第十八話 弐
自分の展開の遅さが嫌になる…
あ、あと、基本プロットは詳しく作っておらず、その場その場で登場人物の動きを考えているので、不自然な展開になってしまうこともあるかもしれませんが…呆れずに読んでくだされば幸いです。
◆トモside◆
「なあ、親父…」
「…なんだ?」
視線を、背を向けているリョウから親父に移す。
親父はリョウを見たまま、わざとらしいくらい重々しく応える…さすが親父、息子の言いたいことくらいお見通しってことか。
「何でさっき…止めたんだよ…」
「……………」
「何で…リョウに言っちゃいけねえんだよ…」
「……………」
「おかしいだろ…!?リョウには知る権利があるはずだ…!」
正直大声で問いたいが、リョウの集中を乱さないように抑える…
「今アイツは自分の意思で、自分を知りたいってこの世界に来たんだ。これはつまり、リョウに『本当のこと』を教える時が来たってことだろ?」
俺は親父を睨みつけながら責め立てる…どうしてもさっきのことが納得いかないからだ。
飯の前の話し合い…あの時は不意打ちで…
いや、違うな…あの時、俺はびびったんだ。こっちに来る前に誓ったにも係わらず…いざ話すとなると、怖くなったんだ…リョウとの関係が壊れるのが…
だからあの時は話を逸らした…けど…心ん中じゃわかってたから…『先延ばしにすることに何の意味があるんだ』って…
だからさっき…覚悟を決めて話そうとしたのに、その覚悟も結局何も成し得ることなく散ることになった…親父のせいで…!
「俺は…俺から話したいんだよ…!全部を…!」
それが俺の…せめてもの償いでもあるから…
「なのに何で親父は…」
「トモ」
「…なんだよ?」
「…魔法を使うためにまず必要なことはなんだ…?」
「…は?」
何だ…いきなり…
「いいから答えろ。何だ?」
「…魔力を…扱えるようになること…」
「ああ、そうだな…それじゃあ、魔力を扱えるようになるにまず必要なことは何だ?」
「…魔力を…認識すること…」
…何なんだよいきなり…こんな当たり前のこと聞いて…ごまかそうとしてんのか…?
「そうだ…それじゃあ…何で認識することが必要なんだ?」
…正直もう我慢の限界だ…
「いい加減にしろよ…!俺はこんな下らねえことを話そうとは…」
「下らなくなんかねぇよ。リョウを守るためには大事なことだ…」
「…!」
親父の…何の感情もないひたすらに真剣な声…そして、『リョウを守るため』と言う言葉に驚き言葉を失う。
「答えろ。何だ?」
「…魔力は血とか筋肉とみてぇな肉体的なエネルギーじゃなぇ…精神的なエネルギーだ。認識を…つまり自分に魔力があることを知らねぇと…無いのと同じだ」
血は流れれば分かるし、筋肉だって動かすことは出来る…心臓は鼓動を感じることができる…だけど魔力は精神的な力…何もせず生きてれば…一生感じることはできねえ。
「そうだ。完璧な解答だな…さすが俺と『アリビア』の子だ」
後半は聞き流した。
…俺の気は全く納まってない…未だに親父の意図が理解できないから…
「なあ…さっきから何なんだよ…?」
「いいかトモ…リョウに全てを話す…これは確かに大事なことだ…リョウにも当然その権利はある」
「それじゃあ…!」
「だけどな…それは…リョウが『あの力』を知るってことだ。望んでもいない…求めてもいない…ただ手に入れちまった力を…」
「……」
「一度自分に力があると知れば、扱えるようになっちまうんだ…しかし、あの力は…強大過ぎる…。扱おうとした本人が呑み込まれる程に…な」
「そんな強え力…なのか」
俺はその力は分からない…その時はまだこの世に生すら受けてなかった。
だけど親父は違う…実際その力を『目の当たり』にした一人…その言葉には言い知れぬ重みがある…でも…
「そ、それなら…扱わないように言えば…」
そうだ…リョウだって…いや誰だってそんな危険な力…進んで使おうなんてしないだろ…
「トモ」
「…………」
「リョウは…良い奴だな」
「え…?」
親父に呼ばれ反射的に黙ったが、急な話題転換に思わず声を出した。
「お前を恥ずかしげも無く親友だって言ってたよな…それに、飯の時にこの世界のこと、向こうの世界のことを話してるお前たちは…本当に楽しそうだったしな…」
そう言う親父の表情は…優しかった。
それにしても…わざわざ見てたのかよ…
「ああ…一番の親友だよ」
「ハハ…親としても嬉しいぜ…あんな良い奴が親友だってんだからな…」
「…当然だぜ…」
「…だけどな…」
そこで不意に親父の表情が変わった…
そこに優しさは無く、先ほどの真剣な色に戻っていた。
「今回は…それが致命的なんだ」
………え?
