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第七話

◆竜矢side◆




俺の目の前には、今朝不良達に絡まれているところを助けた少女…ミリアがいた。



「竜矢さん…なんで竜矢さんが…こんなところに…?」



「いや…ミリアこそ…なんで…」



驚いた表情をしながら質問してきたミリアに質問で返…したところで、今の状況に気づく。


「いや…それより…一体なにがどうなったんだ?あのバケモノは…なんで吹き飛んだんだ…?」


一人言のように…いや、ミリアからの答えは期待しないので、完璧に一人言を呟きながら、バケモノが埋まった山に目を向ける…


バケモノは死んだのか…それとも気絶しただけなのか…山はピクリとも動いていない。



「あの…」


「ん、なに?」



ミリアの躊躇いがちの声に、思考を止めてミリアの方に向き直る。


「その…腕…大丈夫ですか?」




「……へ?」



不安げな表情をしたミリアの一言で気づいた。





俺…左腕折れとるやん…




「ぐおおぉぉぉおお!!」




認識した途端、激痛と言うのも生温いような痛みが左腕を襲い、俺はたまらず叫んだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


ミリアは急に叫んだ俺を見て焦った様子で訊いてくる。


「だ、だだ、大丈夫じゃ…ない…」


もちろん大丈夫なワケない俺は、死ぬほどの痛みのなか辛うじて答える。


すると…ミリアは少し慌てたように駆け寄ってきた。


「あ、あの!今治療しますね!」


「え?」


(治療…って、ミリア…手ぶらじゃん…)


訝しむ俺を余所に、側まで来たミリアは膝立ちになり、俺の左腕に両腕をかざした。




「…??ミリア…?なにを…?」


「少し、じっとしてて下さいね…」




疑問符を浮かべまくる俺に……次の瞬間…そんなモノが一瞬で吹き飛ぶほどの……事態が起こった。




ミリアは両手をかざしたまま、真剣な表情になり…



その状態を保ったまま、ミリアは口を開いた…




『彼の者の体に…癒やしを…《治癒ヒール》』




「?…!!??」



ミリアが言ったことに疑問を感じたのは一瞬……次の瞬間に…俺の左腕が…光り出したからだ。



「(……………)」



あまりの出来事に、俺は体が硬直し、言葉すら発せず間抜けに口を開けながら、呆然と…その光景を視界に捕らえていた。




(なんだ…これ…?)




やっと心中でこう思えるようになったのは、腕が光り出してから…二十秒程経った時だろう。



…尤も、まだ体は動かず、口も開いたまま塞がらないほど驚愕しているが…


「………」


ミリアに目を向けると、彼女は真剣な表情を崩さずに、光っている俺の腕を凝視している。



そして、それからさらに十秒程後…腕が光り出してから約三十秒が経ち…


光が徐々に弱まり、三秒程で消えた。



「ふぅ…」



それと同時にミリアは目を閉じて息を一つ吐き、表情を一転…柔らかい笑顔で俺を見上げた。


「…どうですか?」


「……へ?」



急に左腕が光り出して…ミリアに笑顔を向けられて…混乱の極みに達していた俺は、一文字を疑問形にして口にするのが精一杯だった。



「左腕…ですよ。痛みとかありますか…?」



その一言で、俺はさらに驚愕した。





(痛みが…ない…)


ミリアの言葉で意識すると、左腕の先ほどまでの凄まじい痛みが引いているのが分かった。


俺は、恐る恐る…先ほどまで光を放っていた自分の左腕に目を向けると…



(……治ってる…)


…卒倒しそうになったところを耐えられた俺は凄いと思う。



あのバケモノの一撃を喰らった時の衝撃……俺の左腕は複雑骨折くらいはしていただろう。



それが、ほんの数十秒で完治した…腫れも引き、痛みなど最初から無かったかのような感覚だ…



ためしに手、腕、肩と動かすが…やはり痛みなど全く無い。


「…大丈夫そうですね…」


安心したような表情になったミリアに頷き…そして…


「ミリア…今のは…一体…?」


聞いた…左腕を包んだ光…治癒した傷…それらの疑問を一言に込めた。


「………」


ミリアは表情を固く、俺の目を見ている…無論、俺も目を逸らさずにミリアの言葉を待つ。


「……………」


「……………」


沈黙は十秒程続いただろうか…ミリアが口を開いた


「…分かりました。後で全部話します…だから今は…」





逃げて下さい…





ミリアの言葉が聞こえたと同時に…



ドッシャァァァアアン!!



