第五話
◆竜矢side◆
校門を出たところで不良にからまれました。
「仲間が随分と世話んなったなぁボウズ…」
七人か…友里那を守りながらだときついかもな…
「お前らの仲間が集団で一人の女の子を襲おうとしてたからな…当然だ」
内心現状に少し焦りながらも、きっぱりとそう言い切る
「ああ~…それはこのバカ共が悪かった、しっかりシバいといたからよ」
一番ガタイの良い黒髪短髪の男が済まなそうに言う。
…確かに、あの時ボコった不良達の顔に痣がある…
「そんならいいや、これから気を付けろよな」
「ああ」
…なんか、この黒髪短髪…いい奴っぽいな
「で…なんの用だ?」
少しだけ警戒を解いて聞く
「いや、な。確かに朝の事はコイツらに非があるんだ」
黒髪短髪は悔しそうな表情の、朝の不良A達を指差す
「だけどな~…仲間達がやられて、それを放っておくっつうワケには行かないんだよ…ま、仕返しってヤツだ」
軽く笑いながら、物騒なことを言い放つ
「ちょっと!仕返しなんて格好悪いと思わないの!」
「んだとテメェ!」
「おい、落ち着け」
友里那の言葉にキレた不良達を、黒髪短髪が宥める。
「いいか、カノジョ…」
「だ、誰が彼女よ!?」
「ん?違うのか?まぁいいや…俺も仕返しが格好良いとは思わねえよ…けど、やられたままは、面目丸つぶれなんだよ」
「で、でも、リョウは一人なのに「分かった、やるよ」リョウ!」
友里那の言葉に被せる。
「だってよ…このままじゃ逃げらんねえし、下手したら夢菜、夢乃、友里那…みんなに迷惑がかかるかもしれないだろ?」
そう言いながら黒髪短髪に目を向けると、苦笑いしている。
「で、でも…!」
「カノジョ、不安なのは分かるが…少なくとも殺さねえし、武器も使わねえよ…人数もこっちが圧倒的だが、俺達がやるのはリンチじゃねえ、あくまでケンカだ」
「…だってよ?」
「…っ!分かったわよ!!もう!勝手にすれば!?」
怒ってそっぽを向いた友里那に、苦笑しながら頬をかく。
「じゃあ……どこでやんの?」
黒髪短髪達に向き直る。
「ああ、町外れの廃工場だ。そこに残りの仲間と…リーダーがいる」
ちなみに俺は副リーダーだ、と言う黒髪短髪の言葉に分かったと頷き…
「じゃあ、行くか…」
そう言って再び友里那に目を向け…話していた俺を見ていたのだろう…慌てて俺から目を背けた友里那の姿に苦笑して…
「!」
「大丈夫だから…心配すんな、な?」
宥めるために頭を撫でる。
すると友里那は顔を俯かせ(また赤かったな)、小さめの声で…
「ケガ…しないでよね…」
…大人しい態度の友里那に内心びっくりしつつ、表面上は落ち着いてこたえる。
「ああ、善処する」
「な、なによ…それ…」
友里那の頭から手を離して、黒髪短髪達のところに行く…
「が、頑張りなさいよ!」
力の入る応援を背中に受けながら…
※※※※※※※
「ありがとな…」
「ん?」
今俺は不良達と共に廃工場へと歩みを進めている。
そんなときにお礼を言った俺に、黒髪短髪は不思議そうな顔を向けた。
「わざわざ武器は使わないなんてウソついてくれて…だよ。」
あの場面で武器を使うなんて言ったら、友里那は絶対に俺を行かせてくれなかっただろうしな…。
「ああ、あれか…ウソじゃねえぞ?」
「…え?」
黒髪短髪の意外な言葉に、今度は俺が不思議に思い口を開いた。
「だって、これ不良の仕返しだろ?凶器なんて当たり前じゃ…」
俺は今まで何回も不良達とケンカしたことがあり、ボコった不良達が仕返しにくるときは、鉄パイプやバットは当たり前とでも言うように装備してかかってきていた。
俺の考えてることが分かったのか、黒髪短髪は苦笑して口を開く。
