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第四話

◆竜矢サイド◆




キーンコーンカーンコーン



机に突っ伏している俺の耳に二時間目終了のチャイムが聞こえる…。



「あ~~…もうオワタ」



結局一時限目は遅刻に終わった。


ミリアと(一方的に)別れてから全力で学校へ走り、教室のドアをぶち破らんばかりの勢いで飛び込んだとき、沢田に


「小守、遅刻だな。授業態度…減点な?」


と言われてから一時限終了までの記憶がないのも無理ないと思っている。


「リョウ…ホントに大丈夫か…?」


他人から見れば死んでいるとしか思えないように生気のない状態の俺にトモが聞いてくる。


「いや…もうらめ…」


そう、一つ前の休み時間に夢菜と友里那が、ショックを受けて呆然と座っていた俺をからかいに来たときに(友里那とトモも同じクラス)、友里那が言った一言が俺にさらに追い討ちをかけた。



~~~~~~~



「資料集を取りに家まで…ホントバカね…」


「リョウはテストできないから、忘れ物するわけにはいかないもんね~!」


「でも資料集なんて、わざわざ取りに戻らなくても『授業前に準備室から借りてくればよかったのに』」



「……………ゑ?」



~~~~~~~



その後、忘れても準備室からパクってこれるということを聞くと同時に机に突っ伏して、もう何も耳に入らなかった。


そのまま二時限目は寝て過ごした。


そして二時限目終了直前に目が覚めて、最初に戻る。




(忘れ物ならまだしも遅刻なんて…もうだめだ…)


このとき俺は、

遅刻→成績DOWN→小遣いcut!


という流れが容易に想像できた。


「そ、そろそろ元気出しなさいよ…もう気にしたってしょうがないじゃない…」


トモと話していても突っ伏していると、友里那が来て励ましてくれる。



「いや…そうなんだけどな…小遣いカット…ハァ…」


「しょうがないわね…放課後にコンビニで唐揚げ棒奢ってあげるから…元気出しなさいよ」


「え!?マジでか!」


唐揚げ棒は俺の大好物だ。

二日間に一回は必ず食べている。


「ええ、あんた唐揚げ棒大好きでしょ?」


「ああ、ありがとう友里那!」


嬉しさのあまり、友里那の手を取って礼を言った。


「あ、あんたがあまりにも哀れだったから…その、仕方なくなんだからね!!」


「いや、それでも嬉しいぞ?ありがとな!」


「う、うぅ~…」


素直に礼を言ったら赤い顔して俯いてしまった…風邪か?