背後にあった廃材の山が…爆発した…。








「な……」


凄まじい音に、反射的に振り向くと…



「グゥゥ……」


廃材が散らばり…崩れた山の中央に…バケモノが立っていた…。


体中に傷を負ったのだろう…踏みつけている廃材を赤く濡らしながらも、バケモノはコッチを憎々しげに睨みつけている。


しかし、俺はバケモノのその状態には気付かず、視線はバケモノの額で留まっていた。


なぜなら、そこにあったのは…



(目が…紅くなってる…)


先ほどまで黄色の目ではなく…鮮血のように鮮やかな紅に染まった目だったからだ。


「…矢さん!竜矢さん!」


ミリアの呼びかけにハッとして、見入っていた紅い目からミリアに視線を移す。


「なんだ…?」



頬を汗が伝い、強張った表情をしながらも、ミリアの視線はバケモノで止まっていた。


「…逃げてください…」


「却下」


「…え?」


即答した俺にミリアは驚きながら視線を向ける。


「な、何でですか!?『アレ』は危険なんです!」


「近くにコウ…仲間がいるからだよ…。ここで逃げたらアイツらがまた巻き込まれるだろうからな…」


「…それなら大丈夫です…」


「…なんで?」


「私が残ってアレの相手w「却下」なんでなんですか!?」


言い切る前に即答した俺に怒鳴るミリア。


「んなもん当たりまえだのクラッカーだ!」


……古いな…


「え…クラ…え?」


「…ゴホン!あんなバケモノをお前みたいな女の子一人に任せて逃げるなんて鬼畜なことできるか!!」


「私は大丈夫です!バケモノだからこそ私に任せて下さい!」


……ミリア…バケモノについて何か知っているのか…?





…いや…今はそれより…





「…肩…震えてんぞ…」



「…!」



俺の言葉にミリアはハッ…として、自分の肩を抱いた。


気丈に振る舞っているけど…やはり、あんなのを目の前にすれば怖いのだろう。


「左腕は治ったから俺は大丈夫だ…だからミリアこそ逃げろ!」


「そ、それこそ却下です!」


「なんで!?」


「竜矢さんを置いていくことなんて出来ないです!…私はあなたを…」



ミリアが言いかけたその時…





ゾクッ…



(ッ!!……)



『恐怖』を…感じた…


「ミリア!!」



「え?きゃ…」


きっとその『恐怖』は…俺の生存本能が鳴らした警鐘だったのだろう。


バケモノに視線を戻す暇も無く…反射的に俺はミリアを抱いて横に全力で飛んだ。



ゴウッ!!



それと同時に、俺は自分の側を『熱』が通り過ぎたのを感じた。



ゴウッ!!ガシャァァアン!!



ズザザ!


「くっ…大丈夫か?ミリア…」


「う…はい…なんとか…」



倒れ込むように飛んで、体が床に落ちた衝撃に呻き声を漏らしながらも、ミリアの無事に少し安堵する。




すぐに立ち上がり、倒れる瞬間に聞こえた凄まじい音の方を向く。



「……なんだ…これ…」



そして見たのは、散らばっていてそのウチの幾つかが燃えている廃材と、その先にある壁が黒く…『焦げている』という光景だった。



「グゥゥ…」


「!!」


バケモノの唸り声に弾かれたように振り向くと、バケモノは両腕(今は前足か…?)を床に着け、四足の状態になり…


(……………)


半開きの口から…黒い煙を立ち上らせながら…コッチを睨みつけていた。



(…口から…煙が…)


あまりに不思議なことが起き続けて、かえって冷静になった俺は…



(さっき一瞬感じた『熱』に燃えてる廃材…焦げてる壁…そして…)



今の状況を考えることができて…


(口から煙が出ているバケモノ…)


そうして…ある一つの考えにたどり着いた。


(まさか…そんな…でも)


しかし、その考えは…いくら何でも信じられない…いや、信じたくなかった。


ただでさえ相手は赤い毛で、目が三つあるのだから、これ以上さらに『何か』があってほしくはなかった。




しかし…



ミリアの言葉によって…


「あれで分かったでしょう…?」


俺の希望は砕かれ…


「あれは…あのバケモノは…」


目の前にいるバケモノが、正真正銘の…『異常な生命体バケモノ』だということを…


「『火を吐く』んです!!」



……知った。



その時…バケモノの口が大きく開いて…俺の予想通り…そしてミリアの言葉通り…


ゴウッ!