「不良同士の喧嘩なら、俺達も武器くらいは使うときはあるけどな…お前は強いらしいが一般人だろ?なら武器なんて使わねえし、使わせねえよ…ウチのリーダーがな…」
「なんか…お前らんとこのリーダー…変わってるな…」
俺の言葉に黒髪短髪は苦笑したまま続ける。
「そうだな…変わってるな…でも、そんな変わってる人だから…俺達はついていくんだよ……まあ、たまにコイツらみたいに暴走する奴もいるけどな…」
そう言って、朝の不良達に呆れたような視線を投げた。
「あ、あの…スイマセンでした…」
その視線にビビって謝る不良達に、黒髪短髪は首を振る…
「もういい…その変わり、もう他人にムダに関わるのはよせよ」
「は、はい!」
そう返事して先に歩き出す不良達について行く。
※※※※※※※
廃工場近くまで着いたとき、黒髪短髪が笑いながら話しかけてきた。
「お前さんには安心しろとは言えねぇけど…まあ大きな怪我はさせねえつもりだし、気絶でもしたら最寄りの病院の入り口に置いといてやっからな」
そう言って笑っている黒髪短髪に、俺も笑いながら返す。
「俺は何人相手でも負けるつもりはねえぞ?」
「ハハッ、言うねぇ…」
まあ実際、一人で十人以上はダメだな…なんて考えながら、不良達と共に廃工場の入り口…大きなシャッターの前に立つ。
すると…
(ん?…なんだ?)
シャッターの中、つまり廃工場の内部から声が聞こえた。
(……いくつか聞こえる)
耳をすますと、声はいくつも聞こえ、そのどれもが、明確に声を出そうとしているのではなく、苦しさや痛みに自然と出た…呻き声のようだ。
「…この声は…仲間達のか?…おい!早く開けろ!」
「は、はい!」
その呻き声は黒髪短髪達不良にも聞こえていた。
そのうえ黒髪短髪はこの呻き声が仲間達のだと分かったらしく、かなり焦った様子で、仲間達にシャッターを開けるよう指示した。
「おい、何が起きてるんだ?」
「俺にも分からん!とにかくシャッターを開かねえと!!」
一応聞いてみたが、やはり何が起きてるかは分からないようだ。
「じゃあ!開けます!」
その声に振り向くと、下りているシャッターの取っ手を三人がそれぞれの位置で掴んでいる。
「よし!開けろ!!」
黒髪短髪の声で、一気にシャッターが開けられた…
※※※※※※※※
「なんだ…こりゃあ…」
シャッターが開かれ、中の様子が目に映ったとき、黒髪短髪が呻くように呟いた。
中はまさに惨状だった。
床や壁の所々に赤い色…血が付着していて、服の切れ端だと分かる布も散らばっている。
黒髪短髪の仲間と思われる不良達は、ある者は床に倒れ伏し、ある者は壁に背を預け座るように意識を失っている。
俺や、シャッターを開けた不良達は言葉も出ずに呆然とその光景を見ていた。
その時…
「うう…」
「「「!」」」
床に倒れていた一人の呻き声が聞こえ、俺達の頭が覚醒する。
「おい!大丈夫か!?何があった!?」
瞬間、黒髪短髪がその仲間の下に駆け寄り助け起こすように頭と胸辺りを抱き上げ、この異常について聞く。
俺と不良達も黒髪短髪の後に続いた。
不良達の仲間は少し呻いた後、目をうっすら開き黒髪短髪の顔を見た。
「あ、ああ…兄貴…無事だったんスね…」
「無事って…一体何があったんだ!他のチームか!?」
その質問に仲間は首を横に振る。
「違います…そんなんじゃない…」
「じゃあ一体…」
「く…熊です」
仲間が言った予想外の言葉に、俺達は唖然とした。
「く、熊だと!?なんで熊がこんなとこにいるんだよ!?」
黒髪短髪以外の不良達は熊という答えに混乱したが…
「落ち着け!まずは話しを聞くぞ!」
黒髪短髪の一喝で静まり、仲間の話しに耳を傾けた。
「で?熊は一体どこから?」
黒髪短髪の質問に、仲間はさらに首を振る