「じゃあ俺は…昼休みにジュース奢ってやるからな…」


俯いている友里那に首を傾げていると、トモも俺の財布にささやかな施しをくれる。


「ありがとな…親友よ…」


「気にするな…親友よ…」


トモとの友情の深さと友里那の優しさを再認識した俺は元気を取り戻して、昼休みまでの時間を過ごした。



※※※※※※※




「あれ?そういえば雅斗は?」

今は四時限目が終わり昼休み。


俺は教室でトモと二人で購買で買ったパンの袋を開けながら聞く。


いつもならここには俺、トモ、あともう一人…雅斗の三人がいる…はずなのだが、俺とトモしかいない。


「ああ、今日もバイトだってよ」


「え?今日は三時限目あたりに来るんじゃなかった?」


「なんでも、今日は工事現場の誘導員のバイトが入ったらしい」


「…そうか…」


それだけ言って黙り、パンを頬張った。


「……んで?」


「ん?」


咀嚼していたパンを奢ってもらったコーヒー牛乳で流し込んでいると、トモが口を開いた。


「なんで今日遅れたんだ?」


「え?」


「お前なら、ホームルームにはギリギリだったかもしれないけど、一時限目を十分も遅刻するのはおかしいぞ?」


「…まあな」


「んで?何があった?」


別に隠すほどのことでもないよな…


「不良に絡まれてた女の子を助けてた」


「な、なに!!!」


「うおっ!」


理由を話した途端にトモは驚愕の表情で机から身を乗り出してきた。


てか声でかい!教室内にいる生徒は全員何事がとこちらを見ている。

女子数人のグループの中にいた、夢菜と夢乃(昼休みは他クラスに入るのおK)、友里那もだ。



しかし、そんなことはお構いなしにトモは大声を出す。


「さすが俺の親友だ!!女の子を助けるために遅刻するとは!親友として鼻が高い!いや、もう天狗の如く!」


「分かったから、ちょっと落ち着け!」


暴走寸前のトモの肩を掴んでイスに座らせる。


まあ、女の子の味方にそんなことを言えば、こうなるわな。


「で、で?どんな子だった?」


未だ興奮覚めやらぬ様子のトモの質問に若干引きながらも返事する。


「ん、外人みたいだけど、すげー美人さんだった」


「おお!」


「可愛いと言うより綺麗な感じだったな~、スタイルもよかったし、少し話した感じ気は弱いみたいだけど、芯は強そうだったな、多分」


四人もの不良に絡まれてハッキリと話して拒否ってたしな。


「おおお!!」


だ、大丈夫かトモ…


「そんな良い子を助けられるなんて、滅茶苦茶運がいいじゃねーか!このフラグメーカー!どうせその後街中でばったり再会して二人は進展していくん…だ…ろ…」


神学に入るのは秘密にしといた方が面白そうだな、なんて思いながら窓の外を眺めてトモの言葉を聞き流していたが、急に言葉が小さくなっていくのを不思議に思いトモに目を向けると、


「…………」


口が開いたまま呆然とした表情で俺の後ろに目を向けている。


(?なんだ…)


トモにならって俺も後ろを向くと…


(っ!!!?)


後ろには興味津々といった様子の夢菜とすこし怒っているときの顔をしている夢乃。


そして、今ならオーラだけでヒグマも殺せるんじゃないかという程怒っているのが分かる…友里那だ。


(な、なんでこんなに怒ってるんだ?)


俺が焦りながら疑問に思っていると…


「へぇ~…で、リョウはその綺麗な女の子を助けて、性格まで分かるくらいお喋りしてたんだ…」


口の端をピクピクさせている友里那が、全く笑っていないことが分かる笑顔で言う。


「いや、そんなに長く喋っては…」


「で!」


強引に言葉を切らせる友里那


「遅刻をしてまで一体どんな話をしてたのか…すごーく気になるわね…?」


「いや、だか…」


「じっくりと話し…聞かせなさい…」


ヤバイ…なんだか知らんが友里那滅茶苦茶怒っとる…。


(夢菜!)


目で夢菜に助けを求めるが…笑顔で手を振られた…ちくしょう…


(夢乃!)


そうだ、夢菜がこの状況で助けてくれるはずがない!と思い直し、今度は必ずや手助けをしてくれるだろう夢乃に目線を合わせたら…


(プイッ!)


表情を変えずにそっぽを向かれた。


これは、幼いときの夢乃が拗ねたときにやっていた行動だ。

凄い懐かしいが、何故今やる!?俺が何かした!?



「さあ!!」


二人に見捨てられ、内心涙が止まらなかったが、俺は最終手段を実行することに決めた。


その手段とは…



「あ~、俺トイレ行ってくるわ」


ガタッ! ダッ!



ガシッ!


「待ちなさい!話が済んでないわよ!!」


「大丈夫だ!大まかなことはさっきトモに話したから!!後はトモから聞いてくれ!」


「………は?」


…………身代わりだ。


「じゃ!そゆことで!」


俺は友里那の手を振り解くと、一目散にトイレに向かって駆け出した。




◆竜矢side out◆




◆知輝side◆




リョウが走り去ってから友里那が悔しそうな表情をした後、こちらを向いたときの表情を見たとき、俺は事態を悟った。


(え?俺…生け贄?)


「じゃあ…トモ?リョウと女の子の会話…しっかり聞かせてもらうわよ…?」


凄く冷たい笑顔で言ってくる。


「い、いやいやいや!!…俺、なんも聞いてないぞ!?」


必死に否定するが…


「今すんなり話せば…五体満足でいられるわよ?」


友里那は全く聞く耳を持たずに歩み寄ってくる。


ヤバイヤバイヤバイ!!


なんとかしないと、今日が俺の命日になる!



こうなったら…俺も…!!


「え、え~と…俺もトイレ行こうかな~…?」


ガシッ!!


「アンタは…絶対に逃がさないわよ…?」



立ち上がろうとした俺は襟首を掴まれた。


「じゃあ、少しお話ししましょうか…?」


そう言いながらどこかに引きずられていく俺は、心中で…


(リョオォォォオ!!覚えとけよぉぉぉお!!)


