

 くひっ、喜んでくださいね、殿下。殿下の狂乱や醜態が濃い闇となれば姫殿下の聡明さは光を増します。そして比べられた貴方の名は千年の後まで、そして万巻の書に暗愚と記されるでしょうから。歴史に名を残すのは早々できることではありません、良きにしろ悪しきにしろ、ですけど。


「そこの梟雄は国を蚕食する輩。それを何故だ!何を間違えれば逢瀬などと!!」

「何故と申されましても。お姉さまは心根清く虚栄を排され誠実であり、佞言に惑わされず津々浦々の評判を糧とし、ただ血統のみを評価の対象とせず野に遺賢をなからしめ、汚濁とも言える中央貴族の悪政を雪げる方でございますれば」

「中央貴族が汚濁だと!?それに梟雄が輩が雪ぐなど。馬鹿な、噂であればそのような輩では…」

「御身の耳に入りますは聞きたいと思うことのみ、都合の良い噂のみを信じますればそう聞こえましょう」

「だが事実として」

「噂一つでも事実を確認し検証なさったのであれば申しません」

「マグダレナの言、お聞きになられましたか?殿下。今まで私は婚約者として、臣として忠言苦言を申しておりましたわ。ですが殿下は楽に逃げ色に狂い惰弱に育つばかり」


 来た、メイン謀将来た、これで勝つるのです!

 トラップカードオープンで謀将発動、殿下は政治の場や終の墓地から除外ですね、また一つ私の不幸が消えてくれます。あぁ殿下の顔が絶望に歪んでます、ぐにゃぁってます、これは良い愉悦。これで私はまた幸せに一歩近づき、国もまた復興への道を歩むでしょうね、私ってば憂国の士ね!上手いこと評価も高まれば同情と相まってお婿さんも選びやすくなりそうですし助かります。それではお姉さまに合わせて人間賛歌チックな言葉遊びで畳み掛けますか。


「事此処に至っては陛下に奏上し改善を願うばかり」

「父上までも貶めるつもりか!!」

「陛下を貶めるもなにも、陛下のみならず国の威信までもを貶めたのは殿下ではございませんこと?」

「お姉さま、私は悔やみきれません。庶民でしかなかった身では殿下を御諌めする事など不可能だったのでしょうか?国を思う志は上下関係なく聞き入れてもらえると思っていたのです…」

「そうね、マグダレナ。本来であればそうなってしかるべきなのでしょう」

「違う、違うのだマグダレナ!!」

「ですが殿下はとうに志を捨ててしまわれたご様子、最早如何なる言葉をもってしても聞き入れてもらえないわ。貴女には辛い思いをさせてしまったわね、私が良かれと思って道を説いたばかりに、気になっている貴女の言葉であれば届くと頼んでしまったのが、甘かったのでしょうね。ごめんなさい…マグダレナ」

「お姉さま…」


 もぅちょっとでしょうか?

 そろそろ殿下にトドメを、もとい引導、違います退室を要求してほしいです。見てくれだけの男性なんて酷いものですね、中身が伴わないと酷く滑稽に思えます。いくら現実になろうとも乙女ゲームの補正があってはこの程度なんでしょう、くたばれプランスです!最良の専制政治にでもならなければ最悪の民主制の方がマシですから!25%の支持を得られれば与党とか笑うしかない状態でもマシと思えますから!!あれ、もしかして私結構社会派でしょうか?

 あとは出会って早々からの迷惑を考えて後の幸せは慰謝料としてもらうとしましょう、攻略キャラは私の幸せの犠牲になったのです、幸せの犠牲に。


「これ以上は更にマグダレナを悲しませるだけですわね。殿下、お引取りを願います」

「何故、だ」

「話にならないからですわ。早々にお引取りを」

「マグダレナ、嘘だと言ってくれ。こんなことはありえないと。我は王位を継ぎ愛したソナタを妃に迎えようと」

「殿下に愛などございませんでした。ただ、言いなりになる女を、耳障り良く囀る女を、世継ぎを産ませる道具をご所望だっただけのこと。庶民とて意地があります、王族貴族でなくとも私は、私たちは人なのです!ただ数字で数えられる存在でもなく、ましてや奴隷でもなく、道具と虐げられようと必死に生きている!!」

「…我は」

「お引取りを。これ以上はマグダレナの為にも」

「此度は、引こう」

「お見送りはいたしませんわ」

「構わぬ。ただマグダレナの慰めを願う」

「お受けいたします」


 …勝った、ですよね?

 来た見た勝ったとは行きませんでしたが凌ぎましたよ。流石は信頼のお姉さまクオリティーです、あそこまでやり込められるとは凄いです憧れちゃいます、格好良い。ふひひ、殿下もこれでなにかしらの不幸に見舞われて退場です。気分良いですね、スカッと爽やかですよ、今後の学園生活は大層楽に過ごせそうです。

 ではお姉さまに媚売るとしましょう。


「お姉さま、茶器を貸していただけますか?」

「マグダレナ、今は…」

「いえ、何かをしていたいのです。それにお姉さまの心も傷ついているでしょうから、せめて私だけでもと」

「優しいのね、とても」


 保身が主ですから自分にはとても優しくしていますよ。



 ………。



 殿下が自裁しました。

 予想通りに姫殿下が世継ぎに決定ですね。これで国は安泰です、国が荒れてては幸せには届きませんから良い感じで仕上がったのは万々歳ですよ。私の評価も憂国の士として高まっていますね、普通であれば不敬罪で極刑ですから、それを覚悟までして御諌めしたと良識ある貴族から喝采を受けています。少しは婚活に補正がかかるでしょうか?今回の件は陛下の署名付きで発表されていますし、お姉さまや私の名前も書かれていましたから十分有利に働いてくれそう?うん、いけるはず。