「それが、分からないです…急に…ホントに急にこの場に現れたんです!」
「…どうゆうことだ…?」
黒髪短髪の疑問にも反応せずに仲間は続ける
「ホントに一瞬で現れて、周囲を見回したと思ったら…呆然としてる俺達に向かって…襲いかかってきたんです…それで…」
「こんな事に…か…」
黒髪短髪はそう言って周囲の惨状に目を向け…目を見開いた。
「リーダーは!?リーダーはどうした!?」
急に声を荒げた黒髪短髪にビビりながら俺も周囲を見渡す。
十人程が倒れているが、その中にはリーダーがいないみたいだ。
「あ、姉御は…俺達に逃げろと言って…熊の気を引くために背を向けながら…奥へ…」
仲間がそう言いながら泣きそうな顔で指差した先には、無理やり開いたように形が歪んだ扉があった。
「そ、そんな…」
扉を見て呆然としている黒髪短髪に、仲間が涙を流しながら…
「兄貴…お願いです…姉御を…助けに…」
その声と共に意識を失った仲間(呼吸はしてるみたいだから気絶しているだけだろうが)に目を向け…黒髪短髪は悔しそうな表情で呟いた。
「当たり前だ…」
そう言うと同時に黒髪短髪は仲間の不良達の方を向き、指示を出した。
「お前ら!ここにいる奴らを外の国道辺りまで運んで、救急車と警察を呼んで待機してろ!!」
「は、はいっ!!」
「おい、あんたはどうすんだよ?」
「決まってんだろ…リーダーを助けに行く!」
そう言った黒髪短髪は俺に向かってさらに言葉を続ける。
「悪かったな…これはもう俺達の問題だ…お前さんはもう帰ってもいいぞ…」
言うと同時に扉に向かって駆け出した黒髪短髪……の横に付いて併走しながら俺は言った。
「俺もあんたと一緒に行くよ…リーダーとやらを助けに…」
俺の言葉に黒髪短髪は走りながら顔を向け怪訝な顔をする
「なぜだ…なんでそんな危険を侵す?…相手は熊だぞ?なにより俺達は、お前さんに仕返しをしようとしたんだぞ?」
なぜか…ねぇ
『兄貴…お願いです…姉御を…助けに…』
『そうだな…変わってるな…でも、そんな変わってる人だから…俺達はついていくんだよ』
……………
「リーダーとやらを、助けたいと思う奴らがいるから…だよ」
「それだけ…か?」
唖然とする黒髪短髪に苦笑しながらも続ける。
「俺には充分な理由だよ…それに、リーダーって…女性だろ?」
「は?…あ、ああ」
突然の質問に困惑する黒髪短髪。
姉御って呼ばれてたしな…
「女性を見捨てるなんてことしたら…親友に殺されちまうよ」
親友の顔を思い浮かべながらそう言って苦笑した俺に、黒髪短髪は
「お前さん…かなりのお人好しだな……済まない」
…最後の呟きは聞こえなかったふりをして…
「じゃ、急ぐぞ!」
「おう!」
言い直すように大きく言った言葉とともに、スピードを上げた黒髪短髪に内心一瞬だけ苦笑して、この先に待ち受ける熊との対峙に気持ちを切り替えた。
※※※※※※※※※
タッタッタッタッ…
今俺と黒髪短髪はガラスやコンクリートの破片が散らばる廃工場の通路を走り抜けている。
「でも…『熊がいきなり現れた』…って、どういうことだろな?」
黒髪短髪の仲間が言ったことの意味が分からず、急ぎながらも聞いてみる…
「さあな…多分、たまたまこの辺りまで降りて来たのが、窓ガラス辺りをブチやぶって…入ってきたんだろ」
「そう、なんかな?やっぱ…」
「そうだろ…いくら何でも何もない所から…いきなり現れたりはしねえだろ」
「そう…だよな…でも、なんか…」
嫌な感じがする…肌がゾワゾワするような……これが…熊の気配か?
「…?…どうした?」
言い淀む俺を不思議に思ったのか、顔を向けてくる黒髪短髪に慌てて首を振る。
「いや…なんでもnガシャッ!ガラガラ!
