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第八話

◆竜矢side◆






ミリアは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられそのまま床に落ちた。意識を失っているのか、目を閉じてグッタリするミリアの口端から血が流れる…



ドクン…



それを見た瞬間俺は頭に血が昇り、鉄パイプを握る手に力が入った…



「この…バケモンがぁぁぁああ!!」



バケモノに走りより…鉄パイプを振り下ろす…が…


「グァ!」


ガッ! ガィン!


「ぐあ!」


バケモノの振り向きざまの一撃をくらい…二三メートル転がる。


「んなろ…」


直ぐに立ち上がり、鉄パイプを構え直そうとするが…


「っ…!」


鉄パイプはバケモノの一撃には耐えられなかったようで…綺麗にL字型に折れ曲がり、使い物にならなくなっていた。


そこにさらに追い討ちをかけるように、バケモノの口が開き…赤く光りだした…


(ヤバ…)


反射的に体を横に投げ出す…と同時に火球が発射され、俺がいた場所を通り過ぎた。


(アブねぇ…え!?)


無事避けられ油断した所に、二発目の火球が襲いかかった…


(くっ…)


さらに横に飛ぼうとするも、先程の苦しい体勢ではうまく飛べず…


ボシュ!


火球が上着の裾を掠めた…


「ヤバッ…」


直ぐに広がっていく火に焦り、手で素早く叩き消す…


すると…



コロン……



燃えて底が無くなったポケットから…


「……ビー玉…」


今朝入れた大玉のビー玉がこぼれ落ちた。


(今日の最悪の運勢は…蟹座…ホント~に…その通りだよ…)


ビー玉を拾い上げて、バケモノに視線を戻す。


バケモノは再び口を開け…火球を発射しようとして…


(………そうだ!!)


そこで俺は…閃いた。


赤く光った口から発射された火球を避ける。


(ダメでもともとだ!)


そう開き直った俺は、バケモノに近付く…


その距離は、出来るだけ近く…だが、バケモノの攻撃方法が火球になる…そんな立ち位置だ。


そして…


(!…きた…!)


バケモノが再び口を開く…そして、口内が赤く光り出して…

「今だ!!」


その瞬間を狙い俺は、バケモノの口目掛けてビー玉を全力でぶん投げた!


「ゲァ!」


口内の予想外の衝撃に、バケモノは反射的にだろう…口を閉じた…


だが…予想通り…


『力の流れ』は…止まらなかった…


「グ…グァ…」


火球を吐き出そうと、バケモノは口に『力』を溜める…だが出口が封じられた『力』は当然その場で膨れ上がり…



ボウン!


…爆発する…



「ギァァァァアアア!!」


口内で小爆発が起こったバケモノは、牙が数本砕け散り…口から多量の煙を吐いてのたうち回っている…


(よし!ビンゴ!)


策が上手く行ったことに喜びを感じたが…


(っ…ミリア!)


目の端に、未だ意識を失っているミリアが留まり…高揚感が一転、焦燥感に変わる。


「ミリア!!」


ミリアに駆け寄り…静に抱き上げる…


「ミリア!大丈夫か!ミリア!!」


「う…」


「ミリア!!」


呼びかけに…微かにだが反応し…ミリアはうっすらと目を開けた…


「りょ…や…さん」


「ミリア!良かった!今直ぐに病院に…」


「にげ…て」


「!!」


「私は…だい…じょ…ぶ…で…から」

「っ…ふざけんな!!」

「……………」


「お前を残して行くか!!引きずってでも連れて行く!」


俺がそう断言したとき…



ゾク…



背後に…気配を感じ…ゆっくりと背後を振り返ると…


「グゥゥ」


目の前には、牙がボロボロのバケモノが立ち…俺(達)を見下ろしていた。


「……………」



ドクン…



俺はバケモノを睨み付けながら、ミリアを降ろし、ゆっくりと立ち上がる。


武器はない…だが俺には恐怖はない…それは、先程の諦めの感情からではない。


ドクン…



今俺を支配していたのは…


(ミリアを…守る!!)


ただ『守る』…『守りたい』…


そんな強い『思い』


だった…



ドクン…ドクン…



俺が向かい合うと、バケモノはボロボロの口を開いた…



ドクン…ドクン…ドクン…



バケモノの口内が赤く光り出す…



ドクン…ドクン…ドクン…ドクン…


光りは徐々に強くなり…真っ赤になった。


だが…それでも俺は、睨みつけるのを止めない。


俺が例え焼け死んでも…ミリアは…絶対死なせない!


