step stop stream
どうしようもなく、何もする気が起きない時って有ると思う。
曰く、かったるい。曰く、怠い。
今日の私はそんな気分。
学生である私は、学生であるが故に学校に行かなければならない。しかし、今日の私は何もする気が起きないのだ。何時までもだらけている私に対し、親から「早く学校に行け」と蹴飛ばされるが如く家から追い出されたのに、だ。
けれども、私の中には最早学校に行くという選択肢など一欠片も残ってはいない。精々一欠片の中の一欠片くらいだろう。しかし、親の居る家には戻れない。ならば私はどうすれば良いのだろうか。
「そうだ、旅に出よう」
そんな事をふと思いついた。周りをちらりと見て、そうだ京都に行こうのポスターが目に入ったのが切っ掛けではあるが。
旅と言っても別に家出とかそんな類のものではない。まぁ電車に乗って、学校の最寄り駅に降りず、そのまま気の向くまま適当な所にでも降りて、ふらふらぶらぶらしてみようと言うものだ。潔く言ってしまえば、サボリだ。
私が悪いのではない、そんな気分になったこの日が悪い。などと無責任で理不尽な責任の擦り付けを心の中で行い、私は電車に乗った。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
電車は走る。私を乗せて走る。私だけでなく、他の乗客も乗せて走る。電車は何も考えずに、ただ走る。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
ふと、目が覚める。目が覚める、という事は私はどうやら寝てしまっていたみたいだ。何もせず、ただ座っていただけなので、自然と寝てしまうのも無理もない話だ。
目が覚めても何もすることがないので、取り敢えず周りを見渡してみる。
あたりは閑散としていた。時刻は八時五十分。私が電車に乗った時刻は七時半。一時間二十分の電車旅行だ。
時刻的にも学生は登校し、サラリーマンは会社へと向かっている時間だ。下り電車に乗る人なんてそんなにいないだろう。
故に周りは閑散としていた。一シートに座っている乗客は二・三人程度。座られていないシートもある。
静かだ。学生が友人と騒いでい無いし、音楽を聴いている人のイヤホンやヘッドホンからの音漏れも無い。母親が連れている赤ちゃんが泣いていることも無い。
本当に静かだ。
窓からは暖かな日差しが差し込み、体を仄かにに温める。
窓から外を眺める。
田舎だ。
見えるのは田んぼと僅かに民家しか無い。私の住んでいるところとは全然違う。まるで過去に戻ったかのような感じる。
でも何処か懐かしさを感じる。不思議だ。まるで此こそが有るべき姿だとでも言っているかのように感じる、錯覚する、陥る。
田んぼの緑、林の緑、山の緑、川の青、空の青。
この青と緑の二色だけで今の私の世界は創られている。なんて単純で純粋で粋然な世界なのだろうか。
ーー時よ止まれ、お前は美しい。
誰の言葉だっただろうか、思い出せない。でも自然と言葉が出てくる。
きっと今の私の心とその人の心が同じ様な感動をしているからかもしれない。
若しかしたら、私は良い詩人に成れるかもしれない。そんなことを考えると、ふふっ、とつい笑ってしまう。私も冗談が巧くなったみたいだ。むしろ詩人ではなくて芸人の方が向いているかも。
『まもなく〜、終点○×〜、終点○×〜。本日は□□線をご利用いただき誠にありがとうございました』
車内にアナウンスが流れる。
ああ、もう終点に着いてしまったのか。
時が経つのは早いものだ。こんなゆっくりとした一日を今、過ごしている私にとってこれが早いと感じている。なら普段学校に行って、授業を受けて、友達とおしゃべりをして、部活をして・・・・・・。こんな忙しい毎日を送っている私の一日はどんな早さで過ぎて行っているのだろうか。
正直考えたことなど無かった。いや、それが答えなのかもしれない。そんな事を考える暇もないのが私の日常なのだ。
光陰矢の如し。まさにピッタリの言葉だ。
駅に着き、電車を降りる。
風がそよ吹き、私の髪をたなびかせる。
普段なら少し鬱陶しく感じる風だが、今は心地よく感じる。
季節は夏、日差しは照りつけ、蝉は歌い、木々は青々を生い茂る。
私は改札を抜け、駅を出る。
どうしようもなく、何もする気が起きない時って有ると思う。
それはサボりたいが為の言い訳だ。って言う人もいるかもしれない。気が緩んでいるからだ。っていう人もいるかもしれない。
でも私は思う。それは、体が「休みなさい」って言っているのだと。そう思うんだ。
その言葉に耳を傾けず、周りの言葉に流されて、無理矢理自分を奮い立たせて、体に鞭を打っても何も言い事なんてない。多少は前に進めるのかもしれないけど、あくまで多少にしか過ぎない。
なら休もうよ。少し立ち止まって見ようよ。回り道をして見ようよ。大丈夫、それは決して悪い事じゃないんだ。それは大きな一歩を進むための準備期間。踏み込みの一歩。助走。それが済んだら一気に踏み出せばいい。
私は坂を下りる。まっすぐな一本道。この先には何があるんだろう。
ほら、だんだん見えてきた。
海だ。