そこから火が飛び出た。


火はバケモノの口から飛び出した瞬間…直径一メートル程の球状になり、俺達に向かって飛んで来た。


(!速い…!)


予想したとはいえ、やはり『生き物が火を吐いた』ということに意識が行ってしまった俺は、先ほどのように反射的には体が動かず、火の球が迫ってくるのをスローモーションで見ていた。



(…ヤ…ヤバイ!)



その時…焦る俺の視界から、火の球が消えた…


(え?)



いや…見えなくなった…が正しかった。


俺が火の球に代わり見ていたのは…


(…ミリア!?)



…ミリアの背中だったからだ。







このままじゃ…ミリアは…あの火の球を真正面から喰らうことに…





(ふざけんな!)



退かすために反射的にミリアに手を伸ばし…肩を掴もうとして…




再び、あの時と同じような…ミリアの力強い声を聞いた。



『火よ…私達を守る壁となれ!!《火柱のファイアウォール》!!』



ゴゴウッ!



ミリアが言った瞬間、ミリアの右手前方の地面から、左に向かい順々に…高さ一メートル強の火柱が立ち上がった。


(!!)


火柱は一瞬で、俺達を守るような壁となり…次の瞬間…


ドンッ!!




火の球が火柱にぶつかったのか…大きな音が一回だけ聞こえて、あとは火柱の火が燃えている音が続いた。


「竜矢さん…」


不意に、ミリアが顔をコッチに向けた。


「先程言いかけましたが…私もあなたをアレから『守るため』に来たんです…」


「??…どういうことだ…?」


「…後で全部話します」


ミリアは俺の左腕が治ったときの言葉を繰り返した。


「だから…ここは私に任せて…逃げてください…。アレには私達のような『力』がないと…時間を稼ぐことも出来ません」



「!?」


ミリアがそう言うと、火柱が霧散するように消えた。


「アレが警戒している今です!早く外に!」



確かに…火柱が消えて見ることができたバケモノは、しぶとく生きている俺達にイラついているのだろう…その瞳に怒りの感情を宿しながらコッチを睨んでいる。


だが、ミリアの言葉通り、自分の技が防がれたことを警戒しているのか、行動を起こす素振りはない。


なるほど…逃げるなら今がチャンスだ。


「…事情は分かった…」



全然分からんけど…


「それなら、早く逃げt「だが断る」…え?」


「悪いが俺にはどうあっても、『女の子を一人にして逃げる』なんて選択肢は存在しないよ」


「…っ!…だから!言ってるじゃないですが!アレを相手にするには『力』がないt「確かに」…」


「俺は何も持たない普通の人だ…戦力にはならない」


でも…、と続けて、鉄パイプを構える。


「囮くらいにはなれる…ミリアが『力』を使うためのな…」


「でも…」


「とにかく!俺は逃げないからな?」


ミリアに向けてニヤリと笑いかける。



「…もう!分かりましたよ!!」


ミリアは怒り顔で頷く。


「そのかわり!!…怪我…しないでくださいね?」


「…善処する」



「ちょっと!約束してください!」



「ガァ!」



「!ほら、くるぞ!」


俺の言葉と同時に、バケモノの大きく開いた口から火球が飛び出した。



俺達は飛んできた火球を左右に散ることで避ける。


「ミリア!」


「何ですか!?」


まだ怒っているミリアに笑いかける…


「…怪我すんなよ?」


「…もう!心配なのは竜矢さんの方です!!」



「ガァ!」


ゴウッ!


バケモノが再び火球を打ち出し、ミリア目がけ飛んできた。


「ミリア!」


呼びかけるがミリアは動かずに、迫る火球を見据えながら…口を開いた。



『火よ…焼き尽くす弾となれ…《火球のファイヤーボール》!!』


次の瞬間、ミリアの目の前に…バケモノのそれより一回り小さいが…全く同じ火球が現れ…バケモノのモノとぶつかった。


ゴウッ!


