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irodori  作者: 嵐呂
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始まりの赤

 色図鑑、という本がある。

 もちろん名前も出版社も著者も特に関係はなく意味もない。ただ様々な色が載っているだけの本だと思ってくれればいい。

 赤、青、黄色、緑、茶色、紫、肌色、白、黒――。本当にたくさんの種類があり、たかだか色ごときの本でここまでの厚さになるというのは素直に驚いた。

 いや、しかしそれらの色は最早、過去形で語るべきなのかもしれない。

 十七年前――俺が生まれる一年前に、突如として世界から色が消えたのだから。

 すべての物が白黒(モノクロ)濃淡(コントラスト)で着色され、世界から彩度というものが消え失せた――。

 俺が手にしているこの色図鑑も、今や白から黒までを網羅した灰色図鑑となっていた。

 そんなご時世だからか知らないが、俺の名前は灰人(かいと)という。かいと、という読みにはもっと縁起の良い字があるはずなのだが……。

 どうやら俺は両親に愛されなかったらしい。

 それについては話が逸れるためやめておくとして、何故いきなり色図鑑かというと市の図書館でまさにその色図鑑を借りた後、そいつに出会ったためだ。

 色が失われた世界では、当たり前だが大なり小なり混乱が起こった。ファッション業界は大打撃だったし、世界中の絵画も軒並み白黒となった。特に身の回りで問題となったのは信号機だろう。赤も青も無くなってしまったのだから円滑な交通が維持されるわけがない。

 まぁ、それらの事も一応落ち着くわけで、信号機に関しては進、注、止の三つの表示で代用し、目の悪い人などには、市営バスの本数を増やすといった工夫が見られた。

 そしてその信号機で出会ったのだ、そいつに。

 授業も終わり、夕食に何を食べるか、といったことを考えながら横断歩道に差し掛かった時だった。

 いつもなら赤(止)の表示でも左右から車が来ていないことを確認して、信号に関係なく渡ってしまうのだが――今日はそれができなかった。

「あれ?」

 なぜだろう。自分はここでこうして止まっていなければいけない気がする。いや、止まっていなければいけない。

 そんな強迫めいた思いはあったが、まだ幾分かの余裕があったのであたりを見回すことくらいは可能だった。

 車などどこにもいない。どこにもいないのに渡れない。

「何だ、これ……」

 信号に目が吸い寄せられる。

 目が離せない。

 息苦しい。

 心臓の鼓動が激しくなる。

 目が離せない。

 息苦しい。

 心臓の鼓動が激しくなる

 目が――

「はい、そこまでー」

「!!」

 突如視界がひんやりとしたものに覆われる。

「ほら、落ち着いて深呼吸して」

 促す声は女子の物で、今俺の目を覆っているのは……そいつの、手?

 声からするとあまり年が離れているようには……。

「な、な……」

 先程までの症状が明らかに激しくなっている。ただ違うのは視界を完全にふさがれているという点だった。

「おい! 離しやがれっ……!」

「おぉう、どうどう。深呼吸、どうどう」

 馬じゃねぇよ。ふざけてんのか。

 頭に血が上りかけたがそこは抑えて、俺は言われたとおりに深呼吸を繰り返した。

「いやー、効く人には効くもんだわー。よかったー“原色”使わないでおいて」

 深呼吸のおかげか少しだけ落ち着きを取り戻したが、やはり現状は理解できない。

「あ、あんたは……?」

「ん、あーあー。ごめんごめん、離すね。あ、信号は見ないよーに」

「――ッ!!」

 両目を覆っていた手が離された瞬間、俺は身を翻して彼女に相対した。

「――え」

 目を奪われた。

 彼女には色があった。

 目を開いたとき、最初に見たものは色だった。

 彼女を彩る、色。

 髪は際立った灰色で、肌は薄い肌色で、瞳は鮮やかな黒色で、唇はほんのり赤く、ブラウスは清潔な白で、ジーンズは落ち着いた紺色で、靴は尖った黄緑のラインの入ったスニーカーだった。

 これが、色……。

 そこまでの情報が頭に流れ込んできて、俺は気を失った。

 何となく書いてみました。色のない世界の話です。

 続きも頑張って書きます。読んでいただけると嬉しいです。


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