第十九話
◆ロイルside◆
(なんてぇ密度だ…ありゃあ…)
リョウの奴が倒れたのは確実に魔力の暴発だ…それは分かる。
暴発はどんなに魔法の才能のある奴でも十人に一人くらいは起こりうる、さして珍しいことでもねぇ…だから暴発したくらいじゃそんな驚きはしねぇ…
今回もそのはずだったんだが…状況が違う…
リョウの中に流れる魔力…その密度が…尋常じゃねぇ…まだ放出もされてねぇ魔力を本人以外がこれだけ感じられるなんざ…異常だ。
魔力がこの部屋に感じられないっつうことは『操作』の段階で暴発したんだろう…
操作で暴発した時の対処法…それは他の奴が暴発した奴の体に触れ、自分の魔力と相手の魔力を少し交換することだ。
そうすりゃあ、自分の魔力が暴発している相手の魔力の流れを阻害してくれるからだ。
(…しかし…)
それはあくまでも普通の奴が暴発した時の対処法…リョウには通用しねぇ…あんな密度の魔力が少しでも流れ込んだりしたら、俺達がどうにかなっちまう…!
…ただ一つ幸いだったのが…『あの魔力』が暴走した訳じゃないことだな…今のリョウの魔力の密度は異常だが、魔力自体に嫌な感じはしねぇ…
だけどやべえことには変わりねぇ…クソ!どうすりゃあ……
「おい!!!」
うお!?
「へばってんじゃねぇ!!立てよ!!リョウ!!」
トモ…
「リョウ!!気張れ!!大人しく死ぬ玉じゃねぇだろお前は!!」
(…んだよ)
…リョウに駆け寄らず、心配もせず…ただ怒鳴りつけやがって…
(何を落ち込んでたのか知らねぇけど…やっぱお前らは大親友だよ…)
ただ身を案じてただけの俺と違って…それだけ…リョウを信じてやれてんだからな…
そして…トモの叱咤が届いたのだろう…リョウが動いた。
(リョウ…意識が戻ったか…今がチャンスだ…!)
「リョウ!!最終段階に入れ!!」
「ちぃと手荒だがしょうがねぇ!!そのままでいたらマジに吹っ飛ぶぞ!!」
(あれが普通の魔力だとしたら、密度が高いっつうことは大概において、魔法の才能があることが多い…それなら…暴発しても意識を強く持てば、放出もできる!)
「ビビんな!迷うな!バシッと決めろ!」
『トモとユリナが今まで背負っていたこと…これからは俺も一緒に背負い込みますよ』
(あの言葉…ウソにすんなよ…!!)
◇ロイルside◇ out
◆リョウヤside◆
ドクン…!
(くっ…)
魔力の放出…魔力を…引いては魔法を扱えるようになるための最後の段階…
体を流れる魔力を一時的に止めて、体の外に魔力を流し出す技。
本来ならそう難しい技ではなく、操作が出来れば楽に出来る技なんだけど…
(今の俺には…学校の試験より…辛いな…)
ドクン…!
(今は…魔力の流れを…どうにかしねぇと…)
意識をどう持っていっても、魔力の流れは変わらない…『止まれ』と意識しても、それを無視して流れ続ける。
(何か…何かないか!?…自分の意識で止めるのが無理なら、止まらざるえない状態にするしかないんだ…)
ドクン…!
魔力が意識を散らそうとする中、必死に思考を巡らせる。
(思考を止めるな…考えろ…ロイルさんの説明に何か…何かヒントはなかったか…?)
『移動させる魔力が多すぎたり、移動する速さが遅かったりして、魔力が停滞し過ぎると暴発するからな』
(…!それだ!!)
思い立った俺は直ぐに、心臓に留めてあった魔力を…全身に送った。
ドクン…!!ドクン…!!
(ぐぁ…う…)
頭が…体は蒸発しそうになるが、構わず…心臓に魔力を残さない勢いで全身へと送る。
(魔力を止めることが出来ないんなら、動きを鈍くすればいいんだ)
それは…考えれば直ぐに分かること…流れる魔力は少ない時の方が操り易い…が、暴発して制御が不能になれば、魔力の量なんて関係ないんだ。
それなら、逆に自分の中を魔力で一杯にする…自分の中に流せる限界の量の魔力を流す…そうすれば、ぎゅうぎゅう詰めの魔力が、体内で暴れることが難しくなる。
(その隙に…放出を…!!)
ドクン…!!ドクン…!!
(まだだ…もっと…引き出すんだ…)
ドクン!!ドクン!!
(まだ…まだ…もっと…)
ドクン!!ドクン!!ドクン!!
(まだ…だ…)
意識が飛びそうになっても構わずに魔力を流し続ける…
そして…
ドクン!!ドクン!!ド…クン!
(…!!今だ!!)
一瞬…確かに感じた…魔力が詰まったのを…!!
イメージは体の内から外へと、魔力が体をすり抜けながら爆発するイメージ!!
「あああぁぁぁぁ!!」
(イメージを強く!強く!強く!!)
ドクン!!ドクン!!
(魔力を…外へ!!)
ドクン!!!!ゴウ!!!
(……成功…か)
体から…力が、熱が出て行くのを感じる。
ギュッと閉じていた目を開くと、体から出ている魔力が周りの景色を陽炎のように揺らめかせていた。
(トモ…ロイルさん…)
そのまま二人に視線を移すと、二人は笑顔で親指を立てていた。
(やった…ぜ…)
それに答えるように俺も…いま出来る精一杯の笑顔で親指を立て…
(あ…)
ドサッ
「「リョウ!」」
最後に…床の冷たさを心地よく感じ…意識を飛ばした。