「…どういうことだよ…?」
「いいか…リョウはこれからお前たちの仕事を手伝うことになる…それに、レンバルにも来るようになる」
「……………」
「必然、お前たちも危険な場面もあるだろう…そこで予想外のこと…例えば渡ってきた魔物が強すぎたりした場合…命の危機にも直面する…」
…たしかに…今までは俺とユリナ、たまに真由子さんたちに手伝ってもらって、渡ってきた魔物は倒せていた…けど、有り得ない話じゃない…俺達よりずっと強い魔物が渡って来ることも…
「お前はその時…リョウならどうすると思う…?」
「…!」
「大切な奴らの命の危機…その時、力を知っているリョウは…どうすると思う…?」
…決まってる、アイツなら…リョウなら間違いなく使うな…それが例え自分を失う力だと分かっていても…『仲間が救えるなら』ってな。
アイツは凄ぇトラブル体質だけど、それと同じくらいお人好しだからな…(本人は否定してるけどな…)その場面でリョウは絶対、使うのは厭わないだろう。
「…やっぱ分かってるみてぇだな…」
親父…俺が考えてたこと分かってたか…
「それに…だ…」
「…?」
「もしリョウが力を使って自我が消えたら…お前は『本来の仕事』をしなきゃいけねぇんだぞ…?」
「!」
「俺だってリョウには全部知ってもらいてぇ…だけどな…リスクがでかすぎる…危険が…でかすぎるんだ…」
親父…
「だからって…おそらく一生隠し通すのは無理だ…それにまずそんなことはしたくねぇ。だからせめて…『アイツの抑え』が効いている間だけでも…秘密にして起きてぇんだ…分かるな?」
「ああ…ごめん」
親父に気づかされた…俺は…自分のことしか考えてなかった。ただ自分が話さないといけない、それが償いになると思って…自己満足に浸ろうとしていた。
教えた後…関係が崩れるとか以前に、その力がリョウの体に…心にどんな影響があるかなんて考えてなかった。
(ハハ…バカだな…俺は…)
湧き上がるのは、自分への怒り、呆れ、軽蔑…俺は何がしたかったんだ…?ただリョウを危険に晒そうとしただけじゃねぇか…!
じっと床を見て歯を食いしばり、自分を責めていると、親父の声が聞こえた。
「んな落ち込むな。お前は焦ってただけだ。今日急にレンバルのことを教えることになったんだからな…」
顔を上げて親父を見ると、向こうも俺を見ていて優しく言葉を紡いだ。
「それになお前たちならきっと、どんなことがあっても親友であり続けると思うぜ。何たって…世界を越えた信頼関係があるんだからな…」
(…やっぱ…親父には頭上がんねえや…)
親父の声が心に響く…俺とリョウのことを信じきってくれてる…それが嬉しくて…また床を見つめそうになり…
「おい!!リョウ!!しっかりしろ!!」
…親父の驚きと焦りが混じった声が聞こえ、弾かれたようにリョウを振り返る…
そこで俺の目に飛び込んできたのは…
(リョウ…!?)
全身を震わせ床に倒れているリョウの姿だった。