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第二話

◆竜矢side◆




「そういや、夢乃はもうクラスに馴染んだか?」


学校への道の途中で、ふと気になったことを聞いてみる。


俺達は今通ってる学校、『神上しんじょう学園』略して神学に入学してまだ二週間とちょっとしか経っていない、ピチピチの新入生だ。


・・・自分で言って激しく気持ち悪いと思った。


で、俺は夢菜とは同じクラスの『1-B』だが(クラスは1学年A~Gの7クラスで1クラス約40人で、全校生徒は800人を越える)、夢乃は『1ーD』で、俺達とは違うクラスだ。


夢乃はクラスで大人しいタイプなので上手く馴染めるか少し不安なのだが…


「うん!クラスの女の子達みんな良い人達だよ!中学の頃からの友達もいるし、新しい友達も出来たよ!」


…杞憂だったみたいだな。


「私は出来れば夢乃ちゃんと同じクラスが良かったな…リョウなんかより…」


「双子は名前とか顔がややこしいからしょうがないわな。あと最後のセリフ小声だけどしっかり聞こえてるぞ」


「ああごめんごめん!つい本音が…」


笑顔で言われた。仕返ししとくか。


「俺も大和撫子を絵に描いたような日本の素晴らしい女性の代表格である夢乃と同じクラスがよかったよ…がさつで乱暴で猪突猛進を擬人化したような暴走女の夢菜より」


「リョウ~…ど~ゆ~意味かな?」


夢菜が凍った笑顔のまま聞いてくる。額に青筋立ってますわよ奥さん。これで止めだ。


「ああ悪い、つい本音が…でも太陽が東から昇って西に沈んだり、物体が重力に従って下に落ちるくらいに当たり前な真実だからしょうがないよな…」


わざとらしく肩を竦めながら言ってやる。


「リョ~ウ~…喧嘩売ってると捉えていいんだよね…?」


声を震えわせながら言う夢菜。まさに一触即発の場面だが、ここで読み通り天の声がかかる。


「まあまあ、夢菜ちゃん、暴れちゃだめだよ?」


よし!天の声…もとい夢乃が夢菜の背中をさすりながら怒りを宥める。


「うぅ~…夢乃ちゃん…リョウがいじめる~!」


夢菜は夢乃に抱きついて俺を完璧な悪者にした。


夢乃は夢菜の頭をよしよしと撫でながらこっちに顔を…ほんの少しばかり怒気を孕んだ瞳を向けた。


「もう、リョウ君!夢菜ちゃんは女の子なんだから、あんまりがさつだとか言っちゃだめだよ!」


「あ、ああ、悪い…」


いつもより少しキツい言い方に思わず怯みながらも謝る。


しかし俺はその時夢菜が、夢乃に気づかれないようにコッチを見ながらニヤリと笑ったのを見逃さなかった。


ちくしょう。


※※※※※※


俺達が通学路になっている商店街の手前まで来たときに、後ろから声がかかった。


「おはよう!夢乃ちゃん夢菜ちゃん!そしてそこの憎きリア充!爆発しろ!」


「朝っぱらから御挨拶だな…トモ」


呆れながら声の方に振り向く。そこに立っていたのは悔しそうに怒った顔をした…イケメンだった。


「朝から可愛い女の子を二人も引き連れて登校…どこのギャルゲーだちくしょう!羨ましいすぎて憎たらしいわ!」


イケメンはそう言って怒り顔のままズカズカと俺に歩み寄ってくる…が、ここで…


「おはよー!トモ!」


「おはよう、飯田君!」


二人が挨拶を返すと、イケメンは表情一転、嬉しそうに顔が緩んだ。


このイケメンは、『飯田いいだ知輝ともき』あだ名はトモ。俺の幼稚園からの親友で、小中高と全て一緒の学校だ。成績も悪くなく、運動は結構できて、目にかからない程度の長さの黒髪に釣り眼がクールな雰囲気を醸し出す結構なイケメンと、モテ要素はあるのだが、女好きだ。


と言っても、遊び人という訳ではなく、コイツは自称『全世界の女の子の味方』とのたまっていて、女の子が関わっているトラブルに突っ込んでは、女の子側に味方して奮闘している。


ちなみにコイツは告白されても、『俺は女の子みんなに平等でありたいから』などと、告白した側からすればふざけていることこの上ない理由で断っているので彼女もいない。


「俺は彼女がいないんじゃない!つくらないんだ!」


「紹介に突っ込んでくるな!」


・・・まぁ、こんな奴でも根はいい奴だし、何だかんだで気が合う、俺にとっては唯一無二の親友だな。


「ふ、今日も夢乃ちゃんと夢菜ちゃんに免じて許してやる…命拾いしたな…リョウ」


俺…何かした?


