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第三話

◆竜矢side◆




タッタッタッ!


「はっ…、はっ…」


俺は今ひたすらに先程通ったばかりの商店街を走り抜けている。


今、商店街は神学の制服を着た生徒達が沢山歩いていて、ぶつからないように気を付けながらも全力で走る。


「はっ…ちくしょう!…星座占い…はっ…しっかり当たってやがる!…ふざけやがって!…」


特に何の罪もないテレビの星座占いに八つ当たりする。


だがそうしなければやってられないほどに、今日俺は疲労している。


夢菜の剛力の拳で起こされ、親友を引きずり、そして今、忘れ物を取りに家まで全力疾走。


信じないと決めていた星座占いは、俺を嘲笑うが如くの的中率を見せていた。


それはまさに…


「ラッキーアイテム…ビー玉か…確か机のあの中に……」


今一人の学生(俺だぜ)をアンチ・星座占いから脱却させる程の的中率だった。


※※※※※※


「着いた…!」


商店街を抜け人が全然いない道を更に全力で走り抜け、家に着く。


ポストの中にある鍵を取り出し、靴を放り出し、自室に駆け上がる。


「資料集は…確か…」


そう言いながら机の引き出しの一番下を開ける。


すると、ものの数秒で、他の教科書より一際大きく厚い本が目に留まる。


「これだ」


俺は資料集を引き出した。


あとは…


微かな記憶を頼りに、引き出しの下から三番目を開け、奥に手を入れる…


カチャ…


あった…指に触れた固い物体を引き出す。


それは縦横十センチ、高さ四センチくらいのプラスチックの透明な箱で、中にはビー玉やおはじき、コマなどがジャラジャラと入っている。


これは俺が幼稚園ぐらいの頃に何となく集めていたものだ。


ほら、小さい頃って、キラキラしたビー玉とかおはじきとか、無性に欲しかっただろ。


………俺だけですよね。サーセン…。


…とにかく、俺が集めてたもので、捨てる理由もないし、特に邪魔なわけでもないので今まで机の中で眠らせていた。


十年振りぐらいに取り出して、かなりの懐かしさを感じながらも、箱の蓋…広い面の片側を開ける。


「…あれ?」

箱の中にはいくつかのビー玉があるが、大玉とか親玉とかいう、通常のサイズより二回り程大きいビー玉しかない。


「…まぁ、いいか…これもビー玉だし…」


少し気になったが、時間もないので大玉を一つ取る。


ビー玉のガラスの手触りにも懐かしさを感じながら、学ランのポケットに滑り込ませる。


「お守り代わりだ…」


ポケットに微かな重みを感じると同時にそう呟くと、引き出しを閉め資料集をひっつかみ、学校に戻るために部屋を飛び出した。


※※※※※※


そして俺は再び全力疾走をしていた。


家を出る直前に見た時計が指していた時間は八時三十分…


神学は八時半に着席で、三十五分に教師が来てホームルーム開始だ。


ホームルームには遅刻だが…これなら一時限開始にはギリギリ間に合う…!


俺は速度を維持しつつ、すっかり人が少なくなり通り易くなった商店街を走りながら、心中で安堵する。


(いやったぁ~!これで沢田対策はバッチリ成績もキープ!!これなら俺の未来は明るい!!(主に小遣い方面で))


そんな意気揚々としている俺の耳に…



「…ゃめてください!…」




悲鳴のような声が…微かに…聞こえたのは、奇跡だったかもしれない…





「……ん?」


俺は耳に届いた微かな声に、思わず足を止める。


今走っていたのはこの商店街の中で、カラオケやゲーセンなど、いわゆる娯楽施設がある区画だ。


今はゲーセンはさすがに閉まっているが、休日や放課後の時間帯は沢山の神学の生徒達がこの区画で遊んでいる。


…無論、生徒達以外にも、素行の極めて悪い方々…簡単に言えば不良さん達もたむろっている。


路地裏なんかも結構あって、たまに警察が出る程の喧嘩が起きることもあり、神学の生徒達が巻き込まれたこともある。


まぁつまり、何が言いたいかと言うと、この区画は商店街の中では一番治安が悪い。


そんな場所を通っているときに、微かに聞こえた声…


…正直…イヤな予感しかしない…



でも…



「…イヤ!」



「っ…!」



小さい…しかし今度ははっきり聞こえた…女性の声


その声が聞こえると同時に、俺は今来た道を辿り出した。


…『声が聞こえた』んだから、何もしない訳にはいかないだろ



…それに…


(…ここで知らんぷりして学校行ったら…親友に殺されちまうよ…)




※※※※※※



(三人…武器はなし…か?)