親友だった…者に、精一杯の怨恨の念を送った…。



◆知輝side◆ out




◆竜矢side◆




キーンコーンカーンコーン




「はぁ~……」



やっと放課後になった。

今日は本当に一日中疲れた…昼休みのあとも…



~~~~~~~



結局、訳も分からず怒っていた友里那から逃げるため昼休みが終わるギリギリまでトイレに籠もっていた。


昼休みが終わる直前に教室に戻ると、ボロボロの状態で机に突っ伏して泣いているトモと、コッチには気付かずにまだ怒りのオーラを漂わせている友里那を見た。


俺はとりあえず、自分の席…窓際の列の真ん中の席(机は7×6の42席)…に就き、前の席のトモに声をかける。


「な、なぁトモ…悪かったよ…」


少し戸惑いながらも謝ると、トモは机に伏せたまま口を開いた。


「なぁ、リョウ…」


「な、なんだ…?」


いつもとは違う低い声のトモにビビる


「俺は…リョウのなんだ?」


「そ、そりゃあ…親友だr「お前の言う親友とは!!」うおっ!…」


突っ伏していたトモは、勢いよく起き上がりコッチに振り向くと、とても怒ってらっしゃるのが丸分かりの表情と言葉で、俺の答えを遮る。


「相手を非情に裏切り薄情に見捨て残酷に切り捨てためらいなく身代わりにして嬉々として生け贄に捧げる!!!!そんな関係か!!??」


「い、いや…」


暴走気味に言いながら机越しに顔を詰め寄らせてくるトモに、椅子ごと身体を引きながら返事をする。


「じゃあ!なぜ!俺をあんなヒグマとライオンを足して二で割ったような奴のもとに捨て置いて逃げたのだ!!??」


「いや、あのな…」


なんとか宥めようとするが、トモの暴走は止まらない。


「あいつに空き教室まで引きずられていくときの恐怖と絶望がお前に分かるか!?」


「い、いや…」



「ヒグマに引きずられていくような…否!サメに海中に沈められていくような…否!ティラノサウルスに生きたまま巣に運ばれていくような心境だったんだぞ!!」


「そ、そうか…」


控えめな返答しかできないまま、トモの話を聞いていると…


(っ!!!)


感じたことのある…ていうかついさっき感じたばかりのオーラをトモの背後に感じ、目を向けると…


「…………」


俯いたまま、微動だにせず佇んでいる友里那がいた。

俯いていて表情が分からないのが、俺の恐怖にさらに拍車をかける。


だがトモは気づいていないようで、



「アイツの荒々しさがお前に分かるか!俺はあのゴリラのような力を見せつけられながら、知らないことを話せと言われたんだぞ!あの全身筋肉…俺が女の子に手を出さないことをいいことに…俺はアイツが本当に女なのか最近怪しく思ってるぜ…」


俺への説教がいつの間にか友里那への悪口にかわっているのだが、これは非常にまずい!


友里那は未だ俯いたまま…肩を震わせている。



クラスのみんなはコッチに目を向けて、俺達の行く末をハラハラと見守っている。


(夢菜ぁぁぁああ!!)


目で必死に夢菜に助けを求めるが…


(わ、私にも無理だよぉ!)


夢菜も冷や汗をかきながら首を横に振る。


「ホント…神様が生まれさせるときに性別を間違えたんじゃ…って、聞いてるのかリョウ!」


「あ、ああ聞いてるよ…」


未だ気づかないトモ…なんとかしないと…


「トモ!ホントに俺が悪かった!!許してくれ!そしてこの話を終わりにしよう!!??な!!」


とにかく…まずトモの口が開くのを止めさせないと…


「いや!!リョウはまだアイツの恐ろしさを分かっていない!!」


話題が完全にかわっているが、トモの口は止まりそうにない。


マシンガントークとはこのことか…と内心焦りながら思う。


すると、友里那が俯いたまま両手を大きく振りかぶった。


その両手にあるのは…丸められた資料集。


もう…ダメだ…


せめてトモが防いでくれることを祈って…


「トモ!!後ろ!!」


……この言葉がいけなかった。


「へ?」


「死ねぇぇぇええ!!」


トモが振り返った瞬間、友里那が振りかぶった資料集を思いっきり横に薙いだ。


ドパァン!!


「みょら"っ!!」




叩いたとは思えないほど激しい音とともに、トモが吹っ飛んだ。


友里那は床に倒れたトモを見下し、フンと鼻を鳴らすと…こちらをお向きになった。


「リョウ…」


「は、はい!!」


「次の休み時間…聞かせなさい…」


「サーイエッサー!!」


あまりの恐ろしさに頷くしかできなかった俺の返事を聞くと、友里那は頷いて自分の席についた。


そして俺は…


「親友よ…」


倒れ伏した親友に手を合わせて黙祷したあと、その身体を抱え、椅子に座らせた。


そして俺も自分の席につき、


(親友よ…安らかに眠れ…)


そう思ったところで、五時限目開始のチャイムが鳴り響いた。