「あ~はいはい、ありがとうございました~」


疑問に思ったがここでそんなことを聞くとトモは怒り出すので、適当に流す。


「さて、じゃあ行こ~ぜ」


挨拶をしたまま立ち止まっていたので、トモが言いながら歩き出したのにつづいて歩き始めると…


「ちょっと!待ちなさいよ!」



ビュッ!ドガッ!


「ひでぶ!」


誰が聞いても怒っていると分かる声が聞こえたかと思うと、次の瞬間何か黒い物体が俺の顔を掠めて、歩き出していたトモの後頭部に直撃。


トモは有名なセリフとともにうつ伏せに倒れ込んだ。


「このバカ…夢菜と夢乃を見つけた瞬間に走り出して…」


そう言いながら俺の横を通り過ぎ、トモの後頭部に乗っている物体…もとい鞄を拾い上げた人物に俺たちは挨拶をする。


「おはよう友里那、さすがに容赦ないな…」


「おはようリョウ、まぁね」


「おはようユリ!」


「伊勢さんおはよう」


「うん、おはよう2人とも!」


こいつは、『伊勢いせ友里那ゆりな』。茶髪を短めのポニーテールにしていて、夢乃程ではないが綺麗な白めの肌、トモ程ではないが釣り眼で、クールというより、強気な印象を受ける。まぁ印象どおり男勝りな性格だが美少女だ。


友里那は中学の時にトモの家の隣に引っ越して来た。


幼い時からトモと知り合いだったらしく、自然と俺達と話す機会が多かった。


がしかし、なぜか最初のほうは俺への態度が凄く冷たくて(夢乃達とはすぐに打ち解けていた)、話しづらかったのだが、ある事件…まぁ端的に言えばヤンキーに絡まれているところを助けただけなのだが…から少しずつ打ち解けていった。


ちなみに俺が友里那を名前で呼んでいるのは、事件の後友里那本人から呼んでいいと言われたからだ。(つーか、呼べと言われた)



「…いってぇだろ!バカユリ!」


とここで倒れ伏していたトモ復活。


女の子には基本優しいトモも、友里那に対してはさっきのように素の態度で接する。


…それだけ親しい間柄…のはずだが…


「うっさいわね!だいたいあんたが夢乃達を見つけた途端に赤いマントに突進する闘牛みたいに走り出したんでしょ!」


二人は一緒に登校することが多く(だいたい途中で俺達と合流するが)、仲を疑われたこともあるが、本人達曰わく『腐れ縁』らしく、そういった感情は一切ないらしい。


「そりゃお前みたいな奴より夢乃ちゃんと夢菜ちゃんが一秒でも長く視界に入ってたほうが何百倍と嬉しいからな」


「それは…ど~ゆ~意味…?」


静かな声で問いかける友里那。


あ…トモ…オワタ…


「お前『なんか』より夢乃ちゃん達のがずっと可愛い!!」


笑顔でサムズアップするトモに…友里那は鞄を降りかぶり…


ゴシャ!!



「ひでぶ!」


…トモの顔面にぶつかったのは、間違いなく友里那にとって最高の一撃だった。


「さ、行きましょう。」


「あの、飯田君は…?」


歩き出した友里那に、地面に横たわり青空を仰いでるトモを心配して、夢乃が聞く。


「いいわよ、そんなバカ放っといて」


「え…でも…」


そう言い淀む夢乃に、夢菜が笑顔で…


「大丈夫!リョウが何とかするから!」


……俺?


