第十八話
どうしてこうなった…
◆竜矢side◆
『リョウはまず…自分の中にある魔力を認識しねぇとな』
『認識…ですか』
『ああ…んで今度はお前が自分で魔力を引っ張り出すんだ…なに、もう一回出てんだからそんな難しいモンじゃねぇ…それどころか、認識なんざ魔法を知らねえ奴でも一時間もあれば出来ちまうんだからな!リョウにとっちゃ出来て当然!って感じだな』
『…そんな簡単なんですか?』
『ああ…認識は…な…じゃあ、手順を教えっぞ?まずは…』
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…体に意識を向けやすくするために目を閉じる…
…そして、呼吸を静かに…深く…意識を心臓に向ける…
ドクン…ドクン…
視界が遮断され、周囲から物音一つない今、心臓の鼓動がさらに大きく…はっきりと感じる…
そして、このまま俺は…『心臓の脈打つ姿が見える程強く』と言うロイルさんの言葉を意識して、更に強く…深く意識を向け続けた…
……………
何十秒…いや、何分こうしていたのか…ひたすらに意識を集中していたから分からない…
けれど、時が過ぎるにつれて…感じられるようになった…
心臓の位置から感じるのに、心臓の鼓動とは全く違う…『何か』の鼓動…
それは、心臓の鼓動を『ドクン…』と表すなら、『トクン…』という静かな…それでいて力強く心地よい…暖かい鼓動…
これが…この世界を支える力…『魔力』…か…
…多少さばを読んでも認識には十分とかかってないよな…やっぱ無意識に魔力を使ったのがデカいアドバンテージだったか…
無事に魔力を認識したことに安心はするが、気は緩めない。まだやることがあるからな…
次にやるのは…手順の中でも一番危険な段階…魔力の『操作』…
ロイルさん曰わく『こっからが正念場』らしい…
俺は、今の状態を崩さないように…次の段階へと意識を移行する…
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『…暴発…?』
『そうだ、それが〔操作〕が一番危険と言われる理由だな』
『どういう現象なんですか?それ…』
『ああ~…まあ簡単に言やぁ、認識したばっかの体に馴染んでねえ魔力が、制御のミスでそいつ自身を傷付けちまうことだ』
『…え~と…具体的に言うと…?』
『そいつの属性によるんだが…まあ…自分の魔力に襲われるっつうのが妥当だな。例えば…〔火〕の属性なら体が燃え上がる…〔水〕なら体が水に覆われて陸上で溺れる…〔氷〕なら…』
『分かりました!も、もういいです!』
『なんだ…まだまだあんのに…』
『(これ以上は聞けねえ…)…暴発怖…』
『大丈夫だってリョウ。お前は才能があるだろうから、よっぽどのことがねぇと暴発なんかしねぇから』
『そ…そうか』
『まあ、才能がある分魔力も強いだろうから、暴発したらその分反動も強えだろうな…下手したら…吹っ飛ぶかも…な』
『……………』
『ブハハハハ!んな顔すんな!もし何か起きたら俺とトモでどうにかしてやっから!!な!』
『おう!だからリョウ、大船に乗ったつもりで頑張れよ!』
『………(泥船のような気がする)』
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…ハッ…!駄目だ駄目だ…限りなく不安だけど集中しないと…!
…まず…認識した魔力をゆっくり…少しずつ頭へ移動させる…
う…魔力が移動している感じ…少し気持ち悪いな…すぐ慣れねえと…
…次に…頭にある程度の魔力が溜まったら…今度は体中に移動させる…頭から首へと首から右肩…右腕へ…
『移動させる魔力が多すぎたり、移動する速さが遅かったりして、魔力が停滞し過ぎると暴発するからな』
ロイルさんの言葉を意識して、流す量は少量…流してる部分が微かに暖かくなる程度…
右足に通して右半身から左半身…左足へ…胴から左腕…左手の指先まで…んで左肩…そして…首から頭へと…
そしたら…今度はもっと速く…量を増やしてまた体中へと…これを…魔力で体が熱くなるまで…
………………
…体中が熱い…のぼせてるみたいだ、でも意識はしっかりしてる…かいている汗は熱さと緊張のせいだな…
ある程度の量の魔力を流せた…
次に、流している魔力を一旦全て心臓へと戻す…
体中の魔力がなくなり、熱も治まってきた…今度は…魔力を一気に体中へと流す…操作の最終段階…
………………
呼吸を深く…意識を集中する…イメージは、心臓を中心に…魔力が波紋のように体中に行き渡る感じで…
心臓から…魔力を一気に流す…!
