五
あれをあのままにしたらミキオが鬼になる。
今日で五日。早く、早く。
オレは暗い石段を駆け下りあの箱を手にした。
ミキオ、ミキオを鬼にはしない。
小さな箱の写真の顔は変わっていない。
数本の糸の這う哀れな死に顔。
「トキオ。何のつもりだ」
「ミキオを鬼にはしない。この写真はオレが貰う。
そうだ。祖父ちゃんのお墓のあるお寺に拝んで貰う。
祖父ちゃんならミキオを救ってくれる」
「お前、鬼は昔、生きている奴を引きずり込んだ子供の霊がなる。
もしも、鬼が来ても、その来る鬼はミキオじゃ無いぞ」
「でもオレはこんな事にミキオを使うのはイヤだ」
「…トキオ」
「リュウちゃんはミキオを弟みたいに可愛がっていた。
あのリュウちゃんがミキオに酷いことする訳がないよ。
そう、ミキオを殺したのはリュウちゃんじゃ無い。
ミキオを殺したヤツは生きている。
そいつは生きている人に裁いて貰う」
「…リュウはここに居ない。居ない。そうなんだな、トキオ。
…そうか、わかった。今からお寺さんにミキオを連れて行こう」
グズグズな顔のオレの肩を抱えてショウさんはそう言ってくれた。
その顔は駅で迎えてくれた時の顔だった。
「こんな時間にお寺さんに行くのか」
首を傾げていたお祖母ちゃんがそれならと風呂敷包みを持って来た。
この匂いはオレ達が好きだったお祖母ちゃんの手作りのお饅頭だ。
オレの顔を見たお祖母ちゃんが
「まだ沢山あるよ」
と言うので
「さすがお祖母ちゃん」と、
オレの素っ頓狂な返しが受けたのか
お祖母ちゃんは金歯を見せながら大笑いした。
その声に釣られて側に居たリツさんも大笑いした。
「本当に久しぶりこんなに笑ったの」
時計はすでに七時を回っていたがお坊様は子細がわかると直ぐお経を上げてくれた。
「あの時の坊やがなあ…。うん、うん、それでいい。
あの御堂のことは伝え聞いている。
鬼を呼ぶには七日掛かる。
万が一鬼が来ても行く所は無念の相手、捨て置いてもいいか。
いかん、いかん、これだから儂はクソ坊主と呼ばれる。
…ただ」
「ただ?」
「願をやっていたアソコの子供達は陰の気が強くなっていく。
引きずり込む力が強い。しばらくは誰かが鎮めないとなあ…」
ショウさんとお坊様は息を合わせたようにオレを見た。
「やり方、知っているな?
あの頃カズおじさん、いつもトキオを連れて行っていた」
だからオレはこの人が苦手だ。
兄さんに電話を入れるとすでに全てが連絡済みだった。
「父さんが懐かしいとボヤいている」
オレは電話越しに久しぶりにトキオとして父さんと話した。
そして、繋がった。