第十三話
◆竜矢side◆
一人しりとりをやっていて気づいたことがある。
ン〇ゥールとンジャメナって…使えねえよな…しりとりって確か、言葉の最後に〔ん〕がついた〔時点で〕勝敗が決まるじゃん。
つうか、モロ敵に塩だよな。
「済まんなリョウ、待たせた」
そんな事を考えていたら、話は終わったのか真由子さんとトモが戻って来た。
「暇させちまって悪かったな~リョウ」
「いや気にすんな、しりとりの上手い仕組みに気づいたから…」
「は?」
いやそんな事はどうでもいいか…
「それより、トモ」
「ん~何だ?」
「真由子さんと何話してたかは知らんが、元気出したか…?」
なんかトモの雰囲気…がさっきまでとは違う…いや、これが何時ものトモだな…さっきまでのトモは…珍しく落ち込んでた…つ-か、いつものテンションじゃなかったしな。
「…ああ。悪かったな、何か心配かけて…」
「いや、気にすんな…けど何かあるんなら、俺にも相談しろよ?幼稚園の頃からの付き合いなんだしな」
「…リョウ!…お前ってやつは~!!」
俺の言葉に感極まったらしく、腕を広げて抱きついてこようとしたトモに、静かに笑いかけて…
メキャ…
「ぶはっ!」
回し蹴りを叩き込んだ。
「な…なぜ…?」
「いや、いくら親友でも野郎に抱きつかれるのはちょっと…」
「ひどくね!?お前今のは二人抱き合って、深く厚い友情を再確認する場面だろ!?」
あ、真由子さんが先に行ってる…
「待ってくださいよ!真由子さん!」
「ねえ無視!?無視なの!?さっきの言葉信用出来なくなったわ!」
後ろから聞こえる声をスルーして、真由子さんに近づく。
…でも、元気になったみたいでよかった…
※※※※※※※※
「ほら、入るぞ」
その後もグチグチと言っているトモの言葉を聞き流しながら歩き、寮に到着した。
俺は真由子さんに用がある時などたまに来るが、ここは学生寮としては上等だと思う。
個々の部屋にキッチンや風呂があるのにもかかわらず、一階には食堂や大浴場、談話室まであり、かなり充実したものとなっているが、(食堂は希望者が利用し、大浴場は男女の利用時間を守っていれば自由に入れる。)神学は近くから通う生徒達が多く、今寮に居るのは二、三人と聞いた。もったいないな。
そして真由子さんも現在寮に住んでいる(寄生しているとも言う)。
「ほら、この部屋だよ」
真由子さんがそう言って立ち止まったのは、二階に上がって直ぐの部屋だ…プレートには〔101〕と書いてある。
「此処…ですか?」
ドアを見る限りは、何の変哲も…ん?
「あの、このドア…鍵ないんすか?」
一カ所あった。このドアのドアノブには鍵穴がない。
他のドアを見てもやはり鍵穴はあるので、此処だけが変なのか。
「いや、このドアを開けるのに鍵は必要ない…こうやるんだ」
そう真由子さんがドアノブを握った直後、カチリと言う音が響き、ドアが開いた。
……指紋認証?
「早く入れ、他の生徒達に見られたくないからな」
「あ…はい」
真由子さんの声に促され…とりあえず部屋に足を踏み入れた。
「あ、リョウ、靴は履いたままでいいぞ」
「おう、分かった」
※※※※※※※※
「これ…は」
部屋に入った俺は、目の前の光景に息をのんだ。
部屋の中央には半径二メートル程の円が描かれて、その中にも俺が見たこともない文字?や図形が沢山描かれていた。
しかもその模様もただ無造作に描いたわけではないようで、文字?や図形が綺麗に組み合わせられて、それ自体一つの絵のように綺麗な絵画のような雰囲気が感じられた。
そして極めつけは、描いている線が、淡い緑色の光を放っていることだった。
部屋には電気がついておらず、唯一の光源であるその絵は静かに、そして綺麗に光続けている。
「リョウ…これは何だと思う?今のアンタなら分かるはずだよ」
…確かに、これと同じようなものは、ゲームや漫画で見たことがある…
「…魔法陣…」
目の前のものは、正にそれだった。
「正解だ…これは先程の話に出て来た男女が、レンバルにある地球に戻るための転移魔法陣を元に造り上げた、レンバルへの転移魔法陣だ」
「…と言うことは、これで…?」
異世界…レンバルへ…?
「またまた正解」
「いよいよだぞ…リョウ」
トモの言葉に、『未知』に対しての興奮と緊張が高まる。
「よし、行くか!魔法陣の中に入るぞ!…と言いたいところだが…」
「…え?」
「整備不良だ。この魔法陣に残っている魔力が少ない…これじゃあ行けんな」
「えええええ!?」
今なんか魔力とか言う単語が聞こえたのはスルーするとして…ここまで引っ張っといてそうゆうパターンかよ!
「五月蝿い。慌てるな、今魔法陣に魔力を込めれば起動する」
「な、なんだ…」
「と言うわけでアタシは行けん。トモ、リョウを頼んだぞ」
「…え?」
「しっかり案内してやるんだぞ!」
「お、俺だけですか!?」
「これはもう決定事項だ。意見は認めん。ほら分かったらさっさと魔法陣に入れ」
「トモ、とにかく入ろうぜ」
「…そうだな…」
本当は真由子さんが一緒に来てくれたほうが更に心強いんだけど…まあ、仕方ないか…
「よし、入ったな。じゃあ起動するぞ」
そう言って真由子さんは目を閉じ、魔法陣に手をかざした。
「!?」
それと同時に魔法陣の光が強くなり、部屋の隅まで照らし出した。
「リョウ!大丈夫だからじっとしてろよ!怖いんなら手ぇ繋いでやろうか!?」
「馬鹿野郎!いらんわ!」
トモの冗談には返事をしたが…駄目だ…光が強すぎて目を開けてられない。
瞼を通して感じる光の強さにビビりながらもじっと立ち尽くす。
「よし、転移するぞ!」
「行ってきます!!真由子さん!!」
「ああ!楽しんできなリョウ!!リョウのこと頼んだよトモ!!」
「「はい!!」」
「行ってこい!魔法陣発動!!」
「くっ…」
真由子さんが言うと同時、目を閉じていても眩しい程の光を感じ…
意識が…飛んだ…。
◇竜矢side◇out
◆ side◆
電気の付いてない部屋の中で、先程リョウとトモを転移させた魔法陣を見ながら真由子が佇んでいた。
魔法陣は転移した時の輝きが嘘のように静かな光を発し続けている。
ただ一つ変わったところと言えば、起動する前は緑色だった光が白色になっているところだろう。
「…遂にこの日が来たね…」
ふいに真由子が口を開き、視線を上げた。
「あの楽しみな顔…リョウはやっぱりアンタ達の息子だよ…」
真由子はそう言うと、踵を返しドアへと歩き、ドアノブに手を掛けた。
そこで部屋を振り返り、もう一度魔法陣を見て…
「リョウはこれから…アンタ達が見てきた景色を見るよ…まあ…見守ってやりな…美矢…竜摩…」
そう呟き、部屋を出た。
誰も居なくなった部屋では、綺麗な模様が描かれている魔法陣が、白い光を静かに放ち続けていた。