…ドクン…!
「…く…う…」
…これはきついな…
予想以上の衝撃に体がぶれたが、なんとか踏みとどまる。
腕…足…頭の隅々に魔力を一気に流したからか…体がメチャクチャ熱い…魔力が皮膚の下で凄ぇ蠢いてるのが分かる…
「はあ…はあ…」
息が自然と荒くなる…熱いのに…体の震えが止まらねえ…
…ドクン…!
…とりあえず、体に魔力は行き渡った…
だから今度は魔力を戻さねえと…このままじゃ何となくヤバい気がする。
魔力を戻すのは…波紋が戻るようなイメージ…!
体中の魔力を逆に…一気に心臓へ…!
…ドクン…!
あ…れ…?
くっ…もっかいだ…落ち着け…波紋が…逆再生するイメージ…!
…ドクン…!
「がっ…!」
駄目だ…魔力が…戻らねぇ…暴発…か…
…ドクン…!
「ぐっ…」
…駄目…だ…立って…らんねぇ…
…ドクン…!…ドクン…!
…体が熱い…魔力が勝手に体中を巡ってるのが分かる…さっきとは違い自分の意識で流してるわけじゃないから…体が…血が…脳が沸騰するんじゃないかという程熱い…
「おいリョウ!!しっかりしろ!!」
いや…ロイルさん…しっかりしてぇけど…無理だ…これ…
…ドクン…!
駄目だ…どうやっても魔力が戻んねぇ…体ん中で暴れまわってる…
く…意識が…熱に…魔力に呑まれる…
…全身には力が入らない…魔力に反応しているのか、俺の意思に関係なく手足は震えている…
…もう…ムリ…ぽ…
…そう俺が諦めかけた時…俺の耳に届いたのは…
「おい!!へばってんじゃねぇ!!立てよ!!リョウ!!」
凄ぇ聞き慣れた…大親友の声だった…
「リョウ!!気張れ!!大人しく死ぬ玉じゃねぇだろ!!お前は!!」
…トモ…
…そうだ…
…そうだよ…何で俺…ネ□みてぇに素直に意識飛ばそうとしてんだ…?
…俺が自分で…覚悟してやったことだろうが…!最後まで抗わねえでどうすんだよ…!
トモの叱咤に薄れていた意識が覚醒していく…
ミリアを助けた時…俺は最後まで諦めなかった…なら…今回も最後まで…しっかりしろ!!
「くっ…あ…ああ!」
震える体に力を込めて起き上がる…唇を噛み締め、腕に爪を立て意識を起こす…
まだ諦めんのは…早すぎるよな…
「はあ…はあ…」
なんとか意識を立て直し、なんとか膝立ちの状態にまで持ち直した…けど…未だに戻そうとしても…体中を奔流している魔力は戻るどころか…止まってもくれない…
このままじゃ結局…ジリ貧だよな…
どうする…?
どうすればいい…!?
「リョウ!!最終段階に入れ!!」
…!ロイルさん…
「ちぃと手荒だがしょうがねぇ!!そのままでいたらマジに吹っ飛ぶぞ!!」
…んなもん…却下っすよ…
「ビビんな!迷うな!バシッと決めろ!」
「そうだ!リョウ!男を見せろ!!」
…ハハ…
こんな状態なのに、笑いが込み上げる…二人の声が…俺に力をくれる…
…やるか…!
やらないで吹っ飛ぶんなら…やるだけやってる…!
…ドクン…!
「くっ…」
体内の魔力の奔流に怯みながらも、意識をかき集めて集中する…
…意識を強く…ロイルさんによれば、最終段階は本来そんなに難しくない…出来るはず…いや、やってやる!
俺は居直り…呼吸を深く…意識を落ち着かせる…
…よし…やるか…最終段階…『魔力の放出』を…!