表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と妖精の存在否定  作者: 隼斗
2/2

変わらない朝

ジリリリリリリリリ!

カーテンの少し開いた隙間から、眩しい陽射しが差し込んできたのと同時に、部屋に朝六時半を知らせる目覚まし時計の音が鳴り響く。

「ん…るっせぇ…な…」

俺は手探りでそれを止めると、もう一度布団を頭から被った。すると…

「お兄ちゃん朝だよ起きて!」

「ぐはっ⁉」

勢いよく部屋のドアが開き突如現れた、中学校の制服を着た可憐で小柄な少女から、ボディープレスをくらう。俺の妹の、木暮美羽である。よく手入れが行き届いた綺麗で艶のある長い黒髪のおかげか、清楚でやや大人びた雰囲気があるが、いつも天真爛漫で、表情豊かな明るい性格の少女だ。美羽は俺の上にかぶさるように乗ったまま、そのまだ幼さを残す美貌と、大きな瞳を向けてくる。

「おはようお兄ちゃん。起きた?」

「あぁ…おはよう美羽…。バッチリ目が覚めたよ。だからとりあえずどいてくれ…」

「はーい」

俺は笑顔の美羽をどかしてから、まだ少し痛む身体をゆっくりと起こす。昔からされて来たから、流石にもう慣れたが…。

「早く来てよ。朝ご飯冷めちゃうからね」

「了解。先下行ってくれ」

「今日から新学期なんだから遅れちゃダメだよ?」

「へいへい」

軽く答えて、美羽が部屋を出たのを見送ってから、もうだいぶ着慣れた高校の制服に着替える。それから部屋を出て階段を降り、洗面所へ向かう。冷水で顔を洗って、髪の寝癖を直してから、リビングに入る。すでにキッチン前のテーブルには、二人分の朝食が用意されていた。

「今日もうまそうだな」

「えへへ、そうでしょ?」

美羽が得意そうに胸を張る。見るからにフワフワのスクランブルエッグに、ツナとレタスのサラダ、カリカリそうなベーコンに、イチゴジャムとマーガリンをぬったトースト。これら全てを美羽が作ってくれた。彼女は共働きでなかなか家に帰ってこれない両親に代わって、家事を全部完璧にこなす。俺も出来なくはないが、美羽には遠く及ばない。まぁ俺も美羽も、料理はある奴直伝なんだけど。

「そんじゃあいただきます」

俺は冷蔵庫から牛乳を持ってきて美羽の対面に座り、朝食を食べ始める。

「ん?お兄ちゃんってそんな物つけてたっけ?」

突然、美羽が俺の左手首にある物を指差して聞いてきた。タイガーアイと呼ばれる石でできた数珠である。

「えっ?あぁこれか?いや、最近買ったんだよ」

俺は慌てて右手で数珠を隠し答える。実は言うと、四年前のあの時からつけてはいたんだが…。しかし美羽は、俺のそんな態度を不思議とは思わなかったのか、「ふ〜ん」とだけ言って、話の話題を変えた。

「そういえばね、昨日唯ちゃんが妖精使いに会ったって言ってたんだよ!」

「えっ⁉」

俺は驚いて目を見開く。唯ちゃんと言うのは美羽の友達で、優しそうな大人しい女の子だ。何度かこの家にも遊びに来ているので、顔は知っているのだが…。

「美羽、今何てった?」

「へ?だから唯ちゃんが妖精使いに会ったって。なんかナンパされてたのを助けてもらったらしいよ」

美羽はなんだか羨ましそうにそう言った。『妖精使い』と言うのは、成仏した死者の魂から生まれる霊的存在である『妖精』と契約を結び、使役して、その様々な『異能』と呼ばれる特殊な力を振るうことが出来る人間達のことだ。今ではその存在は世界中の誰もが知っていることだから、別に見かけても不思議ではないのだけれど…。

(でも普通の妖精使いは、妖精相手以外には力を使ってはいけないはず…)

妖精使いを見分けるのは、一般市民ではまず出来るはずがない。なぜなら彼らは普段はただの人間として生活しているからだ。それに、妖精との契約の証として身体のどこかに刻まれる『契約刻印』と言うものも、妖精使い以外である人間には見ることが出来ない。ただし唯一見極める方法があるとすれば、それは妖精使いの力をその目で見ることだけだ。

「なぁ美羽。その妖精使いがどんな人だったかは聞いてるか?」

俺は一つ思いあたることがあったため、念のため美羽にそう聞いてみた。すると彼女はしばらく腕を組んで「う〜ん」と唸ってから答えてくれた。

「確か…青い髪をしてて、蒼い焔を操ってたって聞いたっけ」

「やっぱりかよ…」

「?」

俺ははぁ…と呆れてため息を吐く。思いっきりビンゴ、知り合いと思われる人物だった。

「どうしたのお兄ちゃん?もしかして知ってる人だった⁉」

美羽が興奮したような表情でテーブルから身を乗り出してくる。

「いや、残念だけど俺にはそんなすごい知り合いはいねぇよ。少し予想が外れただけだよ」

俺は適当に誤魔化す。今いると言ってこいつに会わせろなんて言われたら面倒だしな…。美羽は「えぇ〜」と残念そうな顔をしながらイスに座りなおした。

(でもまぁこれで、唯ちゃんがどうして妖精使いだと判断できたかは分かったな)

高位の妖精には、人間の姿になれる奴もいる。そいつらは稀に人間に化けてイタズラをする時がある。唯ちゃんを助けた妖精使いは、それに気付いて力を使って攻撃、いや、捕獲したんだろうな。妖精使いは当たり前だが妖精を殺したりはしない。まぁそれが、普通の妖精であればだけどな…。

「ごちそうさま。でもいいなぁ、美羽も妖精使いに会ってみたいなぁ〜」

「そ、そうだな…」

食べ終わった食器を片付けながら呟いた美羽に、俺は少し動揺しながら言葉を返した。今すぐに会わせてやれないこともないんだけど…。そう思いながら、左手首の数珠に触れた。



「おーい美羽、先行っちゃうぞー」

「ちょっと待ってよー!」

俺が階段に向かってそう声をかけると、すぐにパタパタと美羽が通学カバンを持って二階から下りてきた。

「お姉ちゃんのとこ行くんでしょ?」

「あぁ、行かないとなぜか怒られるからな…」

ブラウン色のローファーを履きながら聞いてきた美羽に、俺はメンドそうに答える。彼女が今言ったお姉ちゃんというのは、俺の幼馴染みの女子のことだ。そいつとは小学校一年生の時に知り合って、そのまま中学高校と同じで、もう十年くらいの付き合いになる。だから美羽は彼女のことをお姉ちゃんと呼ぶ。俺的にはどうかと思うが、まぁあっちがいいって言ってるからいいんだけど…。

「なぜかって…。ほんとお兄ちゃんはお兄ちゃんだよねぇ…」

「お、おう?」

呆れた表情で玄関を出た美羽に疑問を持ちながらも、彼女の後を追うように俺も家を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