 これで後はお姉さまの卒業と、その翌年の私自身の卒業後即結婚で計画完了です。学園に入れられてから早7年、あと2年である程度の自由が再び手中に収まります。長かったですね、特にお貴族様の問題に巻き込まれてからが酷く長く感じました。特に厳しかったのがスール制度、これで何故かお姉さまに即囚われて、止そう思い出すのは。

 では、今日も生きる為敵地に乗り込むとしましょう…。


「あら、マグダレナ。いらっしゃい」

「ごきげんよう、お姉さま」

「さ、座って。ふふ今日は気分が良いからお茶を振る舞いますわ…」

「い り ま せ ん !」

「そんなに強く断るなんて酷いわ、愛する妹にお茶を振舞おうとしただけなのに」


 マジで危険が危ないです。

 この謀殺系公爵令嬢はまだ私の命を狙っているの?殿下も死んだ、馬鹿なお坊ちゃん貴族達も死に絶えた、それなのに何故私がいまだに?お姉さまは転生者で梟雄ですけどたぶん、きっと、スポーツ飲料の果汁並に含有量低いでしょうが優しさも持ち合わせているはず、ですよね?ですから阿呆連中を毒殺射殺謀殺暗殺してきたのでしょうから。


「これ以上私を狙う必要性は…。ありません、よね?」

「ふふふ、あるかもしれないわよ?」

「…声に出てました?」

「ええ、しっかりと出ていたわ」

「どこから」

「これ以上は、というところから。もっともそれ以前も、更に言えば出会った当初から考えは透けて見えていましたわ。とてもとても、私好みですわね。その自分本位のあり方。他者を計画的に、それも悟らせることなく利用し使い捨てる性根。病的なまでの臆病さも、切り捨てる時期の見極めも、隙間を埋めて取り入る手段も、そのどれもが素敵。信頼できる仲間も居ずに、それでも尚諦めず生に執着して進む気概、賞賛に値しますわ。だからこそ私はマグダレナを狙っているのですわ」


 ばれてた!?


「それってつまり私の寿命がストレスホッハで危険域?」

「勘違いしているわよ?マグダレナ」

「なん、ですって?」

「貴女の存在を認めているからこそ狙うのよ」

「変わって、ないと思います」

「マグダレナと言う存在。本来のマグダレナではなく転生者としてのマグダレナ、そう貴女。諦めもしない、挫けもしない、省みない悔やまない悪びれない、それが私の生き方だと開き直る。こんな存在、私が狙わないとでもおもっているのかしら?」

「それってつまりライバル的な…」

「シュエット家の、いえ私の傍に飾るとしますわ」

「もしかして…」


 これは戦利品とかと同じ扱いでしょうか?

 まさか生き汚く足掻いていたのが琴線にふれるとは思いませんでした、予想外ですよこれ。降した相手を飾るとか猟奇的です、コレクションガチャじゃないのですから、本気でやめてほしいです。うわぁ、どうしよう分かってて今まで放置してたのは育つの待ってたから?どれだけ謀略に餓えてるのですか、転生者でこれってそうとう壊れてますよ、前世は上手く社会に溶け込めていた、はずはなし!無理ですよ溶け込めるとは思えません、明らかに仕手戦したり貸し金で毟り取ったり陥れたりしてそうですから!!

 うわぁああああああああああ、どうしよう!?


「お姉さま、どうか命ばかりは…」

「そう、なら」

「出来る限りのことはします、どうか、なにとぞ」

「なら今日からマグダレナは私の恋人ね」

「…」

「卒業後は私の妻ね」

「…?」

「これから一生をかけて愛し合いましょう?私のマグダレナ」

「…え?」


 え?それなんて百合ゲー。

 入学早々スールになったのは一目ぼれで、立場が主人公ちゃんとか関係なしで。

 今まで狙われてたと感じたのは恋してたり愛してたりで、殺してたのは独占したかったからで。

 妙に優しかったり構ってきたのは真っ当な意味で、もしかしたら告白してほしかったからで。

 そっかぁ、そうでしたかぁ。くひひ、私の乙女チカラをもってしても見抜けませんでした…。


 …。


 な ん で す と !?

先ずは酷い内容ながらここまで読んでいただいた方に感謝を。楽しんでいただけたでしょうか。

またしても乙女ゲームとタグ打ちながらのコレジャナイ感、自分でもこれはなかろうもんと納得している内容です。最初はまともな内容になるかと思ったのですがね、ほんとどうしてこうなった。やっぱり悪役令嬢のモデルが宇喜多直家や松永久秀では仕方ないのでしょうか?

それと思いついたネタをあらかた突っ込んだ関係か文字数が余裕の1万超え、短編だとしてもこれはちょっと長すぎるかも。実はあと2~3人作中で殺そうと思ってたのですが1人目の時点で文字数みてこりゃいかんと思い過去の事としました、してなかったら2万超えたんでしょうね。


今回は作品ジャンルを選ぶ際にかなり悩みました、っが悩んだ結果コメディーを選ぶという暴挙にでましたがこれでよかったのでしょうか。前回はしっかりコメディーできたと思っていますが今回はね、ちょっとね。


最後に。

ここで言うのもなんですが前作に評価、並びにブックマーク登録されたかたへ感謝を。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 3~4話でフルバージョン出してくれません?
[一言] 乙女(が愛し合う)ゲーム うむ、嘘は言ってないですなw
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