「そうそう、リョウはコイツの親友だから、何とかしてくれるでしょ!」


同調する友里那…


「だから安心して行こ?夢乃ちゃん」


お前ら…


「そう…かな?じゃあリョウ君…お願いね?」


ぐっ…夢乃は二人と違い悪気がない。しかもこんな美少女に柔らかい笑顔で頼まれて断るなんてことできるか?いやできない。(反語)


んで結局…


「あ、ああ。分かった。」


俺はそう言って頷き、倒れてるトモに近づいて、首が締まらないように学ランのボタンを2つ程外した後に、後ろ襟を掴んで引きずりだす。


…気絶したトモの運び方だ。


以前に同じようなことがあったとき、夢乃が置いていくのは可哀想と言って行くのを躊躇っていた際に、友里那が発案して俺が実行したやり方だ。


夢乃は最初、この運び方に対して不安そうな顔をしていたが、今はもう慣れたのか、苦笑いで済んでいる。


「さて、行くか」


そう呟き、あれぐらいの威力なら目覚めるのに五分ぐらい掛かりそうだな…と思いながら、のんびりと歩き出した。



左手に鞄、右手に人間を持っている俺は毎度道行く人に奇異の目で見られるが…気にしたら負けだと思っている。




※※※※※※※※






「あ~~~…いってぇ~…頭がグラグラするわ~」


「そりゃ災難だったな。可哀想に」


気絶したトモを引きずり歩き始めてから数分、寝言を言っていたバカ(トモ)の意識を、掴んでいた襟首を放して頭を地面に落とすことで覚醒させた。


今は女子組とは少し距離を置き、二人並んで歩いている。


「なんで他人ごとなんだよ!?だいたいこの頭の痛みはリョウに落とされたせいだろ!」


「え~…だって親友のよしみで苦労して運んでるときに、『うぅん…あと5分』なんて言葉が聞こえたら、怒りと気持ち悪さで頭をコンクリに落とすのもやぶさかじゃないだろ?」


「だからってもっと起こし方ってもんがあるだろ?ヘタすりゃ俺死んでんぞ?」


「大丈夫だよ。毎回友里那の凶悪な一撃をくらってもピンピンしてるんだから。あの程度なんてことないだろ?」


俺がそう言うとトモはため息を吐く。


「…リョウ…お前…俺があいつから攻撃をくらう度に『気絶』してるってこと…忘れてねーよな?」


「ああ、俺が運んでるんだぜ?当たり前だろ」


「…お前は気絶している人間を見て『ピンピンしてる』と思うか?」


「いや、『気絶してるな~』とは思う」


「そうだろ?つまりだ!俺は気絶という回復時間を経て立ってんだよ!」


「でもお前、俺が頭落としたときは普通に立ち上がったろ?」


まあ身悶えてたけど…


「あれが普通に立ち上がったように見えたなら眼科に行くことをオススメする」


「分かったよ、トモは別に頑丈ではなくて、友里那の凶悪な攻撃を喰らって無様に倒れ伏した際には、気絶して回復する時間を設けて立ち上がる至って平々凡々な人間だと、そうゆうことだな」


「少し気になる言い方があったが…まぁそうだ」


ここで俺は、まだ何か言いたげだがとりあえず納得したような顔をしているトモに確信を持って言い放つ。


「でもトモ、お前…今日は寝てただろ?」


「うっ…なぜ言い切れる?」


目に見えて動揺するトモ。それじゃあ自分から白状してるようなものなのだが…


「簡単なことだ…お前は気絶から覚めた時は絶対に『俺は…一体…』などと微妙に厨二的発言をするからな!」


「な、なんだって---!?」


明らかにオーバーなリアクションをするトモ。てか気づいてなかったんかい…。


「それに、あんな寝言の代表格とも言えるベタな言葉が聞こえたら、誰でも寝てると思うだろ…」


「う…すまん!昨日は寝不足でつい…」


済まなそうな顔をして謝るトモ、てか『つい』ってなんだよ…。


「いや、別にそんな怒ってないけどよ…俺は朝から疲れたぞ」


ふと、今朝のアレが脳裏に浮かぶ…


『~今日の最下位は蟹座のあなた~ ~今日は疲れっぱなしの一日になるかも~』


…………まさかな。


そう思い直し心の中で首を振っていた俺は、トモの声で意識が戻る。


「それは、アレだ…今日一、二時限と現社(現代社会)だから、充分寝られるだろ?」


「ま…そうだけどな」


現社を担当している教師の沢田は、授業の始めにクラス全員の授業用意の忘れ物をチェックするが、そのあとは生徒のほうをほとんど見ずに、教科書と黒板だけを見ているので、基本寝たり、机の下で携帯をいじっていてもばれることはない。