辿り始めてすぐの路地裏で、こちらに背を向けている方々を見つけた。


今は顔を半分出して路地裏を覗き、状況確認。


今不良は見える位置に三人、女性…女の子…?は不良達の体で見えない。


女性が逃げない…または逃げられない様子からして…こっちから三人の背が見えてるって言うことは、多分挟み撃ちの形で…奥にも一人か二人…計四、五人と仮定しておくのが良いだろう。


(五人で…武器なし…イケるな)


これで武器有りだったらきつかっただろうが…、と付け足す。


その時、背を向けていた三人のうち中央の男…不良Aでいいや…が大声をあげた。


「ぐだぐだうっせぇな!そんな髪しててカラコンまでしやがってるくせに遊んでねぇハズねぇだろ!!」


「そ、そんなことないです!」


「いいから、俺達と楽しもうぜベッ!!」


大声を上げていた不良Aの股間を背後から思いっきり蹴り上げて悶絶させさらに右手でそいつの脇腹を全力で殴りつける。


これで気絶したろ。

わざわざ『何やってんだ!?』とか『乱暴は止めろ!!』なんて言いながら飛び出して行く必要はない。


不意打ちをかまして出来るだけ無抵抗のうちに沈めたほうが楽だ。


すぐに視線を残りの不良共に向ける。


…今中央は沈めたから、残りは左(B)右(C)と…女の子の奥に一人(D)…四人だったか。


あまりに突然の出来事に唖然としていた不良Cの顔面にも右手を叩きつけ、よろめいたところに蹴りをいれて壁に叩きつけた。次に、男達と共に唖然としていた女の子を素早く自分の体の後ろに隠し、残りの二人に目を向ける。