~~~~~~~



「はぁ~…」


昼休みのことを思い出し、もう一度ため息を吐く。


結局、その後の休み時間にトモ、友里那、夢菜に、ミリアとの出来事の一連を語った。


…そういえば、ミリアの容姿や名前、神学に入ることを話したときに



~~~~~~~



「赤い髪に紅い目…」


「ウチに入る…一年生」


「…?どうかしたか?二人とも」


「い、いや…何でもないわよ!ねぇ!?」


「お、おう!ただちょっと髪と目の色がかわってるな…って思っただけだ!」


「…?そうか…?」


「それにしても…女の子…しかも美少女…く~!楽しみだぜ!早く入ってこねぇかな!!」


「二、三日中にくるでしょ…でも、私達のクラスに入るとは限らないでしょ?」


「いいんだよ!例え他クラスだろうが…使える時間全て使って会いに行くんだから!!」


「…ストーカーの完成ね…」



~~~~~~~



トモと友里那が一瞬真剣な表情をしていたのが気になるな…。


「ま、いいか…」


考え過ぎだな…そう思い直して椅子から立ち上がり、帰りの用意が出来たカバンを持ち、校舎玄関に一人で向かう。


夢菜と夢乃は部活で、トモはいつもどおりどこぞの女子の手伝い、友里那は…あの昼休みの怒りようからして、奢ってくれるという話しは無しに…


「あ、きたきた、遅いわよ!もう!」


「……え?」


なったと思っていた。


「ん、なに呆けてんのよ?」


「いや…帰ったんじゃなかったのか?」


先に教室出たみたいだし。


「はぁ?あんたバカ?朝に放課後奢ってあげるって言ったじゃない」


「い、いやでも…昼休みすごい怒ってたじゃん…」


「そ、それはそうだけど…約束は約束でしょ…」


それに、と続ける


「アンタも、女の子を助けるためとはいえ、不良相手に頑張ったみたいだしね…ご褒美よ!」


少し顔を赤らめて友里那が言う。


俺は…


「あ、ありがとな!友里那!」


友里那のあまりの慈悲深さに感極まって、その両肩に手を置き、涙目になりながら笑顔でお礼を言った。


「だ、だから仕方なくだって…ああもう!早く行くわよ!」


友里那は少し俯いたと思ったら、赤い顔を上げて大声を出す。


「ああ、行こう!…て友里那…顔赤いけど…風邪か?」


「な、なな、なんでもないわよ!バカ!」


心配して顔を近づけたら怒られてしまった。

何故…?



※※※※※※※



とりあえず靴を履いて校舎玄関を出て、校門へ向かう。


「それにしても…よく四人相手に一人で…」


「友里那んときよりは少ないぞ?」


呆れている友里那に言葉を返す。

コイツんときは二十人くらいいたしな…。


「でも、あのときはトモも一緒だったでしょ?」


「まあな…」


「一人で四人、二人で二十人、どっちにしても凄いわよ…」


「ま、一応『神野流武術』も体得してるしな…」


「『ケンカ術』の間違いでしょ…けど、まぁね…」


適当にだべりながら校門を抜ける。


すると、


「おい、そこの坊主」


「はい?」


声をかけられたと思い、反射的に振り向くと…


「おい、こいつか?」


「間違いないっス!ハイ!」


「俺達の仲間が随分と世話んなったみたいだな…ボウズ…」

いかついお兄さん達がこっちを睨みつけていた。


どう見ても不良です本当にありがとうございました。

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