ちなみに俺は基本しっかり授業を受けるが、基本睡魔には抗わないので(授業にもよるが)、眠いときはしっかりと寝る。


……無論、なるべくバレないように…


「そうだろ!?沢田なら寝てても大丈夫だしな」


「忘れ物をしなければな…」


先ほども言ったが、沢田は授業中も生徒に関心はないのでやりたい放題だ…だがしかし、その分授業の始めの忘れ物チェックで授業態度の成績をつけている(らしい)。


なので、現社のテストでの成績が芳しくない者(俺含む)は、忘れ物だけはしないように心掛けている。


しかし、そんな俺にトモは威力最大の爆弾を投下してくる…


「大丈夫だろ?今日だっていつもの用意(教科書、ノート)に…『資料集』が必要なぐらいだしな」



…………………ゑ?


「悪い、何だって?」


思わず聞き返す俺に、トモが不思議そうな顔をして、変わらない答えを述べる…


「ん?だからいつものにプラス資料集だよ。前に次の授業で使うって言ってたろ?」


………オーケー…情報を整理しよう…俺は基本授業で使ったことのある教材はロッカーに置きっぱなしだ(宿題は別だが)。


だから基本忘れ物はない…だが!資料集は使うのは今日が初めてだ。


つまり今資料集は俺の部屋の机の中に鎮座しておられる。


以上のことが導き出す答えとは…



「資料集………忘れた…」



「………マジ?」


前述のとおり、俺は現社(というか全ての教科)でのテストの成績はヤバい(さすがに赤点はないが)。


だからこそその分、授業の用意や宿題を完璧にして(宿題は夢乃やトモに教えてもらったりしているが)、何とか真由子さんも納得する成績を維持している。


だから俺は忘れ物をしないよう確認は怠らなかったのだが……


油断した…前回の授業を寝ていた俺にとって、今日資料集が必要などとは、宇宙の心理の如く知りえないことだった。


呆然とする俺に、トモが追い討ちをかける。


「今日…二時限連続だから、二時限分マイナスくらうよな」


そんな事は確実に避けねばならない…今だって真由子さんには『なんとか』のレベルで納得してもらっているのだ。


これ以上成績が下がろうものなら、俺のこれからの生活(主に小遣い方面)に多大な支障がでることが分かりきっている。


「誰か他クラスで持って来てる奴…いないか?」


「分からん…ただ前回、沢田はウチのクラスが授業が一番進んでるって言ってたからな…多分持って来てる奴は殆どいないと思う。」


俺が縋る最後の柱は、トモの辛辣な言葉によって脆くも崩れ去る。


さっきから立ち止まっている俺の目の前には、もう我らが神学の校門が見えている。



……こうなったら…。


「トモ…今…何分だ…?」


トモはこの一言で全てを悟ったのか、静かに口を開く。


「八時二十五分だ…お前の家までなら…走れば…一時限目にはギリギリ間に合う…」


俺は覚悟を決める。


親友ともよ…コイツを…頼めるか?」


そう言い俺が差し出した鞄を、親友トモはしっかり握りしめた。


「任せろ…親友ともよ…」


重厚で信頼できるその言葉を聞き、俺は親友に背を向けた。


「「我が親友ともよ」」


「地獄の鐘が鳴り響く前に…(チャイムです)」


「神が俺達を別つ(わかつ)前に…(教師です)」



「「また会おう!」」


そう言い放ち、俺は全速力で家へと走り出した。




◇竜矢side out◇




◆知輝side◆




「「また会おう!」」


そう言って俺は、走り出した親友の背を見えなくなるまで見届けた。


「絶対…戻って来いよ…!」


そう呟き、俺は校舎に向かって歩き出し…


「あ~ヤッベー!現社の資料集忘れた!」


「マジ?あ、でも確か社会科準備室に予備の教科書とか資料集何冊か置いてあるぜ?」


「あ、マジ?じゃあ先生に言えば借りられんの?」


「て言うか社会科の準備室って鍵掛かってないから、勝手に借りても平気だよ。バレなきゃ忘れ物扱いにならねえしな」


「ウソマジ!ラッキー!」


…………………。


「絶対に…戻って来いよ…」


校舎に歩き出した俺は…もう一度呟かずにはいられなかった。

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