「く…」


火球の衝突によってうまれた熱気が顔を撫でる。



一瞬の衝突…そして…


ゴウッ!



…小さい火球がバケモノのモノを打ち破り、バケモノに飛んでいき…



ドゴウ!!



バケモノに当たった。


ガシャァァァアアン!!


火球が当たったバケモノは、廃材の山を吹き飛ばし壁に激突した。



「やったか!?」


「ハァ…いえ…まだです!」


ミリアを見ると、多少息切れをしているが、目はバケモノに向いている。


「ミリア!」


俺はバケモノが吹き飛んだことに多少安堵してミリアに駆け寄ろうとした…



その時…





カラン…


「!」


廃材が床に落ちた…微かな金属音に反応し、弾かれたように顔を向けた。


「…………」


そうして見たのは顔は俯けているが、四足で起き上がっている…バケモノの姿だった。



(…!まだ動けるのかよ!?)



俺がバケモノの頑丈さに内心舌打ちすると、バケモノがゆっくり立ち上がり…


「…………」


コッチを見据え…



「ガァァァァアアア!!」




(………!)


咆哮した。



その瞬間、強大な恐怖と殺気が俺の体を突き刺し…身動きが出来なくなった。


(怖い…体が…動かねえ…)



バケモノから視線を外すことも出来なくなっていた俺は…咆哮したバケモノの両目が、額の目と同じように…紅く染まっているのが見えた。


「グゥゥ…」


三つの目が全て紅くなったバケモノは口を大きく開き…それと同時に口が紅く輝き始めて…バケモノはミリアを睨んだ。


(…!)


そこで漸く俺は意識が戻り、ミリアを見る。


ミリアはまだバケモノを見据えたまま、動かない。



(ヤバイ…)


「ミリアァァアア!!防げぇぇええ!」


「…!」


俺が叫び、ミリアの意識が戻ると同時に


「ガァァア!!」


ゴウッ!ゴウッゴウッ!!


バケモノの口から…火球が三発…打ち出された。



「く…『火よ…私を守る壁となれ!《火柱のファイヤーウォール》!』」


ドン!ドドン!!



火柱が壁となり火球を防ぐ…



「ミリア!大丈夫か!?」


「はい……なんとか……」


火柱を消したミリアは答えるが、表情が辛そうだ。


そこに…


「ガァァア!」


ボウ!ボウ!



再びバケモノがミリアに向かって火球を打ち出した。



『ひ、火よ…私を守る…壁となれ…《火柱のファイヤーウォール》!』


ボウ!!



ドン!ドン!



再びミリアは防いだが、その言葉には先ほどまでの力強さはなく、ミリアの表情は更に辛そうなものになってる。



しかし、そんな状態のミリアを狙い…バケモノが、その巨体で突っ込んできた。


『火よ……焼き尽くす…弾に…《火球のファイヤーボール》』



(!これなら…!)


迫るバケモノに動揺せずに、ミリアは言葉を紡ぎ、火球が出来た…


それは…先ほどバケモノを吹き飛ばしたもので…これなら…やれる!…



…と




俺は…高を括っていた…






バケモノは火球を見ると、動きを止めて一瞬で立ち上がった。


そして右腕を大きく振り上げると…向かってくる火球に振り下ろし…


「ガァ!」

ボシュ!


火球を…打ち消した。


(な…!?)



バケモノはそのままさらにミリアに迫る…


ミリアに目を向けると…もう限界なのか、足を震わせて肩を激しく上下させている。



(ヤバイ…)




ドクン…



気づいたら…俺は全力でミリアのもとへ駆け出していた。




(間に合え!間に合え!間に合え!!)








だが…







駆け寄ろうとした俺が見たのは…





バケモノがミリアの前に立ち…






その丸太のような太い腕で…






ミリアを吹き飛ばそうとする場面だった…





スローモーションのようにゆっくりと流れていくその場面を見ていると…



ミリアが俺を見て…口を開いた…



全然大きくない…微かな声だったけど…


「竜矢さん…」



俺には確かに…届いた…







「逃げて……」






そして…ミリアは…




ズドン!!






「ミリァァァアアアア!!!!」





バケモノに…吹き飛ばされた…








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