「「!!」」
何か…重いものが崩れ落ちたような音に、俺達の意識が正面を向く。
「近い…な…急ぐぞ!」
「ああ!…ん?」
黒髪短髪に続き更にスピードをあげようとした俺は視界の端…通路の壁際に落ちているものを発見した。
これは…
「おい!あんた!受け取れ!」
少し先を走っていた黒髪短髪に、落ちていた物のうちの『一本』を放り投げる…
「無いよりはマシだろ?」
「これ…ああ、サンキュ!…えっと…リョウ!」
「!」
「こう呼んでもいいよな?」
黒髪短髪に名前で呼ばれたことに驚きながらも、すぐに頷いて肯定する。
そして俺もその落ちてた物…鉄パイプを右手に持ち、受け取って既に走り出している黒髪短髪の横に並ぶ。
「いちいち『お前さん』って呼ぶよりいいだろ?…」
「ああ…アンタはなんて呼べばいい?」
俺の問いに黒髪短髪は少し考える素振りを見せた後…
「…コウ…だな。リーダーとか親しい仲間にはそう呼ばれてる」
「コウ…か。よし覚えた…けど、いいのか?俺がそう呼んでも…」
「構わねえよ、もうリョウも仲間だ」
「不良の仲間入りは後免だな…」
黒髪…いや、コウの答えに笑って返すと、コウも笑った。
「それにしても…熊相手に鉄パイプね」
「まあ、せめて逃げ出す隙くらいは作らないとな…」
そう言う俺達の目の前に、別の作業場への扉が迫っていた。
◇竜矢side◇ out
◆???side◆
「ガァァッ!」
ブンッ!
「くっ!」
横薙に振られた…丸太のような太さの腕をギリギリでしゃがんで避ける
…何なんだ…このバケモンは…?
コウ達が標的を連れてくるのを待っている時に突然現れやがった…
何もないところから…突然に…
そして…仲間を襲いだした…この太い腕を振り回して…ものの一分と経たずに…みんな動けなくなっていた。
それにしてもヤバかった…後一瞬気を引くのが遅かったら…
(仲間が…死んでいた…)
そう思った途端に起きた体の震えを抑えつけて…コイツの腕を避ける
つうか…
(コイツは一体なんだ!?)
姿だけみればまさに熊だ…だけど…
(まず毛が赤い…って…ありえねえだろ…)
このバケモンの大きさは目算で二,五メートルと巨体だ…けどヒグマではもっと大きいのもいるからそこはいい(よくねえけど)けど…
コイツの毛は赤い…燃えるような真っ赤な色をしている。
普通の熊では赤い毛なんてことは絶対にないだろ…
しかも…
「ガァァッ!」
「アブね!」
またバケモンが右から左に薙いだ腕をしゃがんで避ける。
すると、バケモンの空振りした腕が近くに積まれていた鉄パイプにぶつかり、鉄パイプの山が派手な音と共に崩れ落ちた。
ドガッ!ガラガラ!
「ギャオ!」
それと同時に、バケモンが短い悲鳴を上げる。
「へ!さすがに鉄は痛えか!?」
すると…
「グゥゥ…」
「?」
唸り声と共にバケモンが後ずさりをした。
疑問符を浮かべるアタシをよそに、バケモンは後退りを続ける。
(なんか分かんねえけど…チャンスか?)
逃げられるか…と思案していたアタシは、このバケモンの次の動作で後退りの意味を悟った。
少しの距離が開くと、バケモンは今まで振り回すのに使っていた腕を床に下ろし、それと同時に頭を下げた。
(まさか!…突進!?)
「グガァ!」
予想が当たり、バケモンは吠えると同時にその巨体でアタシを仕留めるために疾走してきた…
(ヤバイ!)
あんな巨体をぶつけられたら…
そう焦ったアタシはすぐに体を横に投げ出そうとして…
カラン…
(!?)
足裏の一部に固い感触を感じると共に…アタシはバランスを崩した。
(くっ…さっきの鉄パイプ…ちくしょう!)
心の中でだけそう叫んだアタシは、目前に迫る巨体にせめてもの抵抗として、両手を体の前で交差させる。
(……コウ!!)
ドゴォ!!
次の瞬間、体に激しい衝撃を感じ、アタシは意識を手放した。