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小さな箱  作者: さわゆき
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「おい、着いたぞ。大丈夫か? 」


顔中がべっとりしている。手が熱い。何だろう。

何かが頭の奥から突き上げる。

オレは車から飛び降り走り出していた。

突き上げる思いのまま走り

その戸を叩きつけた。


「どうしました? こんな時間に…」


相変わらずこの男はオレを見てビクビクしている。

怯えて目を逸らす。


「夜遅くにすみません。どうしても確かめたい事があって…。

ミキオに会ったことありますよね? 」


「えっ? ええ、去年の春先にお墓参りに来たと。

まさか、あの後、あんな事になるなんて…

本当に…なんと言ったらいいか」


「オレを見てずっと怯えていますよね? どうして? 」


「…す…すみません。本当によく似ている。

顔だけでなく雰囲気や髪型まで…

どうしてそこまで同じようにしている?

そこまですると怖くて、気味が悪い! 」


声が上ずって、段々とイラついていくのが分った。


「母さんが壊れるからだよ!

あの日のミキオのままでいないと、

母さんの時間はあの日の朝のままだ。

お前、どうしてあの日のミキオを知っている! 」


「だから、墓参りに来た時に会ったと言ったでしょう! 」


「墓参りの時、ミキオはまだ黒い髪だった。

どうしてあの日のミキオと同じ髪のオレに怯える! 」


「 ! …ニュースで流れていた。

毎日、毎日、ひと月以上…だから顔は覚えた」


ブッと自分がキレたのが分った。


「そう、毎日、毎日、オレ達家族は晒者だった。

でも、ニュースに流れていたのはミキオの高校生の写真。

校則通りの黒い髪の写真。

この髪の色のミキオの写真はあの傷だらけの写真だけだよ。

お前、あの日、ミキオに会ったよな?

目を逸らすなよ! 答えろ! 」


「…てっきり見られたと思った。

火を点けたところを…。

それで…確かめに行った。

…でも…思い過ごしだった。

そうしたらあの小僧、警察に行け、とか偉そうに…。

だから…脅して黙らせることにした。

しかし、本当にムカつく、どうしてオレばっかりが貧乏くじを引くんだ。

悪いのはお前らだ。

だから、火を点けたんだよ」


釣りあがった目でオレを睨んだ。

もう、怯えていない。

血走った、アイツらと同じ色が体から飛び出している。


「何? 訳わかんないこと 」


「お前等のジィさんだよ! 

お前等のジィさんの所為でバアちゃんは土地を追われたんだよ。

それなのに母親はそんな事言うなって。

馬鹿じゃねーの。

だからオレがバアちゃんの恨み晴らしてやろうと思った。

そうだよ! オレがあの小僧を殺したんだよ」



笑える。

こんな時に何でオレの中身なかは冷めている? 

リプレイしたら思った通り襲ってきた。

そうか、祖父ちゃんだな? 

オレの中身なかに居るの。


「ばーか、これ警察に繋がっているよ。聞こえないの? 外の音」


ハヤシは動きを一瞬止めると手に持っていたカマを投げつけて

転がりながら車を走らせて行った。

まただ。声がする。


「トキオ、大丈夫か? 」


「ショウさん? 」


ショウさんは後を追って来てくれたみたいだ。

カマを掴んだ手から血が流れている。


「気持ち悪い…」


「ふう、ムチャクチャしやがって…」


車に揺られながら意識が遠くなった。


目が覚めるとお祖母ちゃんが顔を覗き込んだ。


「もう大丈夫、全部終わったよ」


体がだるい。

そこへショウさんが障子から顔を出した。


「アイツと親父さん達にも連絡があったらしい」


起き上がろうとした体をショウさんが制した。


「傷はたいしたことないらしいけど

今、動かしたらアイツに何言われるかわからんからな」


そしてあの後のことを教えてくれた。



あの後、逃げた車が木に突っ込んだらしいが命に別状は無いと言った。

父さんはあの日の事を何度も警察で話したから覚えていた。

冷蔵庫にオレとの約束が貼ってあった。

おそらく母さんがそれをあの男に教えて、そして…。

車をぶつけた後、血とガラスまみれの顔で半狂乱になり

『 子供が子供が 』

と叫んでいたらしい。

ハヤシの家の仏壇に黒い小さな木箱があったらしい。

そして中に誰かの髪の毛が入っていた。

誰のモノかは警察で調べると言ってきた。



お祖母ちゃんが人を見る目が無かったと嘆いている。

そして、アイツの母親の家のことを話し始めた。


オレの祖父ちゃんには親の決めた許嫁がいた。

でも祖父ちゃんは親の決めた許嫁よりオレの祖母ちゃんを選んだ。

それで土地ここを出た。

その頃はそういうことのあった女の人は肩身の狭い目にあう。

そして、その頃の戦後の農地解放とやらでその家は土地を手放し

ここから出て行った。

土地を出たその家がどうなって、女の人がどう生きていたのかは知らないが

リュウちゃんが生まれる前の年にお手伝いの人を探していたところに来たのが

その娘だった。


「はじめはわからなかったのよ。

でも、ある時ポツンと言ったのよ。

実は…って、紹介された時に何か縁を感じたと言って笑っていたけど…、

あの人はどうだったのかしら…。

川向こうにあるゴルフ場。

あの辺り一帯がハヤシさんのお祖父さんの土地だったのよ」



毒々しい空気が漂う黒い御堂の中。

冷たい風が心地良い。揺れる子供が入れ代わりながらオレの手に触れ遊びに誘う。

岩壁の棚の前にいるオレがずっと探していた顔。

いたずらっ子のような笑い方

そして女の子みたいなえくぼ。

求めていた笑顔がそこにいた。

「やっと会えた」

オレが伸ばした手を照れくさそうに握り締めた。

そう、ミキオ、今のミキオはその手の意味を知っている。

「お帰り。ミキオ」


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