『力』が溜まったのか…バケモノが大きくのけぞり…


「ガァァアア!!」


ゴオォォオオ!!



強烈な炎が吐き出された。


(…!)


炎が迫る光景がスローで映し出され…体に熱が当たるのを感じ…俺は思わず目を閉じ…


(今度こそ…オワタ…)


数瞬後、体を包み込むであろう炎に身構えた。


だが、その瞬間…




『ダ…メ…だ』




頭の中に…声が響いた。







『君は…まだ…死んでは…いけない…』





『君は…知らなくては…全てを…そのために…』







『生きろ!!』



ドクン!!



(なっ…がっ!)



声が響いたのと同時に、俺は自分の体の奥深くから…『何か』が涌き出るのを感じ…そして…!その瞬間…


(っ…!)


右手を反射的に…燃え盛る炎にかざした…………



◆竜矢side◆ out




◆ミリアside◆




「…ア!………ミリア!!」

…誰かが…私を呼んでいる…


そのことに気付くと同時に、今まで深くまで沈みかけていた意識が、ゆっくりと浮上した。


「う…」


「ミリア!!」


重い瞼を開くと…目の前に竜矢さんの顔があり、私が目を開けたことに安心したのか、竜矢さんの顔から緊張が少し抜けた。


…そっか…私…やられちゃったんだ…


全身の鈍い痛みがそう訴えている。


もう…私は戦えない…けど…


「りょ…や…さん」


「ミリア!良かった!今直ぐに病院に…」


「にげ…て」


「!!」


「私は…だい…じょ…ぶ…で…から…」今竜矢さんが逃げれば、バケモノは『力』のある私を先に殺して…喰うはず…


その間に竜矢さんが遠くに逃げてくれれば…私は竜矢さんを『守れる』。


竜矢さんだってきっと…出会って間もない私なんかより…自分の命を…


「っ…ふざけんな!!」


(………!)


「お前を残していくか!!引きずってでも連れて行く!」


その時…バケモノの気配を竜矢さんの後ろに感じた。


竜矢さんは背後を振り返り、抱き上げていた私の上半身をゆっくり降ろし、バケモノと向かい合った。


バケモノが口を開き、『力』を溜め始めるが、竜矢さんは逃げない。


(………なんで?)



なんで出会って間もない私を助けようとするの?




なんで勝ち目の無いのに立ち向かうの?



なんで…なんで私はまた…守られてるの?




なんで…なんで…なんで…





私はまた…守れないの?


そして…


『力』を最大まで溜めたのだろう…真っ赤に光る口を顔ごと仰け反らせ…


炎を…吐き出した。


(っ…竜矢さん!!)


次の瞬間に訪れるだろう悲劇に、思わず目を閉じる


(………………?)


しかし、暫くしても竜矢さんの声も聞こえない…それどころか、私の目の前にいる竜矢さんが焼ける熱も感じない。


不思議に思い、ゆっくりと目を開けると…


(…!!…りょう…や…さん…?)


目を閉じる前に見た竜矢さんの背中がそのまま…そこにあった。


そして…竜矢さんを呑み込むハズだった炎は…


(なっ…右…手で…)


なぜかその勢いが弱まり、竜矢さんの突き出している右手に止められて…いや…


(…止まっているんじゃない……炎を…吸い込んでる…?)


よく見ると、その炎は竜矢さんの右手に流れ込んでいた。



…そして…


全ての炎が…消え去り…その場には竜矢さんと、動揺の色を隠せないバケモノが先程と変わらずに向かい合って立っていた。


その光景を見たところで、ダメージを受けていた私の意識に限界が来た…


(…竜矢…さん…『力』が……)

(でも……よ…か…った……)


霞んでいく意識と視界の中…、竜矢さんが私を振り向いた…


その表情は…柔らかい笑顔なのに…瞳には強い輝きが宿っていた。


その表情を見た私は…こんな状況にも拘わらず、なぜかとても心が落ち着き…穏やかな気持ちになりながら……ゆっくりと意識が闇に落ちていった。




◆ミリアside◆ out

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