第十四話
◆竜矢side◆
「…ョウ…リョウ!」
「う…」
名前を呼ぶ声と体を揺すられる振動に意識が覚醒する…
「お、起きたな~リョウ」
「…ここは…」
俺…いつの間に倒れてたんだ…とにかく体を起こして周囲を見渡す。
暗いが足元にある魔法陣の光のおかげか…今俺達が居る場所は分かった。
…床、天井、壁、全部石造りみたいだな…窓がないから(もっとも…例えあってもこの時間じゃ光は入らないだろうが)部屋は暗く、唯一の光源である魔法陣の光を頼りに観察をしたが魔法陣以外には何も…他には階段くらいしか…
……階段?
「なぁ、ここ…地下室なんか?」
暗いし窓無いしなんかヒンヤリしてるし…
「ああ、その通りだ…ここはレンバルの…」
やっぱ来たんだな…レンバルに…!
「…レンバルの…俺の家の地下室だ!」
「そうか~!トモん家の地下室か~…初めて来たよ!トモん家!そうか…レンバル…の…な…」
…レンバルの…トモん家…?
「…何でお前ん家がレンバルにあるんだ?」
「だって俺ホントはレンバルの住人だし?」
「……………」
………駄目だ…此から知ることとか起こることに一々反応してたら身が持たん…聞く時間は沢山あるんだ…取りあえず納得していこう…
そしてそのキョトン顔を止めろ…なんかムカつく…
「ああそう…で?これからどうするんだ?」
取りあえずこの息苦しい部屋からは出たい…
「おし、じゃあちょい待ってろ。リョウが来たこと言ってくるから」
「お、おお」
俺の返事を聞くと、トモは階段を上がっていった。
「………ふぅ」
何か…人生って何が起こるか分からないな…今朝までは普通の学生だったのに、今は異世界旅行者…事実は小説より奇なり…とか昔の人は言ったみたいだけど、本当にその通りだ。
ミリアを助けて…不良に絡まれて…化け物に遭遇して…ミリアが助けに来てくれて…そして…
「………あ」
そうだ…あの時俺…手に炎が…
「…そうだよ!」
俺はまだ俺の体に何が起こったのか知らされてないぞ!?
…そうだ…あの時急遽レンバルに行くことが決まったから、その騒動のせいで…
「………はぁぁ…」
炎を纏うとか…火拳のエ〇スじゃあるまいし…つーか俺その後グローブはめてたよな…?
俺の体…どうなってんだよ…
『レンバルで発達してるのはな…まあアンタが察している通りだ…』
『…魔法だよ』
……いやいやいや…
真由子さんの言葉を思い出して…直ぐに否定する…
ミリアが魔法を使ったのはまだ分かる…レンバルから来たって言ってたしな。
でも…俺が使えるのはいくら何でもおかしいだろ…魔法なんて…ミリアが使うまで見たこともなかったし、真由子さんの話を聞くまで、実在するとすら考えてなかったんだから…
…でもそうすると、俺の体に何が起こったんだ…?あの現象を一番納得できるのは…魔法しか…でも俺は魔法を…
…………………
…ああ~!!もう訳分からん!!もう考えるのも嫌だ!!
「……はぁ」
もういいや、今度また真由子さんに聞こう…いや、万が一魔法関連なら、トモに聞いても分かるか…?…あいつレンバルに住んでるって言ってたしな…
…そういや俺…トモの住んでる所なんて全然知らんかった…まさか異世界の人間だったとは…幼稚園の頃から親友だけど、遊ぶ時はほぼ外だったから…家で遊んだのは俺ん家が数えるくらいだったからな…。
「おす、待たせたな。親父達丁度上に居るから、ついてこい」
「…ああ」
まあトモが異世界人だろうが宇宙人だろうが俺にはさほど関係ないよな…俺とトモはもう絶対に切れない繋がりがあるんだから…
※※※※※※※※
「ああそうだ、一応言っとくんだけどよ」
地下室の階段を上がり扉の前に来た時、トモが口を開いた。
「何だ?」
「親父よ、ちょっち怪我を負ってんだけどさ、気にしないでくれな…」
「ああ、別に気にしねぇよ」
「ま、リョウならそうだろうな」
「それよりよ、よく考えたら…言葉って通じるのか?」
地球では外国ですら全く言葉が違うのに、ましてや異世界だろ…まさかレンバルでも日本語を使ってるはずないよな…つーか使ってたらいくら何でも驚きだ。
「ああ、それなら大丈夫だ…こっちに来た魔法陣あったろ?あれには翻訳の魔法も組み込まれてるんだよ。けっこう高性能のな…他にも多少の重力の違いを整えるための身体魔法に…空気中の成分の違いで気分を悪くしないための精神干渉と治療の魔法…あと何かイロイロと組み込まれてんだ」
「…よく分かんないけど、すげえな…あの魔法陣作った…て言う二人…」
ただ世界を渡るための魔法陣だって難しいだろうに、さらにそこに補助的なものまで組み込めるとは…
「ああ、本当にすげえんだぜ!リョウのおy…」
「ん?俺がどうかしたか?」
「い、いや!何でもねえ!」
「…?まあいいや、それより行こうぜ。トモの家族に会うなんて初めてだからな…楽しみだ」
「あ、ああ…まあ、あんまり期待すんなよ」
ガチャ…
「お~い!親父!おふくろ!連れてきたぞ~!」
トモが言いながらドアを開いた。
トモに続きドアを入ると、廊下にでた。
俺達が立っている場所から一本通路が伸び、五メートル程で右に曲がっていて、左右の壁には一、二枚のドアがあった。
電灯と変わらない明るさに上を見ると、ランプ…カンテラ…?のような物がぶら下がっていて、その中は火ではなく、何か球状の物体が発光している…
…と、ここまで観察したところで右の壁のドアが開き、黒髪で綺麗な女性と…続いて、同じく黒髪で大柄な男性が出て来た。
「あなたがリョウヤ君ね?…ようこそレンバルへ」
「あ、はい…」
何か…こう言うのはアレだけど、凄い女性的な人だ…今の声と言い笑顔と言い…
「いろいろあったみたいで、疲れたでしょう?とりあえずリビングn…」「お~す!!お前がリョウヤだなぁ!?よくきたなぁ!!」
「は、はあ…」
何か…こう言うのはアレだけど…凄い人だ…デカい体に…真っ赤な顔…いやこの人どう考えても酔ってるだろ!?その右手に持ってんの酒瓶だよな!?…それに…
「どうだぁ!?取りあえずイッパいぶらぁ!」
……………ゑ?
「フフ…少々お待ちくださいね」
………………
ズルズルズル…
「…………」
「……スマン」
「……いや」
脳裏で先程の女性の大和撫子の笑顔にヒビが入るのを感じながら、顔面に拳を叩き込まれた『左腕の無い』男性が引きずられて廊下を曲がってくのを呆然と見ていた。