「な、なんだテメエは!?どういうつもりだ!?」


やっと今の状況に脳が追いついたのか、不良Bが焦りを隠すことなく聞いてくる。


「そりゃこっちのセリフだ。女の子一人に四人がかりで何やってんだ?」


女の子も状況を理解したのか、俺の服を握りしめている。


……悪くないけど、少し動きづらいな…


「う、うるせえ!クソガキがぁぁ!!」


見た感じあんたらと二つ三つしか違わないんだけど…と思いながら、左手に持っていた資料集をそのまま左手に乗せて縦に構えて、殴りかかって来た不良Bの拳を防ぐ。


「ぐっ…」


男の顔が苦痛に歪む。


資料集は分厚いからな…ダメージの殆どが男の拳にいったろ。


資料集が落ちたが、気にせずに怯んだ男の鳩尾に全力で一発。

男は崩れ落ちた。


「くっ…」


あっという間に一人になり、明らかに動揺する奥の男を見る。


「うっ…」


「今なら見逃してやるけど?」


そう言うと男は気絶している三人に目を巡らせ、またこっちに戻して


「う…」


そう呻くと男は、かなわないと思ったのか脱兎の如く逃げ出…


「う…ち、ちくしょおがぁぁ!!」


…しませんよねそりゃあ~…逃げた方が賢明なのに…まぁ逃げたら散った仲間に顔向けできねぇもんな~。


右から顔目掛けてきたハイキックを、しゃがんで避け、振り上げた足が頭上を通り過ぎた直後、すぐに間合いを詰め、やはり鳩尾に一発…


「ぐ…」


「…?」


手応えがイマイチだな。

……後ろに飛んで衝撃を減らしたか。


だが、片足を上げた状態でのバックステップじゃあ効果はイマイチだったみたいだな。


不良Dは膝をつき腹を抱えて、苦しそうにこっちを睨んでいる。


「てめえ…俺達に手を出しやがって…神学の制服…顔を覚えたからな…ぜってーぶっ殺してやる…」


そう言った途端に、男は腹を抱えながら立ち上がり…奥へと逃げていった。


……お仲間は持っていって欲しかった…。


「あの…」


三人以上を相手に喧嘩したのは久しぶりだな…なんて事を考えていたら、後ろから声が聞こえ…


「あ、ああ……大丈夫だった?」


振り向いて、改めて女の子をよく見てみる。


…赤い髪だ


先ほどはよく見ずに後ろに隠してしまったが、改めて見ると少し暗めで、背中の中ほどまである赤い髪と、透き通るように紅い瞳…可愛いと言うより綺麗と言う方が相応しい顔立ちをしている…


さらにスタイルも良くて、不良が襲おうとしたのが分かる程の…かなりの美少女だ…


「あの…助けていただいて、ありがとうございました」


と、観察していたらいきなり頭を下げられた。


「いや、別に大したことじゃないけど」


でも…と続ける


「運が悪かったな…朝から不良に絡まれるなんて」


未だ気絶している不良達に眼を走らせながら言う。


すると彼女は俯いて


「私…コッチに来たばかりで…これから暮らしていくからと町の中を見て回っていたら…さっきの人達が来て…案内してくれるって言うから…」


俯く少女の肩が震えてるのが分かったが、かけるべき上手い言葉が見当たらない…


トモだったら上手く元気づけられるんだろうな…と思いながらも、言葉が見つからない俺は取りあえず…


「あ……」


少女の頭をゆっくり撫でた。これが傷付いている人を落ち着かせる、一番の方法だと…知っているから…


「………」


「………」


暫く何も言わずに撫で続け、俺達の間に無言の時間が流れる…


震えが止まり、少女が落ち着いたのを見計らって手を放す。


「あ…」


「もう、大丈夫か…?」


「は、はい…あの、重ね重ねありがとうございます」


「いいって、このくらい」


また頭を下げる少女に軽く言う。


頭を下げる前に少女の顔が赤らんでいたが、気にしないことにする。



そして、ふと気になった質問をする。


「そう言えば、コッチに来たばっかり…って言ってたよな?」


「はい…」


「学校は、どこに通うの?」


見た感じ同じくらいの歳だ。


この辺にある高校は、我らが神学と、少し離れたところに県立が一校。


もちろん県立高校の可能性もあるが、もしかしたら…


「えっと…神上学園の、一学年に編入します」


ビンゴ


「そっか、じゃあ同じ学校だな、学年も」


「え…本当ですか!?」


一瞬驚いた顔をした少女は、すぐに表情を嬉しそうなものに変える。


「ああ、これ神学の制服だし」


そう言って自分の服を指差す。


「そうなんですか……やった」


「え?何?」


「い、いえ!何でもないです!」


「?…そう?」


何か言った気がするけど…まあいいや。


「じゃあ、同じクラスになれるといいな」


「…はい」


俺が言って微笑むと、少女は顔を赤くして返事をする。


………は!?まさか…これがちまたで噂の…ナデポ!?


………すいませんウソです調子に乗りすぎましたハイ。


俺は自分で思ったことに、自己嫌悪しながら…先程の喧嘩で落とした資料集を拾い上げ…


………資料集?



……………あ


「ああ~~~~!!」


「っ!!」


突然の大声に少女は驚いたが、それを気にかけている場合ではなかった。


(ち、遅刻だ~~~!!成績が!!小遣いがぁ~!!)


「あの…「ごめん!俺行かないと!」…は、はい…」


躊躇いがちに話しかけてきた少女に言葉を被せて言う。


「じゃあ!今度は学校で会おうな!」


そう言ってすぐに学校に向かって走り「あの!」…出そうとした。


「わ、私の名前…ミリア…ミリア・セルータです!」


「ああ、俺は竜矢、小守竜矢…じゃっ!」


「……え?」


名乗ると同時に走り出していた俺は、名乗った後の少女の呆然とした顔を見てはいなかった。

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